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シリアスまではほど遠い
夕暮れの公園にて 2
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おばけとか、都市伝説とか、クラスの女子はテレビで特集があるたびに、翌日になるときゃいきゃい。と、大騒ぎして話している。こわい。とか、言いながらよくやるよな。と、いつも思う。
怖いなら見なければいい。
怖いなら話さなければいい。
怖いなら近寄らなければいい。
怖いなら逃げればいい。
そんなふうに思いながらも、少しだけ。と、言い訳して自分も心霊特集は見るし、その後結局怖くなって、別の部屋で寝ている兄のベッドに潜り込むのだ。その時になって後悔するのに、それでも、また、反省も忘れて心霊特集を見る。
そんな自分のバカさ加減にその時もまた、同じ後悔を繰り返していた。
きい。
また、ブランコが軋む。
そちらが見られなくて、自分の足を見つめる。靴の先が泥で汚れているのが見える。落とさないで玄関に入ったらきっと、母はまた、怒るだろう。
どこかで、落とさないと。
必死にそんなことを考えて、ブランコの軋む音から耳を背ける。どくん。どくん。と、心臓の音が高まる。こめかみのあたりが脈打つようだ。
にいちゃん。たすけて。
家を飛び出す前、母と何かを言い争っていた兄に心の中で助けを求める。
母にも父にも別に虐待されていたわけでもない。自分に対する関心が薄いことにはうすうす気づいていたけれど、生活は何不自由なかったし、行事ごとにも殆ど顔を出してくれて、必要な時は話を聞いてくれた。それでも、助けを求める相手は父でも母でもなく歳の離れた兄だ。
「だれ?」
りん。と、鈴が鳴るような声だった。
顔を上げると、少女がこちらを見ていた。
とても、とても、可愛らしい少女だった。
「おにいちゃん。だれ?」
人形のように整った顔が夕日を反射して赤く染まっている。と、思ったすぐ後に気付く。ただ、夕日を受けて赤く見えるわけではない。泣きはらしたような目元も、ぐしぐしと鳴らす鼻の頭も、そう見えるだけでなく赤くなっている。きっと、泣いているからだと思う。
「え……と」
その顔を見て、なんだか、猛烈に恥ずかしくなった。その子は心霊特集に出てくるようなものでもなんでもない、ただの女の子だ。勝手に勘違いして、勝手に怖がっていた時分が馬鹿みたいに思えてきた。
「おにいちゃんは、いけいすみれっていいます。S西小学校の4年生です」
恥ずかしさを誤魔化すように丁寧に答える。少女を”おばけ”扱いしたお詫びの気持ちもあったと思う。
「すみれ?」
その名前は嫌いだった。名乗るときはいつも女みたいとバカにされていたからだ。それをネタにずっと揶揄われるようなことはなかったけれど、面白くはなくて、いつも友達には”いけい”と、呼ばせていた。
「お花のなまえ。きれい」
馬鹿にするでもなく、ただ感心したようにいう少女にはそう呼ばれてもいいかな。と、思えた。なにより、少女の口から出る『すみれ』という言葉はその花のように控え目で綺麗な音だった。
怖いなら見なければいい。
怖いなら話さなければいい。
怖いなら近寄らなければいい。
怖いなら逃げればいい。
そんなふうに思いながらも、少しだけ。と、言い訳して自分も心霊特集は見るし、その後結局怖くなって、別の部屋で寝ている兄のベッドに潜り込むのだ。その時になって後悔するのに、それでも、また、反省も忘れて心霊特集を見る。
そんな自分のバカさ加減にその時もまた、同じ後悔を繰り返していた。
きい。
また、ブランコが軋む。
そちらが見られなくて、自分の足を見つめる。靴の先が泥で汚れているのが見える。落とさないで玄関に入ったらきっと、母はまた、怒るだろう。
どこかで、落とさないと。
必死にそんなことを考えて、ブランコの軋む音から耳を背ける。どくん。どくん。と、心臓の音が高まる。こめかみのあたりが脈打つようだ。
にいちゃん。たすけて。
家を飛び出す前、母と何かを言い争っていた兄に心の中で助けを求める。
母にも父にも別に虐待されていたわけでもない。自分に対する関心が薄いことにはうすうす気づいていたけれど、生活は何不自由なかったし、行事ごとにも殆ど顔を出してくれて、必要な時は話を聞いてくれた。それでも、助けを求める相手は父でも母でもなく歳の離れた兄だ。
「だれ?」
りん。と、鈴が鳴るような声だった。
顔を上げると、少女がこちらを見ていた。
とても、とても、可愛らしい少女だった。
「おにいちゃん。だれ?」
人形のように整った顔が夕日を反射して赤く染まっている。と、思ったすぐ後に気付く。ただ、夕日を受けて赤く見えるわけではない。泣きはらしたような目元も、ぐしぐしと鳴らす鼻の頭も、そう見えるだけでなく赤くなっている。きっと、泣いているからだと思う。
「え……と」
その顔を見て、なんだか、猛烈に恥ずかしくなった。その子は心霊特集に出てくるようなものでもなんでもない、ただの女の子だ。勝手に勘違いして、勝手に怖がっていた時分が馬鹿みたいに思えてきた。
「おにいちゃんは、いけいすみれっていいます。S西小学校の4年生です」
恥ずかしさを誤魔化すように丁寧に答える。少女を”おばけ”扱いしたお詫びの気持ちもあったと思う。
「すみれ?」
その名前は嫌いだった。名乗るときはいつも女みたいとバカにされていたからだ。それをネタにずっと揶揄われるようなことはなかったけれど、面白くはなくて、いつも友達には”いけい”と、呼ばせていた。
「お花のなまえ。きれい」
馬鹿にするでもなく、ただ感心したようにいう少女にはそう呼ばれてもいいかな。と、思えた。なにより、少女の口から出る『すみれ』という言葉はその花のように控え目で綺麗な音だった。
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