224 / 392
錨草と紫苑
2 昔話とサッカーチーム 7
しおりを挟む
「ま、それはいいや。ところで、ケータ君。あの昔話に出てくる松林ってどこだか知ってる?」
気付いてくれたならそれでいいと菫は話題を変えた。
「……しらない……です」
ケータの語尾は小さくなって消えた。ちら。と、その視線が、仲間たちがいる児童書コーナーの方を見やる。
「七里塚のファミマの近くの松林の辺りなんだけど……平丘小の近く。わかる? これ、地図。手書きだからわかりにくいかもだけど、参考にして」
紙片を手渡すと、ケータは少し不安そうに見上げてきた。
「あ、ケータこんなところにいた」
不意に後ろから話しかけられて、ケータはびくり。と、身を竦めた。
「ユーマ」
そこにはグループ学習の仲間の少年がいた。怒ったような表情。それはそうだろう。グループ学習のために来ているのに、菫と別の本を探していたのだ。
「なにしてんだよ。一人で遊んでんな」
強い口調で、責められて、ケータは何も言い返せずに俯いた。
「遊んでたわけじゃないよ?」
本当は遊んでいたのかもしれないから、口を挟むべきではないかも知れない。けれど、サッカーチームのコーナーに連れ出したのは菫だし、放っておいたらケータが苦し紛れに言い訳して喧嘩になるかもと思った。
「松林の場所、聞きに来たんだよね?」
たがら、ケータに渡した紙を指さして菫は言ったのだ。図書館に来た記憶が友達と喧嘩をした嫌な記憶だけになってほしくない。ただの自己満足かも知れないけれど、自分が好きな場所をできるだけ沢山の人に好きだと思ってほしかった。
「でも……サッカーの本持ってるじゃん。どーせサボって好きなことやったんだろ?」
ケータの持っている本を指さしてユーマは言った。
「あー、それは……」
ケータから本を借りて菫はあるページを開く。
「ほら、ここ」
そこにはチーム名の由來が書かれていた。
「『ブラックフォクシーズ』ってさっきの昔話から名前がついたららしいんだ。記事見つけたから、ケータ君に渡したんだよ」
説明を受けてユーマは難しい顔をしていた。納得したとか、しないとか言うより、ケータのスタンドプレーが面白くないと言うのが顔にはっきりと書いてある。
「どっか行くなら、ちゃんと誰かに言ってから行けよな」
ブツブツと、文句を言いながらも、それ以上は追求せずに、ユーマは二人に背を向けた。
「……ありがと」
その背中を見ながら、ケータが小声で言った。
「ブラックフォクシーズのこと、教えてくれたり、図書館の本借りてくれた、お礼。内緒だよ?」
だから、菫も内緒話をするように手で口元を隠して、小声で囁いた。それから、本をケータに渡す。
「でも、これからはちゃんとサボらないで協力すること。いいね?」
菫がそう言うと、ケータは『はい』と素直な返事を返してくれた。
「ありがとう。菫さん」
満面の笑みになって、手を振ってから、友人の後を追うケータに苦笑する。親しみを込めてくれるのはわかるけれど、菫さんは恥ずかしい。
複雑な気持ちで、ケータを見送る菫だった。
気付いてくれたならそれでいいと菫は話題を変えた。
「……しらない……です」
ケータの語尾は小さくなって消えた。ちら。と、その視線が、仲間たちがいる児童書コーナーの方を見やる。
「七里塚のファミマの近くの松林の辺りなんだけど……平丘小の近く。わかる? これ、地図。手書きだからわかりにくいかもだけど、参考にして」
紙片を手渡すと、ケータは少し不安そうに見上げてきた。
「あ、ケータこんなところにいた」
不意に後ろから話しかけられて、ケータはびくり。と、身を竦めた。
「ユーマ」
そこにはグループ学習の仲間の少年がいた。怒ったような表情。それはそうだろう。グループ学習のために来ているのに、菫と別の本を探していたのだ。
「なにしてんだよ。一人で遊んでんな」
強い口調で、責められて、ケータは何も言い返せずに俯いた。
「遊んでたわけじゃないよ?」
本当は遊んでいたのかもしれないから、口を挟むべきではないかも知れない。けれど、サッカーチームのコーナーに連れ出したのは菫だし、放っておいたらケータが苦し紛れに言い訳して喧嘩になるかもと思った。
「松林の場所、聞きに来たんだよね?」
たがら、ケータに渡した紙を指さして菫は言ったのだ。図書館に来た記憶が友達と喧嘩をした嫌な記憶だけになってほしくない。ただの自己満足かも知れないけれど、自分が好きな場所をできるだけ沢山の人に好きだと思ってほしかった。
「でも……サッカーの本持ってるじゃん。どーせサボって好きなことやったんだろ?」
ケータの持っている本を指さしてユーマは言った。
「あー、それは……」
ケータから本を借りて菫はあるページを開く。
「ほら、ここ」
そこにはチーム名の由來が書かれていた。
「『ブラックフォクシーズ』ってさっきの昔話から名前がついたららしいんだ。記事見つけたから、ケータ君に渡したんだよ」
説明を受けてユーマは難しい顔をしていた。納得したとか、しないとか言うより、ケータのスタンドプレーが面白くないと言うのが顔にはっきりと書いてある。
「どっか行くなら、ちゃんと誰かに言ってから行けよな」
ブツブツと、文句を言いながらも、それ以上は追求せずに、ユーマは二人に背を向けた。
「……ありがと」
その背中を見ながら、ケータが小声で言った。
「ブラックフォクシーズのこと、教えてくれたり、図書館の本借りてくれた、お礼。内緒だよ?」
だから、菫も内緒話をするように手で口元を隠して、小声で囁いた。それから、本をケータに渡す。
「でも、これからはちゃんとサボらないで協力すること。いいね?」
菫がそう言うと、ケータは『はい』と素直な返事を返してくれた。
「ありがとう。菫さん」
満面の笑みになって、手を振ってから、友人の後を追うケータに苦笑する。親しみを込めてくれるのはわかるけれど、菫さんは恥ずかしい。
複雑な気持ちで、ケータを見送る菫だった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる