真鍮とアイオライト 1

司書Y

文字の大きさ
上 下
204 / 392
夏夜

きみがすきだ 5

しおりを挟む
「……す……ず。おれ……」

 きっと、その少し体温の低い掌越しに怖いくらいに鳴る心臓の音が伝わっている。でも、恥ずかしいとは思わない。伝わればいいと思う。
 確かめるように素肌の上をすべる掌。くすぐったいような、むず痒いような、それでいて切ないような、もどかしいような感触。

「……ん。あ」

 けれど、かり。と、爪先がソコに触れた瞬間。思わず、声が漏れた。

「ここ。イイんですか?」

 そんなこと、聞かないで! と、言いたかったけれど、さらにかりかり。と、ソコをひっかくように刺激されて、言葉にはならなかった。
 多分、気持ちいい。とは、違う。と。思う。
 男の乳首なんて、そんな場所じゃない。と。思う。ゲイビのネコさんはすごく気持ちよさそうだったけれど。多分、今、菫が感じているのはまだ(?)それとは、違うものだ。と。思う。思いたい。

「……よく、ない?」

 耳から甘い蜂蜜みたいな声が脳に流し込まれた。と、感じた。

「あっ。ん」

 それを追って、つ。と、舌が耳を撫でる。その上、耳朶を甘噛みされて、同時にさっきまで爪で擽っていたソコをきゅ。と、ゆるく抓まれて、漏れた声はゲイビも真っ青な甘い、かすれた声だった。

「イイんだ?」

 菫の反応に、鈴が少しだけ意地の悪い顔をする。いつもの菫の反応を見てくれる鈴とは違うそんな表情にぞくり。と、何かが背筋を掠めた。

「……や。……よく……な」

 そんなところで感じているのだと、自覚すると、それが恥ずかしくて、思わず否定の言葉が漏れる。けれど、その声も子猫が鳴くような甘え切った声だった。恥ずかしくて逃げ出そうと身体を捩ると、ぐい。と、力強い腕で押し戻された。

「じゃ。よくなるようにもっと、『練習』しないと」

 そんなことを言って、鈴は小さな菫の胸の突起を抓んで刺激しながら、その先端をかりかり。と、ひっかいてきた。なんだか、妙に楽しそうだ。態勢が変わって、さっきよりずっと固い何かがわかりやすく菫の身体に当たっている。鈴は身体の関係なんて望んでいないんじゃないか。なんて、完全に杞憂だったらしい。

「や……ま。すず。んん……かりかり……しない……で」

 ソコを弄ぶ鈴の腕に片手を添えて、けれど、引き離すことなんてできなくて、されるがままになりながら、ぎゅ。と、もう片方の手で鈴の服の裾を握り締める。そんな初々しい姿に煽られない恋人なんていないことに、菫は気付いてはいなかった。

「ホント……かわいい。もっと、もっと、見せてください」

 胸を弄る手はそのままに、する。と、もう片方の手が菫の下半身に延びた。ハーフパンツの布越しに鈴の手が、ソコに触れる。もう、変な声を出さずにいるのが精一杯で、菫は両手で口を押えて、ふるふる。と、首を振る。

「よかった。勃ってる」

 安堵したようなため息を漏らして、鈴が呟いた。その言葉の通りだった。さっきから、菫のソコだって、しっかりと反応している。

「ンンっ」

 いや。反応しているなんていう状態ではない。張り詰めて痛いくらいだ。

「すご……。濡れてる」

 片手でハーフパンツと下着をずらされて、ソコが少し薄暗い間接照明の元に晒された。鈴のいう通りに、ソコは既に先走りで濡れている。
 でも、やっぱり、言わないでほしかった。恥ずか死ねる。

「そ……んなの……すず……だって」

 なんだか、自分だけが興奮しているみたいで悔しくて、菫はさっきから当たっている鈴の固いものに触れた。いや、正確には握った。

「……あ……」

 そこで、固まったのは、鈴ではなくて菫の方だった。鈴も、ん。と、小さく切羽詰まったような声を漏らしたけれど、菫の耳には届いていなかった。

「……あ……の」

 自分のしでかしたことが恥ずかしいのももちろんある。けれど、それ以上に。

「……お……きいね?」

 想像以上だった。鈴の体格から言って小さいことはないとは思ったけれど、想像以上だった。

「……えと。無理……ですか?」

 しゅん。と、少し困ったような表情を浮かべる鈴。その表情は今まで見たどんな顔よりも可愛く見えて、もう、ダメなんて言葉は心の片隅からも消えてしまっていた。

「……大丈夫。でも。その。ゆっくり。お願いします」

 笑顔はぎこちなかったかもしれないけれど、笑いかけるとものすごく申し訳なさそうな顔で、鈴の髪がすり寄ってくる。

「ごめんなさい。けど。も、やめるのは……無理そうで……絶対に優しくするから」

 言い訳のように言う鈴の言葉は、キスで遮った。

「いいんだよ? も。やめるの。無理なのは。俺も一緒」

 そのまま、ぎゅ。と、抱きしめる。

「少しくらい痛くてもいいし、苦しくてもいい。でも、今日。鈴と……したい」

 さっきのお返しとばかりに耳元で囁くと、菫が抱きしめるよりずっと強い力で抱き返された。

 あ。これが、繋がる。ってことだ。

 ふと。思う。
 今まで女性とした行為だって、セックスだったけれど、これはきっと特別だ。今、この瞬間も、これから鈴と二人ですることも、今まで誰かとしたどんなこととも違う。
 菫の全部で、鈴の全部と繋がるのだということ。

「鈴。ありがと」

 見つけてくれて。
 出会ってくれて。
 好きになってくれて。
 特別になってくれて。

 繋いでくれて。

 菫の思いは鈴が再開した愛撫に言葉にはならなかったけれど、きっと、伝わった。そう、確信できた菫だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...