真鍮とアイオライト 1

司書Y

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錨草と紫苑

2 昔話とサッカーチーム 7

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「ま、それはいいや。ところで、ケータ君。あの昔話に出てくる松林ってどこだか知ってる?」

 気付いてくれたならそれでいいと菫は話題を変えた。

「……しらない……です」

 ケータの語尾は小さくなって消えた。ちら。と、その視線が、仲間たちがいる児童書コーナーの方を見やる。

「七里塚のファミマの近くの松林の辺りなんだけど……平丘小の近く。わかる? これ、地図。手書きだからわかりにくいかもだけど、参考にして」

 紙片を手渡すと、ケータは少し不安そうに見上げてきた。

「あ、ケータこんなところにいた」

 不意に後ろから話しかけられて、ケータはびくり。と、身を竦めた。

「ユーマ」

 そこにはグループ学習の仲間の少年がいた。怒ったような表情。それはそうだろう。グループ学習のために来ているのに、菫と別の本を探していたのだ。

「なにしてんだよ。一人で遊んでんな」

 強い口調で、責められて、ケータは何も言い返せずに俯いた。

「遊んでたわけじゃないよ?」

 本当は遊んでいたのかもしれないから、口を挟むべきではないかも知れない。けれど、サッカーチームのコーナーに連れ出したのは菫だし、放っておいたらケータが苦し紛れに言い訳して喧嘩になるかもと思った。

「松林の場所、聞きに来たんだよね?」

 たがら、ケータに渡した紙を指さして菫は言ったのだ。図書館に来た記憶が友達と喧嘩をした嫌な記憶だけになってほしくない。ただの自己満足かも知れないけれど、自分が好きな場所をできるだけ沢山の人に好きだと思ってほしかった。

「でも……サッカーの本持ってるじゃん。どーせサボって好きなことやったんだろ?」

 ケータの持っている本を指さしてユーマは言った。

「あー、それは……」

 ケータから本を借りて菫はあるページを開く。

「ほら、ここ」

 そこにはチーム名の由來が書かれていた。

「『ブラックフォクシーズ』ってさっきの昔話から名前がついたららしいんだ。記事見つけたから、ケータ君に渡したんだよ」

 説明を受けてユーマは難しい顔をしていた。納得したとか、しないとか言うより、ケータのスタンドプレーが面白くないと言うのが顔にはっきりと書いてある。

「どっか行くなら、ちゃんと誰かに言ってから行けよな」

 ブツブツと、文句を言いながらも、それ以上は追求せずに、ユーマは二人に背を向けた。

「……ありがと」

 その背中を見ながら、ケータが小声で言った。

「ブラックフォクシーズのこと、教えてくれたり、図書館の本借りてくれた、お礼。内緒だよ?」

 だから、菫も内緒話をするように手で口元を隠して、小声で囁いた。それから、本をケータに渡す。

「でも、これからはちゃんとサボらないで協力すること。いいね?」

 菫がそう言うと、ケータは『はい』と素直な返事を返してくれた。

「ありがとう。菫さん」

 満面の笑みになって、手を振ってから、友人の後を追うケータに苦笑する。親しみを込めてくれるのはわかるけれど、菫さんは恥ずかしい。
 複雑な気持ちで、ケータを見送る菫だった。
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