210 / 392
夏夜
結婚を前提に 2
しおりを挟む
ヴーヴヴ。
ふと。また、LINEのバイブ音が聞こえてきた。遠くはない。すぐ近くだ。
辺りを見回す。と、ベッドの脇には菫のトートバッグが置いてあった。音はそこから聞こえているようだった。
「あ。それ、社のそばに落ちてました。なくなったものないか、確認してください」
鈴の言葉に、名残惜しいけれど、身体を起こして手を伸ばす。身体の節々が痛む。明日は筋肉痛だなと、苦笑が漏れた。
ヴーヴヴ。
菫がトートバックに手を伸ばす、その瞬間にまた、LINEの着信を知らせるバイブ音が鳴った。やけに間隔が短い。時間は深夜だ。こんな時間に何度もLINEを送ってくるなんて。普通なら、朝まで返信を待つような時間だ。
「あ」
そういえば、と、菫は思う。それから、さあ。っと、血の気が引いた。
「や……ばい」
慌ててトートバッグを取り上げてスマートフォンを探り当てる。引っ張り出して確認すると、LINEメッセージ20件の文字。
「う……あ」
おそるおそるタップすると、着信先は全て『池井椿』。つまりは菫の兄だった。
「兄ちゃんに。遅くなるってLINEするの忘れてた……」
ちょっと周りの人が引くほどに菫大好きな兄・椿。鈴と付き合い始めたことは、やっぱりというべきかすぐにバレた。積極的にデートの邪魔をしにきたりはさすがにしないのだが、かなり面白くはないらしく、少しでも帰りが遅くなるとLINE攻勢が始まるのだ。
どこにいる。からはじまり。だれといる。いつかえる。飲んでるのか。迎えに行ってやる。と、菫が同僚といたとしても、友人といたとしてもお構いなしだった。
「……過保護」
兄のことは好きだ。たった一人の兄弟で、大事な家族だ。両親がいなかったから、菫を親のように心配してくれているのはわかっている。でも、鬱陶しい。と、思ってしまう。
今更学生というわけでもないのだから、社会人男性が無断外泊したくらい放っておいてほしい。
迷ったけれど、後がうるさいので菫はLINEメッセージを返した。
今日は帰らない。
明日は遅番だから。9時くらいに帰る。
と。最小限の文字数で。必要最低限の連絡事項だ。下手な言い訳を書くと、火に油を注ぎかねない。
ふと。また、LINEのバイブ音が聞こえてきた。遠くはない。すぐ近くだ。
辺りを見回す。と、ベッドの脇には菫のトートバッグが置いてあった。音はそこから聞こえているようだった。
「あ。それ、社のそばに落ちてました。なくなったものないか、確認してください」
鈴の言葉に、名残惜しいけれど、身体を起こして手を伸ばす。身体の節々が痛む。明日は筋肉痛だなと、苦笑が漏れた。
ヴーヴヴ。
菫がトートバックに手を伸ばす、その瞬間にまた、LINEの着信を知らせるバイブ音が鳴った。やけに間隔が短い。時間は深夜だ。こんな時間に何度もLINEを送ってくるなんて。普通なら、朝まで返信を待つような時間だ。
「あ」
そういえば、と、菫は思う。それから、さあ。っと、血の気が引いた。
「や……ばい」
慌ててトートバッグを取り上げてスマートフォンを探り当てる。引っ張り出して確認すると、LINEメッセージ20件の文字。
「う……あ」
おそるおそるタップすると、着信先は全て『池井椿』。つまりは菫の兄だった。
「兄ちゃんに。遅くなるってLINEするの忘れてた……」
ちょっと周りの人が引くほどに菫大好きな兄・椿。鈴と付き合い始めたことは、やっぱりというべきかすぐにバレた。積極的にデートの邪魔をしにきたりはさすがにしないのだが、かなり面白くはないらしく、少しでも帰りが遅くなるとLINE攻勢が始まるのだ。
どこにいる。からはじまり。だれといる。いつかえる。飲んでるのか。迎えに行ってやる。と、菫が同僚といたとしても、友人といたとしてもお構いなしだった。
「……過保護」
兄のことは好きだ。たった一人の兄弟で、大事な家族だ。両親がいなかったから、菫を親のように心配してくれているのはわかっている。でも、鬱陶しい。と、思ってしまう。
今更学生というわけでもないのだから、社会人男性が無断外泊したくらい放っておいてほしい。
迷ったけれど、後がうるさいので菫はLINEメッセージを返した。
今日は帰らない。
明日は遅番だから。9時くらいに帰る。
と。最小限の文字数で。必要最低限の連絡事項だ。下手な言い訳を書くと、火に油を注ぎかねない。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる