真鍮とアイオライト 1

司書Y

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月夕に落ちる雨の名は

今は昔 2 こころ 3

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 黒羽狐には、5匹の眷属がいた。
 第一の眷属、黒羽狐にも負けぬ大狐の[[rb:権六 > ごんろく]]。
 第二の眷属、中央の絵師にもその姿は描けぬと言われるほどの美女、[[rb:御清 > おせい]]。
 第三の眷属、長身痩躯、忠義に厚い[[rb:臣丞 > じんすけ]]。
 少年のような風体の新三。少女のような姿の冴夜。の双子。この二人は権六とは兄弟と言っていたのだが、親から生まれ落ちたものではないから、本当かどうかは分からない。ただ、少なくとも女には容姿はともかく、信頼し合う姿が本当の兄弟のように見えた。
 常に松林に在って黒羽狐のそばに控えているのは権六と新三、そして冴夜だけで、あとの二人はどこへ行くのか、一月も姿を見ないこともあった。

 女が大狐の元に来てから、季節が一回りした頃だった。
 もう、女はすっかりと松林の住人として、大狐の眷属たちにも、林に住まうほかのものたちにも認められていた。特に権六と御清は女を黒羽狐の伴侶として扱って、まるで家族のように接してくれた。
 親を亡くして一人ぼっちになった女にとっては、それが何より嬉しかった。

 女が黒羽狐の生贄に捧げられてから、里では狐の悪戯の話題は全く聞かなくなった。顔を隠してこっそりと里の様子を見に行っても、狐の話が口の端にのぼることはない。かわりに、里を救うために黒羽狐のところへ行った女のことを、里人は敢えて誇張までして、子供たちに聞かせていた。

 里を救ってくれた女がいたのだ。と。

 少し寂しいと思う反面、女はほっとしていた。少なくとも、実害がなければ、狐との平穏な暮らしが壊れることはない。そう思ったからだ。
 しかし、黒羽狐は女を生贄に差し出させるような領主を許してはいなかった。ただ、表立って恥をかかせるようなやり方をやめただけで、目に見えない部分で搾取した税を分配したり、売られそうになった女子供を逃がしたりはしていたのだった。

 もちろん、女はそれに気付いていた。
 女は学があるわけではない。けれど、愚かではなかった。
 それでも、黒羽狐を窘めることをしなかったのは、狐の行いで救われるものがいるのだと知っていたからだ。

 その代償を、わが身で負うのだとも知らずに。
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