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シリアスまではほど遠い
おれのすーちゃん 1
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「好きです。ずっと。俺も。初恋でした」
唇が離れると、まだ夢の中にいるみたいな菫に鈴が言う。
幸せ過ぎて胸が詰まる。喉の奥が熱くて、なんだか、涙が出そうだった。
ちりん。
そのとき、鈴の音が聞こえた。
それは、このところよく聞く音だった。
鈴に初めて会った日。流星群を見た日。鈴が図書館で絵本を読んでいた日。稲荷男に会った日。
人には見えないものを見た日にはいつも聞いていた音だ。
けれど、今日は、その音が妙に近い。
「あ」
音源を探そうと視線を動かすと、その先にあった。
足だ。
ふくらはぎよりも下の足。
足だけ。
それに、菫は見覚えがあった。
「あ。にやにやしたやつ」
鈴の腕の中にいるという夢のような状況も忘れて、菫は思わず呟いてしまった。呟いてから、気付かないふりをしておけばよかったと後悔したけれど、遅かった。鈴の腕が名残惜しそうに離れる。
「足? ですか? 足だけ??」
鈴が菫の見ていたものに気付いて呟く。今更ながらやっぱり見えていたのだと再確認した。
「あ。あいつ。こないだの黒い犬から助けてくれて……上の方は食われちゃったんだ。もともとは、ストーカーだけど」
「ストーカー?」
菫の説明のおそらくもっともどうでもいい(と、菫は思っている)部分に鈴は食い付いた。肩眉がピクリ。と動いて途端にいつも他人に見せる無表情が顔を出す。
「池井さんに付きまとってたんですか?」
一瞬。温度が下がったような気がした。
その冷気みたいなものが鈴の方から発せられているような気がする。
「や。多分。黒犬のこと俺に知らせようとして、伝わらなかったからついてきてただけだと思うけど」
何かうすら寒い感じがして、菫は立ち上がって元にや男の現足のみに歩み寄った。随分と小さくなってしまったけれど、存在していること自体に影響はないようだ。いや、むしろ、全身だった時より色が濃い気がする。
「助けてくれてありがと。そんなんなっちゃったんだったら、成仏したら?」
足の前にしゃがみこんでそう言うと、足はたん。と、爪先を鳴らして反応を返した。そう言えばぶつぶつとよくしゃべるヤツだったから、口がなくなってさぞ不便だろうなんて思う。
ちりん。
と、また、音が聞こえる。
また?
と、辺りを見回すとその音は菫の手の中から聞こえているようだった。
「気付いてました? それ、池井さんが『そういうの』と接触すると鳴るんです。近ければ近いほど大きい音がします。池井さん、こないだどうして助けに来たのかって聞いてましたよね? それに教えてもらってたんです」
菫と同じように立ち上がって、足のそばまで歩いてきて、鈴は言った。
「しばらくはついてくるかもしれないですけど、少なくとも危ないヤツじゃないから、放っておいても大丈夫だと思います。
池井さんも気付いていると思うけど、アブないヤツなんてそんなにいません。人間のヤバいヤツと同じくらいの割合だと思いますけど、『そういうの』自体絶対数が少ないから、簡単に出会ったりはしないです。それに、危ないヤツでも近づかなければ基本大丈夫。
でも、池井さんは気を付けたほうがいい。そんなふうに優しくしたら、ついてくるヤツは増えますよ?」
そう言って、鈴はしっし。と、するように手を払った。そうすると、ふ。と、足が消える。
唇が離れると、まだ夢の中にいるみたいな菫に鈴が言う。
幸せ過ぎて胸が詰まる。喉の奥が熱くて、なんだか、涙が出そうだった。
ちりん。
そのとき、鈴の音が聞こえた。
それは、このところよく聞く音だった。
鈴に初めて会った日。流星群を見た日。鈴が図書館で絵本を読んでいた日。稲荷男に会った日。
人には見えないものを見た日にはいつも聞いていた音だ。
けれど、今日は、その音が妙に近い。
「あ」
音源を探そうと視線を動かすと、その先にあった。
足だ。
ふくらはぎよりも下の足。
足だけ。
それに、菫は見覚えがあった。
「あ。にやにやしたやつ」
鈴の腕の中にいるという夢のような状況も忘れて、菫は思わず呟いてしまった。呟いてから、気付かないふりをしておけばよかったと後悔したけれど、遅かった。鈴の腕が名残惜しそうに離れる。
「足? ですか? 足だけ??」
鈴が菫の見ていたものに気付いて呟く。今更ながらやっぱり見えていたのだと再確認した。
「あ。あいつ。こないだの黒い犬から助けてくれて……上の方は食われちゃったんだ。もともとは、ストーカーだけど」
「ストーカー?」
菫の説明のおそらくもっともどうでもいい(と、菫は思っている)部分に鈴は食い付いた。肩眉がピクリ。と動いて途端にいつも他人に見せる無表情が顔を出す。
「池井さんに付きまとってたんですか?」
一瞬。温度が下がったような気がした。
その冷気みたいなものが鈴の方から発せられているような気がする。
「や。多分。黒犬のこと俺に知らせようとして、伝わらなかったからついてきてただけだと思うけど」
何かうすら寒い感じがして、菫は立ち上がって元にや男の現足のみに歩み寄った。随分と小さくなってしまったけれど、存在していること自体に影響はないようだ。いや、むしろ、全身だった時より色が濃い気がする。
「助けてくれてありがと。そんなんなっちゃったんだったら、成仏したら?」
足の前にしゃがみこんでそう言うと、足はたん。と、爪先を鳴らして反応を返した。そう言えばぶつぶつとよくしゃべるヤツだったから、口がなくなってさぞ不便だろうなんて思う。
ちりん。
と、また、音が聞こえる。
また?
と、辺りを見回すとその音は菫の手の中から聞こえているようだった。
「気付いてました? それ、池井さんが『そういうの』と接触すると鳴るんです。近ければ近いほど大きい音がします。池井さん、こないだどうして助けに来たのかって聞いてましたよね? それに教えてもらってたんです」
菫と同じように立ち上がって、足のそばまで歩いてきて、鈴は言った。
「しばらくはついてくるかもしれないですけど、少なくとも危ないヤツじゃないから、放っておいても大丈夫だと思います。
池井さんも気付いていると思うけど、アブないヤツなんてそんなにいません。人間のヤバいヤツと同じくらいの割合だと思いますけど、『そういうの』自体絶対数が少ないから、簡単に出会ったりはしないです。それに、危ないヤツでも近づかなければ基本大丈夫。
でも、池井さんは気を付けたほうがいい。そんなふうに優しくしたら、ついてくるヤツは増えますよ?」
そう言って、鈴はしっし。と、するように手を払った。そうすると、ふ。と、足が消える。
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