真鍮とアイオライト 1

司書Y

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かの思想家が語るには

市民センター通用口前 1

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 酒を飲むのは、嫌いではない。
 飲み会の騒がしくて、浮足立ったような雰囲気が好きで、強くもない癖に参加したくなる。けれど、童顔がコンプレックスな俺は、ガキ扱いされるのが嫌で、勧められると飲めないくせに断りづらくてついついキャパシティをオーバーしてしまう。その度に二日酔いで後悔するのだが、飲み会自体を断るのは寂しいから、今度こそは気を付けるぞと心に決めて同じことを繰り返す学習能力の低さを曝け出している。
 しかも、今回は久々の同級会ということで、いつもよりも浮かれてしまっていた。本来の許容量が酎ハイグラス半分のところを、一杯とちょっとくらいは飲んでしまった。

 飲んでも記憶をなくした。なんてことは、今まで一度もない。今回だって、店を出るまでのことも、出てから鈴にあったことも、コンビニまで一緒に歩いたことも、兄ちゃんに迎えに来てもらったことも覚えている。
 だからこそ、困ってしまった。家に帰り付いたら、鍵がなかった。鍵を失くしたこと自体も問題なんだけれど、もっと問題なのは鈴に貰ったストラップをつけてあった鍵だということだ。職場を出るときには絶対に持っていた。その後、一度も出した覚えはないのに、半泣きになってカバンをひっくり返したけれど、カバンの中のどこを探しても鍵が見つかることはなかった。

 探すことを諦めて、明日、図書館と交番で探そうと思い始めた頃には、すでに二日酔いのような状態だった。気持ち悪さのせいなのか、貰ったストラップを失くしてしまったのが悲しかったからなのか、えづきながら涙が溢れてきて、それを家族に見られたくなくて、トイレに籠っていた。明け方になって、ようやく吐き気が治まって、ベッドに戻れたと思ったら、今度は変な夢を何度も見て目が覚めた。

 鈴に俺は相応しくないといろいろな人に言われる夢。

 相手は知っている人だったり知らない人だったりいろいろだったけれど、現れては消えていくすべての人が俺の気持ちを否定する。気の迷いだとか、気持ち悪いとか、おこがましいとか。今すぐやめろとか、鈴に迷惑だとか、邪魔するなとか。
 その度に俺は鈴が好きだから否定しないでと懇願する。鈴を好きでいさせてほしいと、自分に罵声を浴びせる相手に頭を下げる。けれど、だれも、味方になってくれる人はいない。寂しくて、辛くて誰かの名前を呼ぶ。そこで目が覚める。そんな夢を何度も繰り返し見た。

 原因なんて分かっているし、分かっていてもどうにもならないことも知っていた。
 ストラップを失くしたこともなんだが罰が当たったからのような気がする。だから、今日は仕事中もずっと、ため息ばかりだった。
 幸い小柏さんは休みだったので、詮索してくる人は誰もない。好きなだけ滅入っていたら、もう”今日の日はさようなら”が流れている。閉館時間を知らせる音楽だ。
 リーディングトラッカーを数え忘れたり、コピー機の電源を切り忘れたり、小さなミスを連発させながら、なんとか閉館作業を終わらせて、母親くらいの歳の同僚に慰められながら、個人用ロッカーに向かったのは、遅番シフトの定時、20時15分だった。
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