真鍮とアイオライト 1

司書Y

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かの思想家が語るには

ストーカーと文字化け 2

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 キッチンに戻った俺が、カウンターの上のスマホを見たのには深い意味はない。起きてすぐに確認して、その後は置きっぱなしにしてあったから、本当に何気なくだ。けれど、LINEの着信を伝える緑の光の点滅に気付いて俺はそれに手を伸ばした。身支度をする前に、確認して何も連絡は入ってなかったから、こんな朝早くから誰かがLINEを送ってきたことになる。
 なんだか、少し嫌な感じがした。
 予感。のようなものかもしれない。見るのを後回しにしたかったけれど、わざわざこんな早くからLINEを送ってきたということは何か大切な用事ある可能性もある。
 心にかかる暗雲のような想像を振り払うように、俺は緑色の吹き出しマークのアプリをタップした。

 おはよう
 今日仕事だろ?
 何時まで?

 スマホの画面に表示されたアイコン。見覚えがなくて、一瞬戸惑う。それから、名前を確認してそれが戌井からのメッセージだと分かる。分かったのに、また、手は止まった。

 戌井。誰だっけ?

 ぼーっとした頭で考える。どうしてだろう、考えがまとまらない。けれど、手の方は反射的にメッセージをうっていた。

 今日は早番。
 5時に終わる。

 入力したメッセージを送信してから、ようやく、戌井が同級会で再会した同級生だと思い出す。昨夜も仕事帰りに一緒だったというのにその度に名前がすぐに思いつかない。
 理由は分からないが、あまり特徴がないどこにでもいるような容姿だから、記憶に残りにくいのかと思う。俺と同じで、鈴とは正反対だ。俺もよく誰かと間違えられたりする。凡庸でどこにでもいそうな顔なのだろう。
 そんなことを考えていると、戌井の顔や行動を思い出してきた。

 あれ?

 けれど、それがかえって疑問を生んでしまう。

 戌井とLINEの交換したっけ?

 あの晩のことを思い出す。戌井と再会してすぐに店を出たような気がするけれど、連絡先を交換するような時間があっただろうか。
 考えてみても、そんな時間があったような気がしない。

 しゅぽ。と、音がして返信が来る。了解。と、犬が敬礼しているスタンプだった。相手は戌井だ。続けて、着信。

 ご苦労さん。
 仕事頑張れよ~。

 特におかしなところもない友人同士のLINEだと思う。どうも、このところ、俺は変だ。仕事も人間関係もどこかぼーっとしていて、決定的な失敗はないのだけれど、何か抜けている気がする。
 理由は分かっている。
 鈴のことばかりを考えているからだ。
 舞い上がったり、落ち込んだり、心臓に悪いことばかりで、他のことが手につかない。

 ありがとう。と、頭を下げる猫のスタンプを返して、スマホを閉じようとすると、じゅ。っと、スマホから変な音がした。同時に何か滑っとした感覚。生臭いような匂い。

「え?」

 動画ならともかく、何も起動していない状態で聞こえるような音じゃない。スマホに目を落とすと、そこには戌井のアイコンでLINEメッセージが着信していた。
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