真鍮とアイオライト 1

司書Y

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3 誰にも望まれていないとしても 4

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 にげろ!

 と、どこかから声が聞こえた気がした。

「わあああっ!!」

 その瞬間、俺は叫んでいた。叫んで駆け出していた。
 女に背を向けて、公園の出口に向かって走り出す。なりふりなんて構っていられなかった。とにかく、大声で喚いて、当てもなく駆け出した。

「助けて! 助けて!!」

 公園の出口を飛び出して、どちらへともなく駆ける。何故そちらを選んだのかは覚えていない。家の方角だったわけではないと思う。明るい方へというわけでもない。

 ずる。べしゃ。ずる。べしゃ。

 背後でそんな音が聞こえた。想像したくはなかったけれど、裸足の足と、先がなくなった足で交互に歩いたら、そんな音がすると想像してしまった。そして、想像してから、追いかけてきているのだと気付いて、涙が溢れ出す。

「いやだ! いやだ!! くるな!!」

 ぜいぜい。と、荒い息の間、無駄とわかっていて叫んだ。

 ずる。べしゃ。ずる。べしゃ。

 足がもつれて、盛大に道に転んだ。それでも、俺はすぐに立ちあがって走り出した。止まったら、死ぬ。と、俺は知っていたのだと思う。それは、確信だった。

「にいちゃん!! 助けて!」

 こんな時でも、俺の口からは母や父に縋る言葉が出ては来なかった。父にも母にも必要とされていない。助けを求めるのは無駄なのだと気付いていた自分が、哀れだ。
 それでも、俺は走った。
 それでも、誰にも望まれなくても、生きたいと思うことが、無駄だとは、考えもしなかった。

「助けて。助けて」

 足ががくがく。と、震えて上手く走れない。息が苦しくて、心臓が飛び出してしまいそうだった。涙が溢れてきて、視界が歪む。もう、どこを走っているかもわからない。
 まだ、時間はさほど遅くはないのに、人どころか車も通らないことを、気にする余裕すら俺にはなかった。
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