130 / 392
かの思想家が語るには
理不尽すぎるだろ 1
しおりを挟む
翌朝、目覚めた時には酷い二日酔いだった。
頭がガンガンと痛んで、瞼が腫れて目を開けることすらできない。鏡で顔を確認すると酷いもので、一日寝て過ごすことを早々に決めた。
酔っぱらって駅まで迎えに来させたのに、兄ちゃんは何も言わなかった。戌井の方を見もしないで、ふらふらになった俺に肩を貸して家まで連れかえって、トイレに籠った俺に水を持ってきてくれて、背中を擦ってくれて、泣いてばかりいる俺に何も聞かないで、ただ、頭を撫でてくれた。それから、朝にはTKGだけ食って、『今日は弁当いらん』と言って、放っておいてくれた。
そんな兄ちゃんの優しさが余計に俺の涙腺をダメダメにしていたのは言うまでもない。
酒を飲んでも(と言ってもチューハイ一缶だが)、戌井の失恋談を阿呆ほど聞いても、最早隠すこともできないで鈴のことをどんなに好きかとか、フラれて辛いとか、期待させないでほしいとか、こっぱずかしい愚痴を散々ぶちまけても、一晩寝ても、気持ちが浮上することはなかった。
女の子の『好きだよね?』に、『ああ』と、応えた鈴の声が何度も繰り返し聞こえるような気がする。頭を振っても、耳を塞いでも消えない。聞こえた気がするたびに最初に聞いたときと同じだけ心が痛む。
きっと、こんな気持ちで鈴に会うことなんてできない。会ったら、涙腺壊れる。壊れて全部バレてしまう。
せめて友達ではいたいという思いすら、今は持てない。会うのが辛すぎて、でも、会えなくなるのも辛すぎて、どうしていいのかわからない。本気でもう、消えてしまいたい。
自室で布団にもぐったまま、そんなことばかりを考えていた。
「菫」
自室の外から声が聞こえて、俺は布団からのっそりと顔を出した。この声はばあちゃんの声だ。
「なに?」
頭がガンガンと痛んだけれど、頭を抱えて俺は応えた。ほかの人ならいざ知らず、俺はばあちゃんにはとことん弱い。兄ちゃんと俺が普通に大人になれたのはばあちゃんのお陰だと思っているからだ。
「寝てるところ悪いんだけどね。百瀬薬局に薬取りに行ってくれんか?」
ばあちゃんは、元々かなり元気な人だ。80を過ぎる頃まで、どこでも自分で運転して出かけていた。けれど、さすがに80も半ばに近づいて、それも無理になって、俺や兄ちゃんがかわりに用を足すのが普通になっている。それでも、きっと、俺の体調を思ってくれているのだろう。遠慮がちに言われたら、断ることなんて考えられない。
「いいよ。大丈夫。行ってくる」
だから、俺はロキ〇ニンを飲んで、歩いて片道30分ほどの馴染の薬局へ出かけた。
頭がガンガンと痛んで、瞼が腫れて目を開けることすらできない。鏡で顔を確認すると酷いもので、一日寝て過ごすことを早々に決めた。
酔っぱらって駅まで迎えに来させたのに、兄ちゃんは何も言わなかった。戌井の方を見もしないで、ふらふらになった俺に肩を貸して家まで連れかえって、トイレに籠った俺に水を持ってきてくれて、背中を擦ってくれて、泣いてばかりいる俺に何も聞かないで、ただ、頭を撫でてくれた。それから、朝にはTKGだけ食って、『今日は弁当いらん』と言って、放っておいてくれた。
そんな兄ちゃんの優しさが余計に俺の涙腺をダメダメにしていたのは言うまでもない。
酒を飲んでも(と言ってもチューハイ一缶だが)、戌井の失恋談を阿呆ほど聞いても、最早隠すこともできないで鈴のことをどんなに好きかとか、フラれて辛いとか、期待させないでほしいとか、こっぱずかしい愚痴を散々ぶちまけても、一晩寝ても、気持ちが浮上することはなかった。
女の子の『好きだよね?』に、『ああ』と、応えた鈴の声が何度も繰り返し聞こえるような気がする。頭を振っても、耳を塞いでも消えない。聞こえた気がするたびに最初に聞いたときと同じだけ心が痛む。
きっと、こんな気持ちで鈴に会うことなんてできない。会ったら、涙腺壊れる。壊れて全部バレてしまう。
せめて友達ではいたいという思いすら、今は持てない。会うのが辛すぎて、でも、会えなくなるのも辛すぎて、どうしていいのかわからない。本気でもう、消えてしまいたい。
自室で布団にもぐったまま、そんなことばかりを考えていた。
「菫」
自室の外から声が聞こえて、俺は布団からのっそりと顔を出した。この声はばあちゃんの声だ。
「なに?」
頭がガンガンと痛んだけれど、頭を抱えて俺は応えた。ほかの人ならいざ知らず、俺はばあちゃんにはとことん弱い。兄ちゃんと俺が普通に大人になれたのはばあちゃんのお陰だと思っているからだ。
「寝てるところ悪いんだけどね。百瀬薬局に薬取りに行ってくれんか?」
ばあちゃんは、元々かなり元気な人だ。80を過ぎる頃まで、どこでも自分で運転して出かけていた。けれど、さすがに80も半ばに近づいて、それも無理になって、俺や兄ちゃんがかわりに用を足すのが普通になっている。それでも、きっと、俺の体調を思ってくれているのだろう。遠慮がちに言われたら、断ることなんて考えられない。
「いいよ。大丈夫。行ってくる」
だから、俺はロキ〇ニンを飲んで、歩いて片道30分ほどの馴染の薬局へ出かけた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる