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月夕に落ちる雨の名は
6 ごめん 1
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最初にLINEのメッセージを送ったのは1週間前だった。
鈴が去っていった日。
ごめん。
と。一言だけ。
本当はもっといろいろなことを書いた。でも、全部言い訳にしか見えなかったから、消した。
返事は来なかった。既読すらつかなかった。
それでも、毎日。メッセージを送っている。言葉は全部同じだ。
ごめん。
それだけ。
迷惑だと分かっているから、一日一度だけ。
結局一度も、既読はつかない。それでも、今日も、同じ言葉で送信を押した。
何も、手につかなかった。仕事には行っているし、家事もしている。けれど、何をしていても夢の中にいるみたいで、後になって思い出してみても、どうやって、なにをしていたのかすら思い出せなかった。ただ、惰性のように同じ行動を繰り返している。もしかしたら、一週間同じものを朝食に出し続けていたかもしれない。椿も祖母も何も言わない。だから、本当に菫には思い出せない。
何を食べても味がしない。景色がモノクロで、色がない。何を見ても心が動かない。眠れないし、笑えない。涙も出ない。
あんなに心配していた黒羽のことも、まるで他人事のようだった。
ただ、毎日、何度も何度もスマートフォンを確認しては、鈴からの連絡だけを待っていた。そして、それが永遠に来ないかもしれないという想像に怯えていた。
「菫」
何もする気がおきなくて、休日の午前。畳に敷いた布団の上に寝転がって、天井をぼー。っと、見ていると、廊下から祖母の躊躇いがちな声が聞こえてきた。
「何?」
最低限の言葉で答えると、一瞬間を置いてから、祖母がふすまを開ける。
「平丘地区の地区長さんから電話来てるよ」
いわれていることの意味が分からなくて、菫は首を傾げる。祖母の声はいつも通りなのに、まるで外国語を聞いているようだった。いや、意味は分かる。けれど、理解ができない。ただ、表面を言葉だけが滑って流れていく。
「ああ。うん。でる」
それでも、菫は身体を起こした。反射的に返事を返す。返してから、ようやく社の前であった人だと思い至った。
のろのろと立ち上がって受話器に向かう。祖母はかかってきた電話を子機に回すことができないから、仕方なく居間までいって、受話器を取った。
鈴が去っていった日。
ごめん。
と。一言だけ。
本当はもっといろいろなことを書いた。でも、全部言い訳にしか見えなかったから、消した。
返事は来なかった。既読すらつかなかった。
それでも、毎日。メッセージを送っている。言葉は全部同じだ。
ごめん。
それだけ。
迷惑だと分かっているから、一日一度だけ。
結局一度も、既読はつかない。それでも、今日も、同じ言葉で送信を押した。
何も、手につかなかった。仕事には行っているし、家事もしている。けれど、何をしていても夢の中にいるみたいで、後になって思い出してみても、どうやって、なにをしていたのかすら思い出せなかった。ただ、惰性のように同じ行動を繰り返している。もしかしたら、一週間同じものを朝食に出し続けていたかもしれない。椿も祖母も何も言わない。だから、本当に菫には思い出せない。
何を食べても味がしない。景色がモノクロで、色がない。何を見ても心が動かない。眠れないし、笑えない。涙も出ない。
あんなに心配していた黒羽のことも、まるで他人事のようだった。
ただ、毎日、何度も何度もスマートフォンを確認しては、鈴からの連絡だけを待っていた。そして、それが永遠に来ないかもしれないという想像に怯えていた。
「菫」
何もする気がおきなくて、休日の午前。畳に敷いた布団の上に寝転がって、天井をぼー。っと、見ていると、廊下から祖母の躊躇いがちな声が聞こえてきた。
「何?」
最低限の言葉で答えると、一瞬間を置いてから、祖母がふすまを開ける。
「平丘地区の地区長さんから電話来てるよ」
いわれていることの意味が分からなくて、菫は首を傾げる。祖母の声はいつも通りなのに、まるで外国語を聞いているようだった。いや、意味は分かる。けれど、理解ができない。ただ、表面を言葉だけが滑って流れていく。
「ああ。うん。でる」
それでも、菫は身体を起こした。反射的に返事を返す。返してから、ようやく社の前であった人だと思い至った。
のろのろと立ち上がって受話器に向かう。祖母はかかってきた電話を子機に回すことができないから、仕方なく居間までいって、受話器を取った。
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