真鍮とアイオライト 1

司書Y

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錨草と紫苑

2 昔話とサッカーチーム 5

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「勉強とか、本とか嫌い。つまんない」

 少し違うかもしれないけれど、変なものが見えるようになって、それを知られたくなくて、友達の輪の少し外側にいた経験のある菫にはわからないでもないことだった。

「ああいうのは、ユーマとショウがやればいいんだよ。チナもちゃんとやれ。とか、うるさいし……。
 大体さ。俺は昔話調べるとか、ダサいからやだって言ったのに、誰もきいてねえし。みんなで自転車で行こうって約束してたのに、ユーマの母ちゃんが車で送ってくれるって言ったら、チナまで送ってもらおうとか言い出して……どーせ。俺の話とか誰も聞いてねえからいなくてもいいんだよ」

 勉強ができないという以前にどうも気に入らないことがあるのにも、菫は気付いた。ようするに、恋敵が好きな子の前でいい恰好しているのが気に食わないだけなのだろう。

「ユーマはさ。俺が勉強苦手なの知ってて、わざと図書館に行こうとか言い出したんだぜ? 俺が4年の時からレギュラーだったから、『しっと』してるんだ。あいつ。チナのこと好きだから、いい恰好したいだけなくせに」

 最初は言いたくなさそうだったけれど、どんどん出てくる愚痴に菫は心の中で苦笑した。

「そか。レギュラーって何のスポーツ?」

 ただ、そんな可愛らしい思春期のモヤモヤと、勉強することと、本を読むことを一緒に思うのは少し残念な気がして、菫は話を変えることにした。

「サッカー」

 途端にケータの顔は明るくなる。

「ああ。そのユニホーム。ブラックフォクシーズ好きなんだ」

 それは、地元のサッカーチームで、強くはないけれど、地域に愛されているクラブチームだった。来館者の中にもファンは多い。

「うん!」

 どうやら、ケータもファンだったようで、さっきの仏頂面が嘘のように楽し気な表情で頷く。

「じゃ、あっちにさ。ブラックフォクシーズのコーナーあるから見てみない?」

「見る!」

 もちろん、S市立図書館には、地域のサッカーチームを応援するコーナーがあった。少し奥まった場所なので、知らない人も多い。けれど、それを言うと、ケータは菫の言葉が終わらないうちに勢いよく返事をした。

「ついておいで?」

 そうして、菫はケータを連れて、地元のサッカーチームの応援コーナーに行ったのだった。
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