278 / 392
栞
4 やくそくのあかし 2
しおりを挟む
その人と、手を繋いで歩いていた。
その道の先には俺の家がある。なんだか、ぼーっとして、足元は妙にふわふわ。と、覚束ない。けれど、その手に引かれるままに俺は歩いた。
まったく、お前は。
その人は背の高い男の人だった。父ではない。もっと、ずっと、若い人だった。神社の人が着るような着物(?)を着ていた。
言葉は呆れたようだったけれど、口調はどこか優しかった。
あいかわらず、危なっかしい。
ため息。その呼気がまるで、炎のように赤い。そんなふうに見えたのは錯覚だろうか。
わかっておろうか?
あんなものに与えるために……。
ああ。まあいい。
何を言っているのか、意味は分からなかった。
おまえは、覚えているか?
ふ。と、その男は周囲を見渡した。その視線を追うと、何故か普通の街並みが一瞬、まるで時代劇のセットのような昔の風景に見えた。けれど、それは、瞬きをするほどの間で、すぐに元に戻る。
目がおかしくなったのではないかと、首を振るけれど、もう、二度とその風景が見えることはなかった。ただ、その風景はどこかで見たことがあるように感じられた。
それが、どこでの出来事だったのか、思い出そうとすると不意に息が苦しくなる。
やめろ。
いい。
立ち止まって、男が言う。怒っているというわけではない。
忘れているなら、その方がいい。
その声は酷く寂し気に聞こえた。
「ごめんなさい」
けれど、何か悪いことをしてしまったのだと思って、俺は謝った。
「あの。思い出すよ」
言葉に出すと、ずん。と、胸の奥が苦しくなる。頭が痛くて、目の前がかすむ。
構わん。
忘れていろ。
それで、いい。
その手が俺の視界を覆い隠した。それだけで、頭が痛いのも、苦しいのも消え去る。どうしてか分からないけれど、とても安心した。
「ごめんなさい」
何故か喉の奥が熱くなって、声が掠れた。視界を塞がれたまま、涙が出そうになって、小さく呟く。
阿呆が。
何が悪いかもわからんくせに謝るな。
そういって、その手がふわり。と、頭を撫でる。その手は暖かくて優しかった。大きくて白い手。爪が長い。でも、怖くはない。
見上げると、その人の目は綺麗な赤だった。その目元に同じ色のアイラインが見える。それ以外はあまりはっきりとしない。でも、それも、怖くはなかった。
助けられたら、ごめんなさい。ではないだろうが。
その顔が微笑んでいる。少し皮肉っぽいけれど、怒っているわけでも、馬鹿にしているわけでもないのが分かる。
「……ありがとう……?」
礼を言うと、今度はあやすような笑顔が返ってきた。
その道の先には俺の家がある。なんだか、ぼーっとして、足元は妙にふわふわ。と、覚束ない。けれど、その手に引かれるままに俺は歩いた。
まったく、お前は。
その人は背の高い男の人だった。父ではない。もっと、ずっと、若い人だった。神社の人が着るような着物(?)を着ていた。
言葉は呆れたようだったけれど、口調はどこか優しかった。
あいかわらず、危なっかしい。
ため息。その呼気がまるで、炎のように赤い。そんなふうに見えたのは錯覚だろうか。
わかっておろうか?
あんなものに与えるために……。
ああ。まあいい。
何を言っているのか、意味は分からなかった。
おまえは、覚えているか?
ふ。と、その男は周囲を見渡した。その視線を追うと、何故か普通の街並みが一瞬、まるで時代劇のセットのような昔の風景に見えた。けれど、それは、瞬きをするほどの間で、すぐに元に戻る。
目がおかしくなったのではないかと、首を振るけれど、もう、二度とその風景が見えることはなかった。ただ、その風景はどこかで見たことがあるように感じられた。
それが、どこでの出来事だったのか、思い出そうとすると不意に息が苦しくなる。
やめろ。
いい。
立ち止まって、男が言う。怒っているというわけではない。
忘れているなら、その方がいい。
その声は酷く寂し気に聞こえた。
「ごめんなさい」
けれど、何か悪いことをしてしまったのだと思って、俺は謝った。
「あの。思い出すよ」
言葉に出すと、ずん。と、胸の奥が苦しくなる。頭が痛くて、目の前がかすむ。
構わん。
忘れていろ。
それで、いい。
その手が俺の視界を覆い隠した。それだけで、頭が痛いのも、苦しいのも消え去る。どうしてか分からないけれど、とても安心した。
「ごめんなさい」
何故か喉の奥が熱くなって、声が掠れた。視界を塞がれたまま、涙が出そうになって、小さく呟く。
阿呆が。
何が悪いかもわからんくせに謝るな。
そういって、その手がふわり。と、頭を撫でる。その手は暖かくて優しかった。大きくて白い手。爪が長い。でも、怖くはない。
見上げると、その人の目は綺麗な赤だった。その目元に同じ色のアイラインが見える。それ以外はあまりはっきりとしない。でも、それも、怖くはなかった。
助けられたら、ごめんなさい。ではないだろうが。
その顔が微笑んでいる。少し皮肉っぽいけれど、怒っているわけでも、馬鹿にしているわけでもないのが分かる。
「……ありがとう……?」
礼を言うと、今度はあやすような笑顔が返ってきた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる