真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

13 出張緑風堂 2

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「いい面構えじゃねえか」

 物おじしない菫の態度に、不意ににか。っと、笑顔になって、老人が言った。

「市の職員がここの掃除を始めたってえから、何の嫌がらせかと思ったが……兄ちゃんみたいなのが、独りとはなぁ」

 そう言って、老人は菫に背を向けて、茂みの向こう側に止めってあった軽トラに向かって歩き出した。いつの間に軽トラが来たのかは気付かなかったけれど、老人が乗ってきたものらしい。

「ええっと。あなたは……」

 後ろについて歩いて問いかけると、軽トラの荷台を探りながら、首だけで老人が振り返る。

「ああ??」

 耳が遠いのか、振り返って大声。

「ええっと。俺は池井菫って言います! あなたのお名前は?」

 だから、菫も大声で返した。

「菫? おお。仲間か?」

 菫の名前を聞いて、老人はからから。と、高く笑う。このくらいの年齢のお年寄りに名前を言うと大抵女みたいだと笑われる。けれど、仲間とはどんな意味だろう。

「俺は、小松檀(こまつまゆみ)だ。女みてえだろ?」

 にか。と、笑う前歯が欠けている。同じような女性のような名前を持っていることに親近感を持ってくれたらしい。

「ホントだ。仲間だ」

 菫が笑い返すと、老人はトラックの荷台から草刈り機を下ろした。燃料タンクとエンジンを背負うタイプの大型のヤツだ。

「あの。それは?」

「俺はここの氏子だ。他人がやってんのに放っておけるか」

 そう言って、さっさと準備を始めてしまう。

「区の決まりだかで、勝手に立ち入り禁止にされちまったがな。俺は納得してねえ。若けえもんが勝手に決めただけだ。一緒に反対する氏子も皆年取っちまって、新しい住宅地のヤツらはガキどもが遊ぶのがあぶねえとか抜かすしよ」

 地面に下ろした草刈り機を見たまま、老人・檀は言った。さっきまではとても豪快な人に見えていたけれど、その背中は寂しそうだった。

「母ちゃんが区の決まりには従ってくれって半泣きで言うから、諦めたんだ」

 そう言って、檀は力いっぱいにロープを引いた。

「他人がやっていいなら、俺もやるぜ。まあ、母ちゃんも死んじまったし、息子たちも出てっちまったからな。誰にも迷惑はかからねえ。あんたと同じだ。好きにするさ」

 エンジンの音が響く。老人が上げる鬨の声のようだった。だから、菫はただ頷く。

「よろしくお願いします!!」

 エンジンの音に負けない大声で菫は言った。
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