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君が綺麗と言う満月の夜のあれこれ
6 月が綺麗だし
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最初は戸惑っていたようだけれど、鈴はちゃんと、菫に気付いてくれた。気付いてくれたことも、その理由も菫は本当に嬉しかった。あのキツネたちには腹が立ったし、もう二度と会いたくはないけれど、そんなことどうでもよくなるくらいに嬉しかった。
「あの。池井さん」
家の玄関ドアにカギをさしてから、鈴が振り返る。
「これ。池井さんのですよね」
少女の方が鈴の手に残していったもの。それを鈴は菫に差し出した。それは、ビニール製の袋に入った片手に乗るほどの小箱だった。
「や。……その。それは、鈴君に渡そうと思って」
答えると、鈴は不思議そうな顔をした。どうやら、意味には気付いていないらしい。
「あのさ。職権乱用で申し訳ないんだけど……利用カードの登録の時。誕生日見ちゃったから。プレゼント」
別にわざわざ調べたわけではないと言い訳はしておく。ただ、最初から鈴のことは気になっていたから、覚えていただけだ。
一か月前から悩みまくってプレゼントを用意して、今日も明日も休みはとれなかったから、明後日ちゃんとお祝いしようと計画していた。全部、鈴を喜ばせたかったからだ。
「誕生日。おめでとう。本当は休みにしてお祝いしたかったんだけど。今頃になってごめん。その上変なのに絡まれて遅くなるし。今日中に渡せてよかった」
一度袋を受け取ってから、菫は中の箱を取り出して、もう一度鈴に渡した。
「俺のために選んでくれたんですか?」
「うん。気に入るかは……わかんないけど」
鈴の言葉に菫が頷くと、驚いたような顔でそれを受け取ってから、鈴はすごく嬉しそうに笑った。
「池井さんが俺のために選んでくれたものが気に入らないわけないです。嬉しいです。ホントに」
そう言って、箱をじっと見てから、鈴は菫を抱きしめる。それから、耳元にありがとう。と、囁く。吐息が産毛にかかって、くすぐったい。身を竦めると、抱きしめる腕の力が強くなった。
「……あの。さ」
心臓が跳ねる。どきどき。と、音が聞こえるほどだ。鈴にも聞こえてしまっているのではないかと思う。
菫には、もう一つ。鈴にあげたいものがあった。
「明日。休みではないんだけど。遅番なんだ」
ぎゅ。と、鈴の服の裾を握る。
こんなことを言ってひかれないだろうか。
意味が分かってくれるだろうか。
焦ってみっともないと思われないだろうか。
でも、言いたいし、伝えたい。
頭の中は満員電車のようだった。いろいろな思いがぎゅうぎゅうに詰め込まれて、パンクしそうだ。
「……か……えらなくても。いい……かな?」
鈴の顔が見られない。
でも、今日だと決めていたから、なけなしの勇気を振り絞る。
「帰さないでいいんですか?」
ぎゅう。と、息ができないほどに抱きしめられた。頷くと、ため息のような鈴の吐息が聞こえる。
「聞きましたからね? も。撤回できないですよ?」
ぐい。と、鈴の両手が頬を包み込んで顔を上げられる。その綺麗な瞳がまっすぐに見つめていた。だから、鈴の目を見たままもう一度頷く。
「うん。いい。月……綺麗だしね」
鈴の肩越しに見える月は本当に綺麗だった。だから、今夜がいいと、もう一度思う。
「うあ。マジか。も。死んでもいい」
そう言って、鈴がもう一度強く強く抱きしめてくれた。
そうして、抱きしめられたまま、開いたドアの中に入る。その先は過たず鈴の家の中へと続いていた。
ぱたり。と、ドアが閉まる。
月明かりだけがそれを照らしていた。
「あの。池井さん」
家の玄関ドアにカギをさしてから、鈴が振り返る。
「これ。池井さんのですよね」
少女の方が鈴の手に残していったもの。それを鈴は菫に差し出した。それは、ビニール製の袋に入った片手に乗るほどの小箱だった。
「や。……その。それは、鈴君に渡そうと思って」
答えると、鈴は不思議そうな顔をした。どうやら、意味には気付いていないらしい。
「あのさ。職権乱用で申し訳ないんだけど……利用カードの登録の時。誕生日見ちゃったから。プレゼント」
別にわざわざ調べたわけではないと言い訳はしておく。ただ、最初から鈴のことは気になっていたから、覚えていただけだ。
一か月前から悩みまくってプレゼントを用意して、今日も明日も休みはとれなかったから、明後日ちゃんとお祝いしようと計画していた。全部、鈴を喜ばせたかったからだ。
「誕生日。おめでとう。本当は休みにしてお祝いしたかったんだけど。今頃になってごめん。その上変なのに絡まれて遅くなるし。今日中に渡せてよかった」
一度袋を受け取ってから、菫は中の箱を取り出して、もう一度鈴に渡した。
「俺のために選んでくれたんですか?」
「うん。気に入るかは……わかんないけど」
鈴の言葉に菫が頷くと、驚いたような顔でそれを受け取ってから、鈴はすごく嬉しそうに笑った。
「池井さんが俺のために選んでくれたものが気に入らないわけないです。嬉しいです。ホントに」
そう言って、箱をじっと見てから、鈴は菫を抱きしめる。それから、耳元にありがとう。と、囁く。吐息が産毛にかかって、くすぐったい。身を竦めると、抱きしめる腕の力が強くなった。
「……あの。さ」
心臓が跳ねる。どきどき。と、音が聞こえるほどだ。鈴にも聞こえてしまっているのではないかと思う。
菫には、もう一つ。鈴にあげたいものがあった。
「明日。休みではないんだけど。遅番なんだ」
ぎゅ。と、鈴の服の裾を握る。
こんなことを言ってひかれないだろうか。
意味が分かってくれるだろうか。
焦ってみっともないと思われないだろうか。
でも、言いたいし、伝えたい。
頭の中は満員電車のようだった。いろいろな思いがぎゅうぎゅうに詰め込まれて、パンクしそうだ。
「……か……えらなくても。いい……かな?」
鈴の顔が見られない。
でも、今日だと決めていたから、なけなしの勇気を振り絞る。
「帰さないでいいんですか?」
ぎゅう。と、息ができないほどに抱きしめられた。頷くと、ため息のような鈴の吐息が聞こえる。
「聞きましたからね? も。撤回できないですよ?」
ぐい。と、鈴の両手が頬を包み込んで顔を上げられる。その綺麗な瞳がまっすぐに見つめていた。だから、鈴の目を見たままもう一度頷く。
「うん。いい。月……綺麗だしね」
鈴の肩越しに見える月は本当に綺麗だった。だから、今夜がいいと、もう一度思う。
「うあ。マジか。も。死んでもいい」
そう言って、鈴がもう一度強く強く抱きしめてくれた。
そうして、抱きしめられたまま、開いたドアの中に入る。その先は過たず鈴の家の中へと続いていた。
ぱたり。と、ドアが閉まる。
月明かりだけがそれを照らしていた。
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