真鍮とアイオライト 1

司書Y

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4 やくそくのあかし 2

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 その人と、手を繋いで歩いていた。
 その道の先には俺の家がある。なんだか、ぼーっとして、足元は妙にふわふわ。と、覚束ない。けれど、その手に引かれるままに俺は歩いた。

 まったく、お前は。

 その人は背の高い男の人だった。父ではない。もっと、ずっと、若い人だった。神社の人が着るような着物(?)を着ていた。
 言葉は呆れたようだったけれど、口調はどこか優しかった。

 あいかわらず、危なっかしい。

 ため息。その呼気がまるで、炎のように赤い。そんなふうに見えたのは錯覚だろうか。

 わかっておろうか?
 あんなものに与えるために……。
 ああ。まあいい。

 何を言っているのか、意味は分からなかった。

 おまえは、覚えているか?

 ふ。と、その男は周囲を見渡した。その視線を追うと、何故か普通の街並みが一瞬、まるで時代劇のセットのような昔の風景に見えた。けれど、それは、瞬きをするほどの間で、すぐに元に戻る。
 目がおかしくなったのではないかと、首を振るけれど、もう、二度とその風景が見えることはなかった。ただ、その風景はどこかで見たことがあるように感じられた。
 それが、どこでの出来事だったのか、思い出そうとすると不意に息が苦しくなる。

 やめろ。
 いい。

 立ち止まって、男が言う。怒っているというわけではない。

 忘れているなら、その方がいい。

 その声は酷く寂し気に聞こえた。

「ごめんなさい」

 けれど、何か悪いことをしてしまったのだと思って、俺は謝った。

「あの。思い出すよ」

 言葉に出すと、ずん。と、胸の奥が苦しくなる。頭が痛くて、目の前がかすむ。

 構わん。
 忘れていろ。
 それで、いい。

 その手が俺の視界を覆い隠した。それだけで、頭が痛いのも、苦しいのも消え去る。どうしてか分からないけれど、とても安心した。

「ごめんなさい」

 何故か喉の奥が熱くなって、声が掠れた。視界を塞がれたまま、涙が出そうになって、小さく呟く。

 阿呆が。
 何が悪いかもわからんくせに謝るな。

 そういって、その手がふわり。と、頭を撫でる。その手は暖かくて優しかった。大きくて白い手。爪が長い。でも、怖くはない。
 見上げると、その人の目は綺麗な赤だった。その目元に同じ色のアイラインが見える。それ以外はあまりはっきりとしない。でも、それも、怖くはなかった。

 助けられたら、ごめんなさい。ではないだろうが。

 その顔が微笑んでいる。少し皮肉っぽいけれど、怒っているわけでも、馬鹿にしているわけでもないのが分かる。

「……ありがとう……?」

 礼を言うと、今度はあやすような笑顔が返ってきた。
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