171 / 392
シリアスまではほど遠い
夕暮れの公園にて 4
しおりを挟む
「いない!!」
堪らない気持ちになって、大声で叫ぶ。
たとえ、そういうものがいるとして、それがどんなに可哀想な過去を持っていたとしても、それを背負わなければいけないのは、この子ではないと思った。こんな小さい子に助けてなんて、無理に決まっている。
「いないよ。そんなの。大丈夫!」
立ち上がって、ブランコに座った少女の前に座り込む。そして、その目を見つめる。
「いない! 絶対にいない。ほら。これ」
ポケットから出てきたお守りを、少女の手に握らせる。それは、小さな鈴が付いた青い石のストラップだ。誰からもらったかも、いつから持っていたかもわからない。ご利益があるかなんて知らない。ただ、少しでもその子に安心をあげたかった。
「このお守り、すごく効くんだよ。きっと、守ってくれる。だから、大丈夫」
後で、考えると、バカ丸出しだと思う。
いないと言いながら、それから守ってくれるってどういう意味なんだ。と、恥ずかしくなる。
それでも、ガキだった自分にはそれが精一杯だった。
「……いない?」
呆けたように、少女は言った。今、はじめてその言葉を知ったような顔だった。
「うん。いない。だから、安心して、家へ帰りな?」
渡されたストラップをじっと見つめてから、少女はそれをぎゅう。と、握りしめた。それから、顔をあげて、笑う。やっぱり、可愛い笑顔だった。思わず見惚れてしまうほどだ。
「おにいちゃん。ありがと」
とくん。と、小さな鼓動の音が聞こえた。
さっき、恐怖で高鳴ったのとは違う音だ。
「……うん」
それが、何かわかる前に、少女が立ち上がる。
「あ。もう、かえらなきゃ。お母さんにおこられる」
すっかり暗くなってしまった空を見上げて、少女が言った。
「おにいちゃん。こんどはあそんでくれる?」
くるり。と、振り返って、大きな瞳が見ている。きらきら、と、街灯の光でさえも綺麗に光るその瞳を太陽の下で見てみたいと思った。
「うん。うち、遠くじゃないから、また遊びに来るよ」
そう答えると、少女が笑う。泣いている顔も、可愛かったけれど、喜びに上気する顔は見るだけで嬉しくなるような美少女だった。
ここに来たときには暗く沈んだ気持ちだったのに、この出会いだけでも、気持ちが軽くなった気がする。自分のことは何一つ片付いていないけれど、同じように行き場を失くしていた誰かを助けられたことに、自分自身が救われていることに気付いた。
「うん。じゃあね。約束だよ?」
背中を向けて去ろうとする少女に、忘れていたことがあると気付く。
「あ。ちょっと待って」
声をかけると、少女は振り返った。
「名前。教えて」
そういうと、少女は形の良い唇開いた。
「すーちゃん」
そう言って、少女は走り去った。
堪らない気持ちになって、大声で叫ぶ。
たとえ、そういうものがいるとして、それがどんなに可哀想な過去を持っていたとしても、それを背負わなければいけないのは、この子ではないと思った。こんな小さい子に助けてなんて、無理に決まっている。
「いないよ。そんなの。大丈夫!」
立ち上がって、ブランコに座った少女の前に座り込む。そして、その目を見つめる。
「いない! 絶対にいない。ほら。これ」
ポケットから出てきたお守りを、少女の手に握らせる。それは、小さな鈴が付いた青い石のストラップだ。誰からもらったかも、いつから持っていたかもわからない。ご利益があるかなんて知らない。ただ、少しでもその子に安心をあげたかった。
「このお守り、すごく効くんだよ。きっと、守ってくれる。だから、大丈夫」
後で、考えると、バカ丸出しだと思う。
いないと言いながら、それから守ってくれるってどういう意味なんだ。と、恥ずかしくなる。
それでも、ガキだった自分にはそれが精一杯だった。
「……いない?」
呆けたように、少女は言った。今、はじめてその言葉を知ったような顔だった。
「うん。いない。だから、安心して、家へ帰りな?」
渡されたストラップをじっと見つめてから、少女はそれをぎゅう。と、握りしめた。それから、顔をあげて、笑う。やっぱり、可愛い笑顔だった。思わず見惚れてしまうほどだ。
「おにいちゃん。ありがと」
とくん。と、小さな鼓動の音が聞こえた。
さっき、恐怖で高鳴ったのとは違う音だ。
「……うん」
それが、何かわかる前に、少女が立ち上がる。
「あ。もう、かえらなきゃ。お母さんにおこられる」
すっかり暗くなってしまった空を見上げて、少女が言った。
「おにいちゃん。こんどはあそんでくれる?」
くるり。と、振り返って、大きな瞳が見ている。きらきら、と、街灯の光でさえも綺麗に光るその瞳を太陽の下で見てみたいと思った。
「うん。うち、遠くじゃないから、また遊びに来るよ」
そう答えると、少女が笑う。泣いている顔も、可愛かったけれど、喜びに上気する顔は見るだけで嬉しくなるような美少女だった。
ここに来たときには暗く沈んだ気持ちだったのに、この出会いだけでも、気持ちが軽くなった気がする。自分のことは何一つ片付いていないけれど、同じように行き場を失くしていた誰かを助けられたことに、自分自身が救われていることに気付いた。
「うん。じゃあね。約束だよ?」
背中を向けて去ろうとする少女に、忘れていたことがあると気付く。
「あ。ちょっと待って」
声をかけると、少女は振り返った。
「名前。教えて」
そういうと、少女は形の良い唇開いた。
「すーちゃん」
そう言って、少女は走り去った。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる