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錨草と紫苑
1 ケータとすみれおにいさん 1
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「あ。いて……て」
一番低い書架へ、本を返そうとして屈んだ瞬間、菫はうめき声を漏らした。今日何回目だろう。多分。5回は同じことをしている。
S市立図書館2階閲覧室。いくつも並んだ書架の一番奥。世界一美しいシリーズの元素の図鑑の収めるべき場所は棚の一番下だ。やたらと重いその本を棚に返そうと屈んだ途端に、背中に痛みが走って固まってしまったのだ。
「池井くん大丈夫?」
後ろを通りかかった小柏が声をかけてきた。何故だろう満面の笑みだ。言葉の後ろについた♪マークが見えるようだ。
「だ……いじょうぶですよ? 別に何でもないです」
決してだいじょばないのだが、できる限りの笑顔を浮かべて、菫は答えた。精一杯なんでもない顔を作って立ち上がる。が、また背中にビキ。と、痛みが走って、引き攣った顔になってしまった。
「無理しなくてもいいんだよ~」
ひらひら。と、手を振って小柏は書架の向こうに消えた。担当の棚は同じ二階でも端と端なのに、今日に限ってやけに、菫の担当棚の近くまで来ている気がするのは、気のせいだろうか。
「気の所為……だよな?」
今朝は出勤時間ギリギリまで鈴といた。名残惜しい(/_;)とか、離してくれなかった(*´∀`*)とか、そういう色気のある話ではなく、単純に動けなかった。
普段使わない筋肉とか、用途違いの場所とか、喉とか、瞼とか……。とにかく身体中が痛くて、起き上がれなかったのだ。
鈴はそれをすごく心配して食事の用意してくれたし、着替えも手伝ってくれた。菫はと言えば、介護かよ。と、恥ずかしくて、情けなくなった。でも、鈴が何だかすごく楽しそうだから、止めてほしいとも言えず、黙ってされるがままに任せてしまった。
「すず……」
昨夜のことを思い出して、思わず頬が緩む。上手くはできなかったし、このざまだけれど、やっぱり、昨夜のうちに鈴に会えて、全部あげられてよかったと思う。
正直、何が何だか分からないうちに終わってしまったのは事実だ。事前情報のネットの記事でははじめから気持ちいいなんてないと、書いてあったから、覚悟していたのに意味わからんくらいに気持ちよかった。ネットに書いてあったことが嘘だったというよりも、鈴と自分の相性が良かったんじゃないかと思うと、なんだかそれも嬉しい。
とにかく。だ。菫は幸せだった。身体中が痛かろうと、声がカッスカスになっていようと、思い出し笑いをするたびにその表情の気持ち悪さに同僚にドン引きされようとも、間違いなく幸せだった。
そんなことを考えながら、また、一番下の棚に図鑑を戻そうとして、痛みに悶絶する。今日の菫に学習能力を期待してほしくない。痛い目に逢っても何度でも同じことをしてしまう。
一頻り痛みが去るのを待ってから、今度は慎重に本を戻して、菫は事務室へと向かった。
一番低い書架へ、本を返そうとして屈んだ瞬間、菫はうめき声を漏らした。今日何回目だろう。多分。5回は同じことをしている。
S市立図書館2階閲覧室。いくつも並んだ書架の一番奥。世界一美しいシリーズの元素の図鑑の収めるべき場所は棚の一番下だ。やたらと重いその本を棚に返そうと屈んだ途端に、背中に痛みが走って固まってしまったのだ。
「池井くん大丈夫?」
後ろを通りかかった小柏が声をかけてきた。何故だろう満面の笑みだ。言葉の後ろについた♪マークが見えるようだ。
「だ……いじょうぶですよ? 別に何でもないです」
決してだいじょばないのだが、できる限りの笑顔を浮かべて、菫は答えた。精一杯なんでもない顔を作って立ち上がる。が、また背中にビキ。と、痛みが走って、引き攣った顔になってしまった。
「無理しなくてもいいんだよ~」
ひらひら。と、手を振って小柏は書架の向こうに消えた。担当の棚は同じ二階でも端と端なのに、今日に限ってやけに、菫の担当棚の近くまで来ている気がするのは、気のせいだろうか。
「気の所為……だよな?」
今朝は出勤時間ギリギリまで鈴といた。名残惜しい(/_;)とか、離してくれなかった(*´∀`*)とか、そういう色気のある話ではなく、単純に動けなかった。
普段使わない筋肉とか、用途違いの場所とか、喉とか、瞼とか……。とにかく身体中が痛くて、起き上がれなかったのだ。
鈴はそれをすごく心配して食事の用意してくれたし、着替えも手伝ってくれた。菫はと言えば、介護かよ。と、恥ずかしくて、情けなくなった。でも、鈴が何だかすごく楽しそうだから、止めてほしいとも言えず、黙ってされるがままに任せてしまった。
「すず……」
昨夜のことを思い出して、思わず頬が緩む。上手くはできなかったし、このざまだけれど、やっぱり、昨夜のうちに鈴に会えて、全部あげられてよかったと思う。
正直、何が何だか分からないうちに終わってしまったのは事実だ。事前情報のネットの記事でははじめから気持ちいいなんてないと、書いてあったから、覚悟していたのに意味わからんくらいに気持ちよかった。ネットに書いてあったことが嘘だったというよりも、鈴と自分の相性が良かったんじゃないかと思うと、なんだかそれも嬉しい。
とにかく。だ。菫は幸せだった。身体中が痛かろうと、声がカッスカスになっていようと、思い出し笑いをするたびにその表情の気持ち悪さに同僚にドン引きされようとも、間違いなく幸せだった。
そんなことを考えながら、また、一番下の棚に図鑑を戻そうとして、痛みに悶絶する。今日の菫に学習能力を期待してほしくない。痛い目に逢っても何度でも同じことをしてしまう。
一頻り痛みが去るのを待ってから、今度は慎重に本を戻して、菫は事務室へと向かった。
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