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かの思想家が語るには
吾輩は寂しいと死んじゃうにゃ 3
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「お前いいヤツじゃん? 性別とか、そんなことで、悩んでるなら勿体ねーよ。てか。も、ちっと、周りみてみろよ。案外近くに……いいやつとか、いるかもだろ」
今度はいきなり両肩を掴まれて、力説された。想像していたのとは違った反応に戸惑ってしまう。
性別のことは多分、一番の障害だと思っていたのに、さらり。と、流されてしまった。兄ちゃんの時もそうだったけれど、意外と、許されるのものなのか? と、自分が常識と思っていたものを疑ってしまう。
「そか。お前。そうだったのか。や。うん。てか。今日話せてよかった」
何を納得したのかわからないけれど、両手を肩から離して、戌井が言った。
「付き合ってるやつ。は。いないんだな? 片思いってか、望み薄ってことでOK?」
言いにくいことをはっきり言うやつだな。と、少しむっとしてしまう。戌井が俺の顔をじっと覗き込んでくるから、その時初めて、正面からはっきりとその顔を見た気がした。俺と同じで、派手とは言い難い特徴の薄い顔。そう言えば、教室の窓際で見たことがあった気がする。
「悪かったな。望み薄で」
ぶす。っとして、答えると、妙に嬉しそうな笑顔が返ってきた。
「うん。じゃ、もちっと、ちゃんと、話聞いてやるから、メシでも食いに行こうぜ?」
諦めろ。と、言われたのも、望み薄。と、言われたのも、正直ムカついたけれど、同性を好きになったことを真っ向から否定されたわけでもなくて、今までと変わらない態度で誘ってくれたのには、ほっとしていた。だから、頷くだけで答えると、よし。と、笑顔が返ってくる。鈴のことはともかく、話を聞いてくれると言われたのは、素直に嬉しかった。
ぴんぽん。
トートバッグに入れたスマホが鳴った。いつもの、緑の吹き出しのお知らせだ。
戌井がジェスチャーで、確認どうぞ。と、示すので、取り出して確認する。
相手は鈴だった。
映画は10:00からです。
9:30にいつものコンビニで。
楽しみにしてます。
映画の時間を調べてくれたようだ。俺が車を出すことにしたから、鈴の家の近くのコンビニで待ち合わせと決めていた。
楽しみにしています。
という文字をなぞって、こちらこそ。と、口に出さずに答えて、OKのスタンプを送る。
しゅぽん。
俺の答えを待っていたみたいなタイミングで、返信が来た。
今週は忙しくて図書館行けそうにないです。
本はポストに返します。
そのメッセージに今度は小さなため息が出てしまう。鈴の一言一言で舞い上がったり、沈んだり、陳腐な言い回しだけれど、ジェットコースターに例える人の気持ちがわかる。
しゅぽ。
あいたかったのにな。
その文字が目に入って、また、気持ちが溢れそうになってしまった。思わず、ぎゅ。っと、スマホを握り締める。
「そいつ。ズルいな」
不意に後ろから声をかけられて、俺は、びくっ。と、肩を強張らせた。戌井がいたこと、すっかり忘れていた。
ズルいの意味が分からない。けれど、声には鋭角な敵意が籠っているように思える。
「…み。見んなよ」
じっと戌井の視線が画面を見ているのに気付いて、画面を隠すけど、後の祭りだ。完全に見られた。いや、別に映画の約束も、図書館に来られないことも、知られて困るようなことではない。問題は、それを見ている俺の表情とか、態度だろう。自分でも自覚できるくらいに、一喜一憂している。
「そいつ、お前の気持ち知っててそれやってんの? 答えてくれんくせに、ひどくね?」
また、不機嫌な顔になって、戌井が言う。
俺のことを心配してくれているのかもしれないけれど、鈴のことを悪く言われて、かちん。ときてしまう。
「知ってるわけないだろ」
そう答えてからはっとした。今のLINEの相手が俺の片思いの相手だと、完全に認めている発言だったような気がする。
今度はいきなり両肩を掴まれて、力説された。想像していたのとは違った反応に戸惑ってしまう。
性別のことは多分、一番の障害だと思っていたのに、さらり。と、流されてしまった。兄ちゃんの時もそうだったけれど、意外と、許されるのものなのか? と、自分が常識と思っていたものを疑ってしまう。
「そか。お前。そうだったのか。や。うん。てか。今日話せてよかった」
何を納得したのかわからないけれど、両手を肩から離して、戌井が言った。
「付き合ってるやつ。は。いないんだな? 片思いってか、望み薄ってことでOK?」
言いにくいことをはっきり言うやつだな。と、少しむっとしてしまう。戌井が俺の顔をじっと覗き込んでくるから、その時初めて、正面からはっきりとその顔を見た気がした。俺と同じで、派手とは言い難い特徴の薄い顔。そう言えば、教室の窓際で見たことがあった気がする。
「悪かったな。望み薄で」
ぶす。っとして、答えると、妙に嬉しそうな笑顔が返ってきた。
「うん。じゃ、もちっと、ちゃんと、話聞いてやるから、メシでも食いに行こうぜ?」
諦めろ。と、言われたのも、望み薄。と、言われたのも、正直ムカついたけれど、同性を好きになったことを真っ向から否定されたわけでもなくて、今までと変わらない態度で誘ってくれたのには、ほっとしていた。だから、頷くだけで答えると、よし。と、笑顔が返ってくる。鈴のことはともかく、話を聞いてくれると言われたのは、素直に嬉しかった。
ぴんぽん。
トートバッグに入れたスマホが鳴った。いつもの、緑の吹き出しのお知らせだ。
戌井がジェスチャーで、確認どうぞ。と、示すので、取り出して確認する。
相手は鈴だった。
映画は10:00からです。
9:30にいつものコンビニで。
楽しみにしてます。
映画の時間を調べてくれたようだ。俺が車を出すことにしたから、鈴の家の近くのコンビニで待ち合わせと決めていた。
楽しみにしています。
という文字をなぞって、こちらこそ。と、口に出さずに答えて、OKのスタンプを送る。
しゅぽん。
俺の答えを待っていたみたいなタイミングで、返信が来た。
今週は忙しくて図書館行けそうにないです。
本はポストに返します。
そのメッセージに今度は小さなため息が出てしまう。鈴の一言一言で舞い上がったり、沈んだり、陳腐な言い回しだけれど、ジェットコースターに例える人の気持ちがわかる。
しゅぽ。
あいたかったのにな。
その文字が目に入って、また、気持ちが溢れそうになってしまった。思わず、ぎゅ。っと、スマホを握り締める。
「そいつ。ズルいな」
不意に後ろから声をかけられて、俺は、びくっ。と、肩を強張らせた。戌井がいたこと、すっかり忘れていた。
ズルいの意味が分からない。けれど、声には鋭角な敵意が籠っているように思える。
「…み。見んなよ」
じっと戌井の視線が画面を見ているのに気付いて、画面を隠すけど、後の祭りだ。完全に見られた。いや、別に映画の約束も、図書館に来られないことも、知られて困るようなことではない。問題は、それを見ている俺の表情とか、態度だろう。自分でも自覚できるくらいに、一喜一憂している。
「そいつ、お前の気持ち知っててそれやってんの? 答えてくれんくせに、ひどくね?」
また、不機嫌な顔になって、戌井が言う。
俺のことを心配してくれているのかもしれないけれど、鈴のことを悪く言われて、かちん。ときてしまう。
「知ってるわけないだろ」
そう答えてからはっとした。今のLINEの相手が俺の片思いの相手だと、完全に認めている発言だったような気がする。
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