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かの思想家が語るには
今夜は最高の夜だ 1
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「池井さんがこんな目に逢ったのは俺のせいなんです」
顔を曇らせて、鈴が言う。どういう意味なんだろうか。あの黒い犬のこと鈴は何か知っているんだろうか。
「前に。緑風堂から池井さんと帰ろうとした時、出待ちしていた創元館の制服着た子のこと、覚えてます?」
創元館というのは、近くにある高校の名前だ。その女子高生のことは覚えている。というか、忘れられるわけがない。鈴が、好きだと言っていたその子のことだ。
「池井さんももう、気付いているかもしれないですけど、彼女が、池井さんにあの犬を送った、呪いの主です」
鈴の言葉に一瞬固まる。
呪い。なんていうキーワードが出てきたからだ。
あの子の顔を持っていた時点で何の関係もないとは思っていない。嫉妬から生まれた生霊とか? なんて、バカな考えが頭を過ったりしたが、呪いなんて不穏当な言葉が出てくるなんて思っていなかった。
「え?」
だから、バカみたいな答えを返す。
けれど、なんとなく理解もしていた。あれが、そういう類の本当にダメなものだってこと。呪いだなんて、普通に聞いたら笑ってすますことろだけれど、今は鈴の言葉を笑えない。あれは俺が今まで見てきた、ほかの人には見えないものとは確かに全く違っていたから。
「緑風堂で出待ちされたり、大学の前でうろうろしたり、ストーカーみたいなことしてたから。本人にははっきりと気持ちには答えられないって伝えてあったんですけど。
とにかく、様子がおかしかったんで、気にしてたんですけど。この間、やっぱり、店の前で待っていたときがあって。
気づきました? 犬臭かったでしょ? ああいう呪いなんです。
だから、気になって話してみたら、彼女の中では俺があの子の彼氏だってことになっていて、池井さんが邪魔をしているって思っているみたいで。邪魔者を排除する呪いを使ったって言ってて……。
あ……。こういうの。信じられないですよね。俺も、ばかみたいなこと言ってる自覚はあるんですけど、本当のことだから」
ばかみたいに呆けたままの俺に気づいた鈴は、少し困ったような顔をした。俺が信じないと思ってるんだろう。
普通に考えたら、信じない。
でも、アレを目の前で見て、命の危険に晒されて、信じないわけにはいかなかった。
「わかってる。疑ってなんていない」
なにより、鈴が嘘をつくなんて、俺は思っていなかった。
「信じてくれて、ありがとうございます。
それから、すみません。池井さんが危ない目に合わせてしまって」
そう言って、鈴は深く頭を下げる。
疑っていないとは言ったが、鈴が言ったことに混乱はしていた。
彼女は鈴を店の前で待っていた子だ。それは間違いない。そのことは言われるまでもなく俺も思い出していた。でも、あの子が、鈴のストーカーだったなんて、想像してなかった。
でも。
と、俺は思う。俺にとっては他人事の話じゃなかったかもしれない。俺だって、一歩間違えばそうなった可能性だってあった。鈴はそれほど魅力的だ。
けれど。と、俺は思う。彼女も可愛らしい少女だった。確かに鈴は頻繁に図書館に会いに来てくれたり、優しくしてくれたりしたけれど、彼女が俺みたいな普通のおっさんを本気でライバルだと思うものだろうか。俺の方はもちろん、比べるまでもなく、彼女の方が鈴には似合っていると思っていた。
「……じゃ。この間緑風堂の前で話してたのは……好きだって」
考え込んでいたから、思わず、ぽろ。と、言ってしまった言葉に、俺ははっとして、口を押える。俺が聞いていたことなんて鈴は知らない。盗み聞きしていたなんて趣味が悪いこと、知られたくなかった。
顔を曇らせて、鈴が言う。どういう意味なんだろうか。あの黒い犬のこと鈴は何か知っているんだろうか。
「前に。緑風堂から池井さんと帰ろうとした時、出待ちしていた創元館の制服着た子のこと、覚えてます?」
創元館というのは、近くにある高校の名前だ。その女子高生のことは覚えている。というか、忘れられるわけがない。鈴が、好きだと言っていたその子のことだ。
「池井さんももう、気付いているかもしれないですけど、彼女が、池井さんにあの犬を送った、呪いの主です」
鈴の言葉に一瞬固まる。
呪い。なんていうキーワードが出てきたからだ。
あの子の顔を持っていた時点で何の関係もないとは思っていない。嫉妬から生まれた生霊とか? なんて、バカな考えが頭を過ったりしたが、呪いなんて不穏当な言葉が出てくるなんて思っていなかった。
「え?」
だから、バカみたいな答えを返す。
けれど、なんとなく理解もしていた。あれが、そういう類の本当にダメなものだってこと。呪いだなんて、普通に聞いたら笑ってすますことろだけれど、今は鈴の言葉を笑えない。あれは俺が今まで見てきた、ほかの人には見えないものとは確かに全く違っていたから。
「緑風堂で出待ちされたり、大学の前でうろうろしたり、ストーカーみたいなことしてたから。本人にははっきりと気持ちには答えられないって伝えてあったんですけど。
とにかく、様子がおかしかったんで、気にしてたんですけど。この間、やっぱり、店の前で待っていたときがあって。
気づきました? 犬臭かったでしょ? ああいう呪いなんです。
だから、気になって話してみたら、彼女の中では俺があの子の彼氏だってことになっていて、池井さんが邪魔をしているって思っているみたいで。邪魔者を排除する呪いを使ったって言ってて……。
あ……。こういうの。信じられないですよね。俺も、ばかみたいなこと言ってる自覚はあるんですけど、本当のことだから」
ばかみたいに呆けたままの俺に気づいた鈴は、少し困ったような顔をした。俺が信じないと思ってるんだろう。
普通に考えたら、信じない。
でも、アレを目の前で見て、命の危険に晒されて、信じないわけにはいかなかった。
「わかってる。疑ってなんていない」
なにより、鈴が嘘をつくなんて、俺は思っていなかった。
「信じてくれて、ありがとうございます。
それから、すみません。池井さんが危ない目に合わせてしまって」
そう言って、鈴は深く頭を下げる。
疑っていないとは言ったが、鈴が言ったことに混乱はしていた。
彼女は鈴を店の前で待っていた子だ。それは間違いない。そのことは言われるまでもなく俺も思い出していた。でも、あの子が、鈴のストーカーだったなんて、想像してなかった。
でも。
と、俺は思う。俺にとっては他人事の話じゃなかったかもしれない。俺だって、一歩間違えばそうなった可能性だってあった。鈴はそれほど魅力的だ。
けれど。と、俺は思う。彼女も可愛らしい少女だった。確かに鈴は頻繁に図書館に会いに来てくれたり、優しくしてくれたりしたけれど、彼女が俺みたいな普通のおっさんを本気でライバルだと思うものだろうか。俺の方はもちろん、比べるまでもなく、彼女の方が鈴には似合っていると思っていた。
「……じゃ。この間緑風堂の前で話してたのは……好きだって」
考え込んでいたから、思わず、ぽろ。と、言ってしまった言葉に、俺ははっとして、口を押える。俺が聞いていたことなんて鈴は知らない。盗み聞きしていたなんて趣味が悪いこと、知られたくなかった。
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