真鍮とアイオライト 1

司書Y

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かの思想家が語るには

幕間 深淵を覗くものは 1

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 初めて彼を見たのは図書館でした。

 私は高校二年生の女子です。駅から数分の高校に通っています。
 学校は偏差値が中の中。生徒数はその街では、割と多めで、けれどマンモス校とまではいかないごく普通の公立高校です。
 半グレぽっく見せているけど、実はたばこを吸ってむせってしまうような中途半端な子たちも少しはいるけれど、ほとんどの子は人畜無害で、学校はかなり平和です。
 イジメなんかもあるにはあるらしいですが、ごく小数で、そんな子達はすぐに学校を辞めてしまうので、噂が届く頃には被害者は学校にはいない。って感じでした。

 私はイジメを受けているわけでも、半グレ気取ってるわけでもありません。
 けれど、その日はなんとなく学校には行きたくなくて、かといって他に行く場所もなくて、足が勝手に図書館に向かっていたんです。平日だから、昼間に街をうろついているわけにはいかないけど、図書館なら、勉強しているふりをしていれば、何も言われないかなって思ったんです。

 その場所で、その人を初めて見ました。
 すごくすごく綺麗な人でした。背が高くて、姿勢が綺麗で、顔なんて芸能人でも見たことがないくらいに整っている人でした。とっても知的でチタンのフレームの眼鏡が似合うその人は、すごく大人っぽくて、古い建物の本を読んでるのがまるで美術館の絵のようでした。着ている服も彼のために作ったんじゃないかって思うくらいに似合っていました。

 だから、私はずっと、その人を見ていました。
 本を選ぶふりをして、彼の持っている本を確かめました。
 吹き抜けの閲覧スペースに座る彼を少し離れた場所から、本に隠して画像も撮りました。
 でも、声をかけることはできなかったんです。

 本を借りた後に話しをしようと思ったんですが、カウンターの中にいる男性の司書さんと話し始めてしまったから。お友達なんでしょうか。とても楽しそうに話していました。
 彼が見ていた本は建築関係の本ばかりだったんですが、その司書さんは彼に熱心に文学の本の紹介をしていました。自分の好みの本とは違うはずなのに、彼は微笑みながらその司書さんの話を聞いていました。とても、優しいのだと思うと、なんだか、胸が苦しくなりました。それから、彼の趣味を察してあげられない司書さんは無能なんだと思いました。
 けれど、その司書さんと、もう一人の女の司書さんのお陰でわかったことがあります。
 それは、彼の名前が”きたじますず”と、言うこと。お話の中で彼はそう呼ばれていました。
 素敵な名前だと思います。彼にぴったりです。
 すず君。また会いたい。

 私は、それから、何度も図書館に通いました。学校帰りに何回か寄りましたが、会えませんでした。もしかしたら、と思って一週間後の同じ日にまた、学校をサボって行ってみました。でも、やっぱり会えませんでした。
 どうしたら会えるんだろう。
 そればかり考えます。

 そうしたら、ある日、奇蹟が起きたんです。
 図書館の裏の道から少し入ったところにある緑風堂というお店を紹介しているインスタに、すず君が映っていたんです! 端っこに小さくだったけれど、すぐにわかりました。
 きっと、これは、運命なんだと思います。
 すず君は私に会えるのを待っているんだ。

 すぐにお店に行きました。
 でも、会えませんでした。すず君がバイトに入るのは土日だけだったからです。けれど、お店はとても素敵でした。お茶のいい香りがして、ケーキが美味しくて、猫さんもとってもかわいかったです。
 ただ、店の中は何故か結構騒がしかったです。すごく静かな雰囲気なのに、女の子の話声がうるさくて。お客さんは私と男の人が一人だけだったのにおかしいな。ラジオがついていたんでしょうか? 男の人は店長さんと話ながらお茶を飲んでいましたが、声は大きくなかったし、聞こえてきた声は女の子だというのは間違いなかったです。しかも、少なくとも二人は中学生にはなっていないような可愛い小さな女の子の声だった気がします。

 そのとき気づいたのですが、多分、そこで店長とお話していたのは、あの図書館の司書さんでした。常連さんみたいで、店長さんとお茶のことや、本のことをあれこれとお話していました。
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