真鍮とアイオライト 1

司書Y

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化けて化かす性質のもの

2 白猫

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 外は満月だった。軽く舌打ち。綺麗だとは思う。しかし、満月の日はザワつく。
 なにが。と、明確には言葉にできないけれど、常にさわさわ。と、音未満の音がする。無風なのに、うなじの毛を何かが撫ぜる。視界の端を形になりきらないものが掠める。
 今日は満月だ。

 だから、『よくない』。

 そんなことを思っていたからだろうか、視界の端を本当に何かが掠めた。はっとして鈴は顔を上げる。
 そうするとその影は音もなく動いて、鈴の足元に止まった。

「にゃあん」

 怪異でも何でもない。それは、一匹の白猫だった。耳としっぽだけが少し茶色い。左耳の先が少し欠けている。しっぽが長くて、成猫と思われるが体格は小さくて細身。綺麗な青い目で、月光のせいなのか少しだけ紫がかって見えた。

「……猫? この辺のコじゃないな。どこから来たんだ?」

 声をかけると、もう一声小さく鳴いてから、その猫は鈴の脚にすり寄ってきた。人懐こい。手を伸ばして頭を撫でてやると、嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
 りん。と、鈴が鳴る。
 はっとして、猫を見るが、首輪はつけていない。もしかしたら、この猫の首輪の鈴をあの鈴の音と聞き間違えていたのかと思って一瞬焦ってしまったが、どうやらそんなこともなかったようだ。

「遊んでやりたいけど、また今度な?」

 背中を撫でて、身体を起こす。 
 バイクが廃車になってしまったから、自転車しかない。自転車に跨ってから、LINEを開いて確認する。
 その間も、猫はじっと鈴を見ていた。

 たしか、今日菫は遅番のはずだ。ということは、今は帰り道。スマホの時計は午後8時30分になろうかという時間だ。菫のタイムスケジュールをすべて把握しているわけではないけれど、何もなければ、仕事を終えて、駐車場まで歩いてから、車に乗って移動している最中と言ったところだと思う。
 鈴の音はすごく近く感じる。もしかしたら、この近くを車で移動しているのかもしれない。

 自転車のペダルに足をかけてから、どちらへ向かうべきか逡巡する。近いか遠いかはなんとなくわかるとしても、菫がどこにいるかまではわからない。バイクなら少しくらい遠回りになろうとも、時間も体力もロスは少なくて済むけれど、自転車ではそうは行かない。

 やっぱ、無理してでもスクーター買おう。

 そんなこと考えてから、やっぱり菫の通勤路を逆向きに進もう。と、心を決めた。
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