真鍮とアイオライト 1

司書Y

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夏夜

きみがすきだ 4

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 そこは、8畳ほどの部屋で白い壁に近代的な建物の写真のパネルが何枚も飾られた部屋だった。デスクトップのパソコンが置かれたデスクとチェア。壁際の大きな書架には建築の本が並んでいる。ロータイプのベッドは大きくて、少し掛布団が乱れている。恐らくは、鈴の部屋だろう。
 部屋の全部から、鈴の『匂い』がする。目が眩みそうだ。

「鈴。あの……」

 躊躇いがちに声をかけると、ベッドの端にそっと、下ろされる。
 そのまま、ベッドに座らされて、座った菫の前に跪くようして、鈴が見上げてきた。

「できる限り。優しくします」

 懇願するように鈴が言う。だから、もう、頷くしかなかったし、それでいいと思えた。菫の返事を待っていましたとでもいうように、鈴の唇が、もう一度菫のそれに重なる。そうして、また、深いキスを受け入れている間に、驚くほど自然に身体は、ベッドに横たえられていた。

「ん。……ン」

 砂糖菓子のような甘い、それでいて燃え盛る炎のように熱くて激しいキス。思うさま咥内を弄られ、頭の芯が痺れたような感覚。
 鈴の大きな手が服の上からお伺いを立てるように身体に触れる。

「……ぁあ」

 唇が解放されると、思わず漏れたため息。この日を、この時を何度も想像した。でも、男性経験がない菫にはうまく想像ができなかった。

「菫さん」

 鈴の吐息も少し浅い。名前を呼ばれただけで、おかしくなりそうだ。つ。と、鈴の指先が頬から、首筋をなぞる。それだけで、菫の身体はびくり。と、震えた。

「……菫さん」

 指先がなぞった場所にちゅ。と、唇が触れる。

「にゃっ」

 思いがけない声が出てしまって、菫は口を押えた。

 にゃっ。ってなんだよ。にゃ。って。

 と、心の中で思いっきり自分自身にツッコミを入れる。恥ずかしくて、情けなくて、顔がこれ以上ないくらいに真っ赤になった。

 今のなし。なしにして。

 と、色気のない自分に自己嫌悪。やっぱり、ゲイビのような色気のある声なんて自分には無理だったと、涙が出そうになった。きっと、鈴だって幻滅している。
 涙目になって、もう声は出すまい。と、心に誓っていると、ふ。と、鈴の唇が耳元に寄った。

「菫さん。かわいい」
 
 鈴の低い声が鼓膜を擽る。その感覚にもびくり。と、反応して、鈴の顔を見ると熱の籠った視線。重なった身体の心地よい重みとは明らかに違った固い何かが下腹のあたりに当たっているのに気付いて、同性だからその意味も分かって、どきり。と、心臓が一際大きく跳ねた。

「もっと……聞かせてください」

 そのまま、軽く啄むみたいなキス。かわいい要素がどこにあったのだろうと、軽く頭をかすめたけれど、鈴の掌がTシャツの裾から入ってきたらまた、そんなことは吹き飛んだ。
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