真鍮とアイオライト 1

司書Y

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夏夜

結婚を前提に 2

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 ヴーヴヴ。

 ふと。また、LINEのバイブ音が聞こえてきた。遠くはない。すぐ近くだ。
 辺りを見回す。と、ベッドの脇には菫のトートバッグが置いてあった。音はそこから聞こえているようだった。

「あ。それ、社のそばに落ちてました。なくなったものないか、確認してください」

 鈴の言葉に、名残惜しいけれど、身体を起こして手を伸ばす。身体の節々が痛む。明日は筋肉痛だなと、苦笑が漏れた。

 ヴーヴヴ。

 菫がトートバックに手を伸ばす、その瞬間にまた、LINEの着信を知らせるバイブ音が鳴った。やけに間隔が短い。時間は深夜だ。こんな時間に何度もLINEを送ってくるなんて。普通なら、朝まで返信を待つような時間だ。

「あ」

 そういえば、と、菫は思う。それから、さあ。っと、血の気が引いた。

「や……ばい」

 慌ててトートバッグを取り上げてスマートフォンを探り当てる。引っ張り出して確認すると、LINEメッセージ20件の文字。

「う……あ」

 おそるおそるタップすると、着信先は全て『池井椿』。つまりは菫の兄だった。

「兄ちゃんに。遅くなるってLINEするの忘れてた……」

 ちょっと周りの人が引くほどに菫大好きな兄・椿。鈴と付き合い始めたことは、やっぱりというべきかすぐにバレた。積極的にデートの邪魔をしにきたりはさすがにしないのだが、かなり面白くはないらしく、少しでも帰りが遅くなるとLINE攻勢が始まるのだ。
 どこにいる。からはじまり。だれといる。いつかえる。飲んでるのか。迎えに行ってやる。と、菫が同僚といたとしても、友人といたとしてもお構いなしだった。

「……過保護」

 兄のことは好きだ。たった一人の兄弟で、大事な家族だ。両親がいなかったから、菫を親のように心配してくれているのはわかっている。でも、鬱陶しい。と、思ってしまう。
 今更学生というわけでもないのだから、社会人男性が無断外泊したくらい放っておいてほしい。
 迷ったけれど、後がうるさいので菫はLINEメッセージを返した。

 今日は帰らない。
 明日は遅番だから。9時くらいに帰る。

 と。最小限の文字数で。必要最低限の連絡事項だ。下手な言い訳を書くと、火に油を注ぎかねない。
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