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月夕に落ちる雨の名は
12 迷惑? 1
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想像していた通り、丸一日経っても鈴からの返事が来ることはなかった。わかっていたけれど、辛い。辛いけれど、返事が来ないうちは、まだ、可能性があるかもと、思っていられる。
きっと、誰かに話したら、往生際が悪くない? と言われるだろう。だから、もちろん誰にも話さない。
誰がなんと言おうと、鈴に言われないうちは、待とうと心に決めた。たとえ、何年経っても、待っていることは自由だ。遠くで思っている分には迷惑にはならない。と。思う。迷惑かな。
ただの悪足掻きだとはわかっている。普通に考えたら、既読がつかない時点でダメ確定だ。いくら怒っていても、付き合いを続ける気なら既読くらいはつけるだろう。既読スルーの方が怒っているのは伝わる。けれど、既読かつかないってことは、相手に興味がないってことだ。怒っているよりもたちが悪い。
そんなふうにフェードアウトを狙って放置している相手から、ずっと、好きだと思われていたらやっぱり迷惑だろう。
もしかしたら、怖い。と思うかもしれない。
これは、俗にいうストーカーなんじゃないだろうか。現実に追い回したりしなければ、ギリセーフだろうか。
いや、大量のメッセージを送るのもストーカー行為の一種だ。
でも、菫は今日はメッセージを送ってはいないし、鈴の返事が来るまではもうメッセージを送るつもりもない。毎日一言のメッセージくらいなら大量とは言わないだろう。多分。無理があるか?
そんなことを考えながら、今日も菫はあの社にいた。まだ、日が長い時期だから、仕事終わりに寄って、刈った草を集めておこうと思ったのだ。
熊手を使って草を集め始めるとすぐに汗が流れ出す。夏は終わりも近いというのに、今日も暑い。
誰にも手入れされず数年。草は伸び放題だったから、量が多い。折り重なった枯れ草も厄介で、地面に張り付いて重い。
それでも、菫は黙々と作業を進めた。
そうして、手だけを動かしていると、心の中にはいろいろなことが浮かんできた。
もちろん、そのほとんどは鈴のことだ。もう、一週間以上鈴には会っていない。正直今すぐに会いたいと思う。こっそり緑風堂を覗きに行こうかとも思った。でも、もしも、鉢合わせしてしまったらと思うと鈴が来そうなところには近づけない。
顔を見たいと思うのと同じくらい、顔を見るのが怖いからだ。
鈴があまり親しくない相手を見るときのあの感情の籠らない目で見られたら、死んでしまうかもしれない。あんな目で見られながらも、毎週のように鈴目当てで緑風堂に来て、しつこく鈴に話しかける女子高生の常連客の心臓の強さに今更ながら驚嘆させられた。
でも。
一瞬熊手を動かす手を止め、菫は思う。
彼女たちは知らないのだ。
鈴がどんなに優しく笑うのかを。あの美術品のような造作に感情がのったとき、どれほど心が鷲掴みにされるのかを。
けれど、知ってしまったから、菫は怖くて仕方がない。それをなくしたくないと、心から思う。
そう思っていながら、それでも、菫はまたここにいる。
きっと、誰かに話したら、往生際が悪くない? と言われるだろう。だから、もちろん誰にも話さない。
誰がなんと言おうと、鈴に言われないうちは、待とうと心に決めた。たとえ、何年経っても、待っていることは自由だ。遠くで思っている分には迷惑にはならない。と。思う。迷惑かな。
ただの悪足掻きだとはわかっている。普通に考えたら、既読がつかない時点でダメ確定だ。いくら怒っていても、付き合いを続ける気なら既読くらいはつけるだろう。既読スルーの方が怒っているのは伝わる。けれど、既読かつかないってことは、相手に興味がないってことだ。怒っているよりもたちが悪い。
そんなふうにフェードアウトを狙って放置している相手から、ずっと、好きだと思われていたらやっぱり迷惑だろう。
もしかしたら、怖い。と思うかもしれない。
これは、俗にいうストーカーなんじゃないだろうか。現実に追い回したりしなければ、ギリセーフだろうか。
いや、大量のメッセージを送るのもストーカー行為の一種だ。
でも、菫は今日はメッセージを送ってはいないし、鈴の返事が来るまではもうメッセージを送るつもりもない。毎日一言のメッセージくらいなら大量とは言わないだろう。多分。無理があるか?
そんなことを考えながら、今日も菫はあの社にいた。まだ、日が長い時期だから、仕事終わりに寄って、刈った草を集めておこうと思ったのだ。
熊手を使って草を集め始めるとすぐに汗が流れ出す。夏は終わりも近いというのに、今日も暑い。
誰にも手入れされず数年。草は伸び放題だったから、量が多い。折り重なった枯れ草も厄介で、地面に張り付いて重い。
それでも、菫は黙々と作業を進めた。
そうして、手だけを動かしていると、心の中にはいろいろなことが浮かんできた。
もちろん、そのほとんどは鈴のことだ。もう、一週間以上鈴には会っていない。正直今すぐに会いたいと思う。こっそり緑風堂を覗きに行こうかとも思った。でも、もしも、鉢合わせしてしまったらと思うと鈴が来そうなところには近づけない。
顔を見たいと思うのと同じくらい、顔を見るのが怖いからだ。
鈴があまり親しくない相手を見るときのあの感情の籠らない目で見られたら、死んでしまうかもしれない。あんな目で見られながらも、毎週のように鈴目当てで緑風堂に来て、しつこく鈴に話しかける女子高生の常連客の心臓の強さに今更ながら驚嘆させられた。
でも。
一瞬熊手を動かす手を止め、菫は思う。
彼女たちは知らないのだ。
鈴がどんなに優しく笑うのかを。あの美術品のような造作に感情がのったとき、どれほど心が鷲掴みにされるのかを。
けれど、知ってしまったから、菫は怖くて仕方がない。それをなくしたくないと、心から思う。
そう思っていながら、それでも、菫はまたここにいる。
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