真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

10 きいてほしいことがあるんだ 1

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 鈴。
 きいてほしいことがあるんだ。

 その日。菫は久しぶりに『ごめん』以外のメッセージを送った。

 はじめに、守れない約束をしてしまったこと。
 ごめん。

 けれど、すぐにまた、『ごめん』と、言ってしまった。

 あいつのこと、放っておけない。
 それも、ごめん。

 いや、やはり、『ごめん』ばかりになっていた。

 それから、あいつにキスされた。
 ごめん。

 けれど、それまでとは違う『ごめん』だと、菫は思っていた。

 あいつに小さいとき助けれたこととか、
 なんか、知らない女の人の記憶とか見えていたこととか、
 話さなかった。
 ごめん。

 今まではただ、鈴の怒りが怖くて、『ごめん』という言葉に、逃げていただけだった。
 でも、今は違う。と。思う。

 でも、俺は鈴が好きだから。
 その気持ちを裏切るようなことは、しない。
 約束する。
 今度は守れない約束じゃない。

 鈴に嫌われるのが怖いのは同じだけれど、自分の気持ちを伝えるための『ごめん』だ。

 鈴がもう、俺のこと好きでなくなったなら、
 それだけ返事してほしい。

 そのメッセージを打っている間も、送信する瞬間も手が震えた。怖くて仕方ない。有耶無耶にしておいて、希望を少しでも持っていたかった。
 たった数文字のメッセージを打つのに随分と時間がかかってしまった。

 そしたら、もう、迷惑かけない。

 喉の奥が熱い。今にも涙が零れそうで、菫は硬く目を閉じた。
 けれど、もう一度目を開く。

 迷惑にならないようにするから。
 ずっと、好きでいるのは、許して。

 送信ボタンを押して、菫はディスプレイをオフにした。
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