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月夕に落ちる雨の名は
15 北島鈴 3
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「……すみれ」
鈴が菫を思うのと同じように。
あの狐も菫を手放すつもりなんてなかったかのかもしれない。
ぞわ。と、背筋の毛が逆立つような気がする。
菫を確実に手に入れる機会をうかがっていたのかもしれない。
あの狐の力が消えかかっていたのには気付いていた。そんなものたちはたまに見かける。打ち捨てられた小さな祠や社に寄り添うように消える日を待つものたち。そんなものたちのほとんどは、誰も恨んではいないし、消えることを嘆いてもいない。どこか、安堵にも似た表情を浮かべて、その日を待っている。
けれど、もし。手に入るのだとしたのなら。
生き延びるためではない。ただ、愛おしいものと共に消えたいと思っていたのだとしたら。
ああ。
と、鈴は心の中で呟く。
許すのではなかったと、心の中から何かが湧き上がってくる。最初に会ったあの日。あの寒い冬の夜に、始末しておけば。
湧き上がったものが、血液に溶けて身体を巡る。
知っている。
これは、怒り。だ。
鈴は思う。
自分から、菫を奪うものを許すことができそうにない。それが例え、菫の望みであったとしても。
だん。
と。拳で壁を殴りつける。そんなことで、感情が収まるとは思えなかったけれど、何もしないでいたら、沸騰しそうだった。
「あの狐、許さない」
感情は沸騰しそうだというのに、呟いた声は、自分でも驚くほどに冷たい。まるで氷を吐くようだ。
「そんな縁……」
断ち切ってやる。
と。口に出さずに呟く。言霊が氷の刃になったようだ。その刃はさっきまで鎖を巻かれたように動けなくなっていた足を自由にした。
一瞬。何かが聞こえたような気がした。
それが、鈴の音だったような気がする。小さく、悲し気に鳴ったそれをあえて無視して、鈴は歩き出した。
鈴が菫を思うのと同じように。
あの狐も菫を手放すつもりなんてなかったかのかもしれない。
ぞわ。と、背筋の毛が逆立つような気がする。
菫を確実に手に入れる機会をうかがっていたのかもしれない。
あの狐の力が消えかかっていたのには気付いていた。そんなものたちはたまに見かける。打ち捨てられた小さな祠や社に寄り添うように消える日を待つものたち。そんなものたちのほとんどは、誰も恨んではいないし、消えることを嘆いてもいない。どこか、安堵にも似た表情を浮かべて、その日を待っている。
けれど、もし。手に入るのだとしたのなら。
生き延びるためではない。ただ、愛おしいものと共に消えたいと思っていたのだとしたら。
ああ。
と、鈴は心の中で呟く。
許すのではなかったと、心の中から何かが湧き上がってくる。最初に会ったあの日。あの寒い冬の夜に、始末しておけば。
湧き上がったものが、血液に溶けて身体を巡る。
知っている。
これは、怒り。だ。
鈴は思う。
自分から、菫を奪うものを許すことができそうにない。それが例え、菫の望みであったとしても。
だん。
と。拳で壁を殴りつける。そんなことで、感情が収まるとは思えなかったけれど、何もしないでいたら、沸騰しそうだった。
「あの狐、許さない」
感情は沸騰しそうだというのに、呟いた声は、自分でも驚くほどに冷たい。まるで氷を吐くようだ。
「そんな縁……」
断ち切ってやる。
と。口に出さずに呟く。言霊が氷の刃になったようだ。その刃はさっきまで鎖を巻かれたように動けなくなっていた足を自由にした。
一瞬。何かが聞こえたような気がした。
それが、鈴の音だったような気がする。小さく、悲し気に鳴ったそれをあえて無視して、鈴は歩き出した。
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