真鍮とアイオライト 1

司書Y

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仮説とするには単純な

3 思春期みたいな 1

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「え?」

 菫は別にとりわけ心配していたわけでもない。ただ、少し話題を変えたかったから、思いつきで、口にしただけだ。
 もし、それが正式な名前だとしても、こいつらが悪さでもしないかぎりは、名前を呼ばれて不利益になるようなことはないだろう。大体、普通の人は名前を知っていればその相手をどうにかできるなんて思いもよらないし、こいつが化け狐だなんて、誰が信じるというのだろう。そもそも論として、こいつは自分と鈴以外の人間に見えているんだろうか。
 もちろん、菫には黒羽をどうにかする力なんてないし、できる人も知らない。

「お前も……消えてほしいの……」

「なに言ってんだよ」

 そんな、深く考えてすらいない一言に、あんまり黒羽が真面目な顔で問い返すから、菫は黒羽の言葉を途中で遮った。

「そんなわけないだろ? 大体、こっちは祓われたりしないか心配して聞いてやってんだぞ?」

 黒羽のことを菫は何も知らない。耳と尻尾かはえた無節操なナンパ男だと思っている。ただ、命を助けられたことは、忘れられるわけがないし、感謝している。この男が、どんなモノであったとしても、菫の気持ちが鈴に届いたのは黒羽のお陰だ。

「一応命の恩人に消えてほしいとか、ナイだろ。普通」

 ただ、命の恩人だということを差し引いても、いや、命の恩人だと思っていることよりもっと、菫は思っていた。この人外が祓われてもいいと思っているなんて、誤解されたくない。
 道端にいる思いを残した霊なら、縛られている思いから解放されればいいと思う。けれど、たぶん、黒羽は生きていたものが死んで残された思いとは違うものだ。生まれたなら、生きたいと願うのが普通で、その権利はたとえそれが人ならざる者であっても、他人が簡単に奪っていいものではない。

「お前は。そうやって……また」

 呟いた言葉は聞き取れないほど小さかった。
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