真鍮とアイオライト 1

司書Y

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錨草と紫苑

3 イジワルおねえさんと鈴 3

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「あれは。天然だから、どうにもならんよ?」

 小柏が気の毒なものを見るような視線を向けてくる。まるで、全てを察しているようだと鈴は思う。いや、きっと、彼女は全て察しているんだろう。

「苦労するけれど頑張って」

 ぽん。と、背中を叩かれて、何と答えていいのかわからずに、鈴は黙り込んだ。

「別に。俺は……」

 菫のアレは全部無意識だし、他意など全くない。彼はただ、本当に図書館や本が好きで、自分が好きなものをほかの人にも好きになってほしいだけなのだ。だから、一生懸命に働くし、分け隔てなく誰にでも優しい。
 本当に。菫にはそれ以上の気持ちなどない。それはわかっている。

「なんとも」

 ずっと抱えていた思いを告げることができたし、奇蹟的に菫も同じ意味で好きだと言ってくれた。菫は好きでもない相手と寝られるような人ではない。
 菫が鈴にくれたものは、特別な感情だとはわかっている。
 わかっているのだけれど、もやは晴れない。

「拗らせてるねえ」

 ぼそり。と、小柏が呟く。面倒くさいガキだと、言われているような気がして、鈴は聞こえないふりをした。

「……池井君」

 そんな鈴の様子に小さくため息をついてから、小柏はぐい。と、鈴の腕を引いて、カウンターに声をかけた。

「なんです……か……」

 パソコンに目を落としていた菫が顔を上げる。それから、鈴の姿を見て、固まった。

「……あ。す……ず」

 途端に、菫の顔が真っ赤に染まる。

「こ……こんに……ちわ。あの。いい天気……だ……ね?」

 ぎこちない笑顔を浮かべてしどろもどろになっている。鈴の顔を避けるように視線がそこら中を彷徨った。

「はい」

 恥ずかしがっているのだということはすぐにわかった。そんな顔が堪らなく可愛いと思う。

「それじゃ。私はもう終業時間だから」

 またしても、まるで、全てを察しているかの(いや、絶対に全てを察しているのだ)ように、小柏はひらり。と、手を振って去っていった。時計を見ると、5時を過ぎるところだった。
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