真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

15 北島鈴 1

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 突然鳴る電話の音はどうしてあんなにも人を不安にさせるのだろう。

 家の電話の音が聞こえたとき、鈴は何故かそんなことを考えた。気のせいというには明確で、予感というには不確かで、不穏な何かが、心の奥の方から湧き上がってきたからだ。
 鈴は一戸建ての家に一人で暮らしている。もちろん、家は鈴の持ち物ではなく、鈴の父の名義だ。両親は今は共に海外で仕事をしていて帰ってくるのは多くても年に一回。正月くらいだ。兄弟は姉が一人。隣の市で彼氏と同棲している。頻繁に家に顔を出してはくれるが、基本的に鈴の方が几帳面だし、家事も得意だから面倒を見てくれるわけではない。ただの生存確認。と、いうよりも、彼氏と喧嘩をして家に居づらくなって避難してくるだけなのだ。
 だから、広い家に、鈴は一人だった。
 そんな大学生独り暮らしの家の家電に電話がかかってくるとしたら、殆どが世論調査か、太陽光発電の宣伝ばかりで、時折近所の自治会の連絡網が回ってくるくらいだった。

 いつもなら、無視していたと思う。居留守を使えばそのうち留守電に切り替わる。自治会の連絡網ならそこにメッセージを残してくれるから、問題ない。もちろん、友人が家に電話をかけてくることなんてあるはずがない。大体において家の電話番号を教えている友人はいない。

 とにかく、強いて電話に出る必要はなかったのだ。
 けれど、鈴は電話の前に立った。
 そして、ふと、不安に駆られた。
 3回。4回。コール音は続く。嫌な音だ。不安と一緒に焦燥感を煽られる。電話というものの特性上当たり前なのだが、早く出ないと。と、いう気持ちにさせられる。
 5回。6回。受話器に手を伸ばす。不安で、焦るのに、取りたいという気にはならない。悪いことがあるのではないかという不安を現実にしてしまいそうだとか、何か悪いことがあるのではと不安になっている自分自身がみっともないとか、理由はいくつかあった。
 7回。8回。もう少しで、留守電に切り替わってしまう。切り替わってからでも電話に出ることはできるのだから、慌てる必要などない。
 9回。
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