真鍮とアイオライト 1

司書Y

文字の大きさ
上 下
112 / 392
かの思想家が語るには

市民センター通用口前 1

しおりを挟む
 酒を飲むのは、嫌いではない。
 飲み会の騒がしくて、浮足立ったような雰囲気が好きで、強くもない癖に参加したくなる。けれど、童顔がコンプレックスな俺は、ガキ扱いされるのが嫌で、勧められると飲めないくせに断りづらくてついついキャパシティをオーバーしてしまう。その度に二日酔いで後悔するのだが、飲み会自体を断るのは寂しいから、今度こそは気を付けるぞと心に決めて同じことを繰り返す学習能力の低さを曝け出している。
 しかも、今回は久々の同級会ということで、いつもよりも浮かれてしまっていた。本来の許容量が酎ハイグラス半分のところを、一杯とちょっとくらいは飲んでしまった。

 飲んでも記憶をなくした。なんてことは、今まで一度もない。今回だって、店を出るまでのことも、出てから鈴にあったことも、コンビニまで一緒に歩いたことも、兄ちゃんに迎えに来てもらったことも覚えている。
 だからこそ、困ってしまった。家に帰り付いたら、鍵がなかった。鍵を失くしたこと自体も問題なんだけれど、もっと問題なのは鈴に貰ったストラップをつけてあった鍵だということだ。職場を出るときには絶対に持っていた。その後、一度も出した覚えはないのに、半泣きになってカバンをひっくり返したけれど、カバンの中のどこを探しても鍵が見つかることはなかった。

 探すことを諦めて、明日、図書館と交番で探そうと思い始めた頃には、すでに二日酔いのような状態だった。気持ち悪さのせいなのか、貰ったストラップを失くしてしまったのが悲しかったからなのか、えづきながら涙が溢れてきて、それを家族に見られたくなくて、トイレに籠っていた。明け方になって、ようやく吐き気が治まって、ベッドに戻れたと思ったら、今度は変な夢を何度も見て目が覚めた。

 鈴に俺は相応しくないといろいろな人に言われる夢。

 相手は知っている人だったり知らない人だったりいろいろだったけれど、現れては消えていくすべての人が俺の気持ちを否定する。気の迷いだとか、気持ち悪いとか、おこがましいとか。今すぐやめろとか、鈴に迷惑だとか、邪魔するなとか。
 その度に俺は鈴が好きだから否定しないでと懇願する。鈴を好きでいさせてほしいと、自分に罵声を浴びせる相手に頭を下げる。けれど、だれも、味方になってくれる人はいない。寂しくて、辛くて誰かの名前を呼ぶ。そこで目が覚める。そんな夢を何度も繰り返し見た。

 原因なんて分かっているし、分かっていてもどうにもならないことも知っていた。
 ストラップを失くしたこともなんだが罰が当たったからのような気がする。だから、今日は仕事中もずっと、ため息ばかりだった。
 幸い小柏さんは休みだったので、詮索してくる人は誰もない。好きなだけ滅入っていたら、もう”今日の日はさようなら”が流れている。閉館時間を知らせる音楽だ。
 リーディングトラッカーを数え忘れたり、コピー機の電源を切り忘れたり、小さなミスを連発させながら、なんとか閉館作業を終わらせて、母親くらいの歳の同僚に慰められながら、個人用ロッカーに向かったのは、遅番シフトの定時、20時15分だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

処理中です...