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シリアスまではほど遠い
夕暮れの公園にて
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日が沈んで、けれど夜が来る前の空は見たこともないようなグラデーションに染まっていた。白から黃、黄からオレンジ、そして赤。薄曇の頭の上は山の向こうの太陽の光を受けて、本当に燃えているようだ。
夜と昼の交代する僅かな隙間。小学生の自分は小さな公園にいた。
決まった時間に町内放送から流れる夕焼け小焼けは、少し前に聞いた。それを聞いたら子供は帰る時間だ。
もう、誰も居ないはずの小さな公園。
そこで、女の子が泣いていた。
日本人離れしたビスクドールのような透き通った白い肌の、クリッと大きな目をした、少し色素の薄いショートカットの田舎の町の公園には似つかわしくないすごく、すごく可愛い子だった。
自分が何故そこに、そんな時間にいたのかはあまり覚えていない。多分、その頃険悪になっていた(と、いってもいつも苛ついていたのは母ばかりなのだが)両親の言い争いに巻き込まれて、母に酷く叱責されたからだったと思う。けれど、内容については何も覚えてはいない。
ただ、気持ちがひどく沈んでいた。
家に帰りたくないと言うよりも、帰れないとかという気持ちが強かったように思う。
別に場所なんてどこでもよかった。母に顔を見せずにすむなら、見せて苛つかれることがないなら、帰れないほど遠くでもよかった。
だから、その公園に入った意味なんてない。遠くてもいいなんて思っていたけど、そこは家から15分もかからない場所だった。10歳かそこらの自分が行ける範囲なんて限られていて、大人に咎められることがないような場所はそこしか思いつかなかっただけだ。
公園は150cmくらいの生け垣で囲まれていて、道路からは覗き込まない限りなかを見渡せない。とくに、ブランコのある辺りは街灯がまばらで、一見して誰かがいるようには見えないだろう。
小さいとはいえ、住宅地にある公園は昼間は小さな子を連れた母親で、放課後は小学生で人が途切れない。けれど、今はひっそりとして誰もいないように見えた。
だから、ブランコの方に向かった。放課後は大抵誰かがそこを陣取っていて、順番待ち状態のブランコに、こんな時くらいは思う存分のってみたかったからだ。そんなもので晴れるはずもなかったけれど、少しでも自分を慰めたかったのだと思う。
それなのに。
そこに、その子がいた。
まだ、薄暗いというには早い。けれど、昼間の光に満ちた景色とは違う。どこにも属さない中間の。グラデーションの名前を持つ色と色の間の。名前のない色のような曖昧な時間。小学生の自分でも遊んでいたら早く帰れと怒られるような時間なのに、自分より小さい少女が、ブランコに座っていた。
たぶん、保育園の大きい子のクラスか、小学校に上がったばかりくらいの子だ。どこにでも売っているような青いTシャツに紺のズボン。汚れた風はない。着ているものはごくごく普通の子供だった。
それでも、一瞬、どきり。として、足が止まった。その子が、俯いてしゃくりあげているのが分かったからだ。
以前見た心霊特集の番組で、深夜の公園で泣く女の子の話があったことを思い出す。たしか、あれはサラリーマンが酔っぱらって帰る途中でたまたま酔い覚ましに立ち寄った公園でブランコの音が、きい。と、聞こえて……。
きい。
そんな記憶を掘り起こしているのを知っているかのように、ブランコの軋む音がした。
夜と昼の交代する僅かな隙間。小学生の自分は小さな公園にいた。
決まった時間に町内放送から流れる夕焼け小焼けは、少し前に聞いた。それを聞いたら子供は帰る時間だ。
もう、誰も居ないはずの小さな公園。
そこで、女の子が泣いていた。
日本人離れしたビスクドールのような透き通った白い肌の、クリッと大きな目をした、少し色素の薄いショートカットの田舎の町の公園には似つかわしくないすごく、すごく可愛い子だった。
自分が何故そこに、そんな時間にいたのかはあまり覚えていない。多分、その頃険悪になっていた(と、いってもいつも苛ついていたのは母ばかりなのだが)両親の言い争いに巻き込まれて、母に酷く叱責されたからだったと思う。けれど、内容については何も覚えてはいない。
ただ、気持ちがひどく沈んでいた。
家に帰りたくないと言うよりも、帰れないとかという気持ちが強かったように思う。
別に場所なんてどこでもよかった。母に顔を見せずにすむなら、見せて苛つかれることがないなら、帰れないほど遠くでもよかった。
だから、その公園に入った意味なんてない。遠くてもいいなんて思っていたけど、そこは家から15分もかからない場所だった。10歳かそこらの自分が行ける範囲なんて限られていて、大人に咎められることがないような場所はそこしか思いつかなかっただけだ。
公園は150cmくらいの生け垣で囲まれていて、道路からは覗き込まない限りなかを見渡せない。とくに、ブランコのある辺りは街灯がまばらで、一見して誰かがいるようには見えないだろう。
小さいとはいえ、住宅地にある公園は昼間は小さな子を連れた母親で、放課後は小学生で人が途切れない。けれど、今はひっそりとして誰もいないように見えた。
だから、ブランコの方に向かった。放課後は大抵誰かがそこを陣取っていて、順番待ち状態のブランコに、こんな時くらいは思う存分のってみたかったからだ。そんなもので晴れるはずもなかったけれど、少しでも自分を慰めたかったのだと思う。
それなのに。
そこに、その子がいた。
まだ、薄暗いというには早い。けれど、昼間の光に満ちた景色とは違う。どこにも属さない中間の。グラデーションの名前を持つ色と色の間の。名前のない色のような曖昧な時間。小学生の自分でも遊んでいたら早く帰れと怒られるような時間なのに、自分より小さい少女が、ブランコに座っていた。
たぶん、保育園の大きい子のクラスか、小学校に上がったばかりくらいの子だ。どこにでも売っているような青いTシャツに紺のズボン。汚れた風はない。着ているものはごくごく普通の子供だった。
それでも、一瞬、どきり。として、足が止まった。その子が、俯いてしゃくりあげているのが分かったからだ。
以前見た心霊特集の番組で、深夜の公園で泣く女の子の話があったことを思い出す。たしか、あれはサラリーマンが酔っぱらって帰る途中でたまたま酔い覚ましに立ち寄った公園でブランコの音が、きい。と、聞こえて……。
きい。
そんな記憶を掘り起こしているのを知っているかのように、ブランコの軋む音がした。
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