真鍮とアイオライト 1

仮説とするには単純な

4 すみれのしおり 4

「鈴。抹茶系好きだろ？　あんまスイーツとか作ったことないから、風祭さんみたいにうまくできるかわかんないけど」

　そして、話題を変えた。
　今、目の前にある鈴との時間を、何かで揺らすことも、傷つけることも、絶対にしたくない。

「俺は。菫さんが作ってくれた方がいいです」

　菫の手に手を重ねて、ノートを閉じさせて、鈴が言う。

「だから、早く、買い物して帰ろう？　今日は、ずっと、一緒にいてください」

　見上げると鈴はじっと菫を見ていた。笑顔だったけれど、少しだけ不安そうだった。

「ん」

　抱きしめてあげたかったけれど、人がいないとはいえ昼間の屋外ではできなくて、その手をぎゅ。と、握り返す。
　鈴は、菫を守ると言った。
　だから、菫も、鈴との繋がりを守りたい。

「おれが。まもる。から」

　呟く声を松林を抜ける風が攫う。そして、どこかへ運んで消してしまう。
　声が聞こえなかったのか、菫を見つめる鈴。

「……帰ろうか。心配させたお詫びに。たくさん美味しいもの作るよ」

　心に決めて、笑顔を作ると、また、少し安心したように鈴が笑う。

「……お詫びなら。その……たくさん」

　そう言って、鈴の唇が耳元に寄る。まるで、風に攫われないように、大切な言葉を隠しているようだった。

「抱きしめて、いいですか？」

　呟いた声に、菫は顔を赤く染めて頷く。

　赤い炎に晒された熱い風が吹き抜ける。そんな夏の日の出来事だった。