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かの思想家が語るには
俺と、じゃない方 2
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「鈴君は?」
視線を鈴に戻して見上げる。星空を背負った鈴はいつもと同じですごく綺麗だった。
「俺はゼミの打ち上げです。池井さんもう、帰りますよね?」
鈴の問いに頷くだけで答える。ふわふわとした酩酊感は続いている。さっきより、ずっと、心地いい。
「俺ももう帰るつもりだったんで、一緒に帰っていいですか? タクシーとか呼んでます?」
鈴が嬉しい提案をしてくれる。けれど、なんだか申し訳ない気がして、俺は首を横に振った。
「電車で帰るつもりだけど……鈴君はまだ帰るには早い時間じゃない?」
少し離れたところにいる鈴の仲間たちは明らかに盛り上がっていて、まだ、帰るという雰囲気ではない。多分、鈴が来るのを待っているのだろう。数人の女の子たちは鈴のことをちらちらと盗み見ているのが分かる。きっと、鈴目当てで参加している子もいるんだろう。
「鈴。次行くぞ!」
一団の中の一人が声を上げる。他のメンバーも口々に早く行こうと言っている。
綺麗な女の子もいた。メイクも髪も服装もかなり気合が入っている。なんだか、楽しかった気分が少し萎んでくる。
あれが、鈴の日常だ。
そこに自分の居場所があると思えない。
「ほら、友達待ってるよ?」
ぽん。と、腕のあたりを叩いて促すけれど、鈴は首を横に振る。
「いいんです」
それから、そっと、身を屈めて俺の耳元に口を寄せた。
「二次会断る言い訳探してたんです」
ぽそ。と、耳元に囁かれた言葉。産毛に吐息がかかるくらいに近くて、思わず首を竦める。顔を見上げると、鈴は少し悪戯っぽく笑った。
「俺、パス。この人と帰るから」
大声で返事を返して、鈴はそ。っと、背中を押して歩き出そうとした。促されるままに歩き出そうとしてまた、千鳥足になってしまう。そうすると、今度は背中に手を回して支えてくれた。
「北島君」
簡単な答えだけで鈴が帰ろうとするから、少し慌てた様子で何やら言葉を交わしてから、仲間の中から、2・3人の女の子が走り寄ってきた。
「めったに飲み会とか来ないのにもう帰るの?」
「その人はタクシー呼んであげればいいじゃん」
「てか、この人誰? 先輩とか?」
一斉にきんきん、と、高音で騒がれて頭に響く。
まあ、突然現れたおっさんにお目当てのイケメン掻っ攫われて黙ってはいられないのだろうけれど、もう少し静かに話してほしい。鈴の落ち着いた声とは雲泥の差だ。
「悪いけど」
ほとんど表情を変えずに鈴は女の子たちに答えた。残酷だな。と、思う。好意を持っている相手にこの顔をされたら、自分ならヘコむ。けれど、同時に優越感。少なくとも、鈴はこの表情を自分に向けない。
友情だとしても、好意を持ってくれていると、確信できる。
「なら、そっちの人も一緒にいきましょうよ」
女の子の一人が言う。あれだけ完全に拒絶されて、それでも食い下がる心臓の強さが、すごいというか、羨ましい。彼女は必死なんだ。臆病者の俺とは違う。自分にこの半分でも強さがあったら、鈴に本心を聞けるのに。
「ね。お兄さん行きましょ」
考えていたら、腕を掴まれた。そのまま、ぐい。と、引っ張られそうになる。
「やめろ」
視線を鈴に戻して見上げる。星空を背負った鈴はいつもと同じですごく綺麗だった。
「俺はゼミの打ち上げです。池井さんもう、帰りますよね?」
鈴の問いに頷くだけで答える。ふわふわとした酩酊感は続いている。さっきより、ずっと、心地いい。
「俺ももう帰るつもりだったんで、一緒に帰っていいですか? タクシーとか呼んでます?」
鈴が嬉しい提案をしてくれる。けれど、なんだか申し訳ない気がして、俺は首を横に振った。
「電車で帰るつもりだけど……鈴君はまだ帰るには早い時間じゃない?」
少し離れたところにいる鈴の仲間たちは明らかに盛り上がっていて、まだ、帰るという雰囲気ではない。多分、鈴が来るのを待っているのだろう。数人の女の子たちは鈴のことをちらちらと盗み見ているのが分かる。きっと、鈴目当てで参加している子もいるんだろう。
「鈴。次行くぞ!」
一団の中の一人が声を上げる。他のメンバーも口々に早く行こうと言っている。
綺麗な女の子もいた。メイクも髪も服装もかなり気合が入っている。なんだか、楽しかった気分が少し萎んでくる。
あれが、鈴の日常だ。
そこに自分の居場所があると思えない。
「ほら、友達待ってるよ?」
ぽん。と、腕のあたりを叩いて促すけれど、鈴は首を横に振る。
「いいんです」
それから、そっと、身を屈めて俺の耳元に口を寄せた。
「二次会断る言い訳探してたんです」
ぽそ。と、耳元に囁かれた言葉。産毛に吐息がかかるくらいに近くて、思わず首を竦める。顔を見上げると、鈴は少し悪戯っぽく笑った。
「俺、パス。この人と帰るから」
大声で返事を返して、鈴はそ。っと、背中を押して歩き出そうとした。促されるままに歩き出そうとしてまた、千鳥足になってしまう。そうすると、今度は背中に手を回して支えてくれた。
「北島君」
簡単な答えだけで鈴が帰ろうとするから、少し慌てた様子で何やら言葉を交わしてから、仲間の中から、2・3人の女の子が走り寄ってきた。
「めったに飲み会とか来ないのにもう帰るの?」
「その人はタクシー呼んであげればいいじゃん」
「てか、この人誰? 先輩とか?」
一斉にきんきん、と、高音で騒がれて頭に響く。
まあ、突然現れたおっさんにお目当てのイケメン掻っ攫われて黙ってはいられないのだろうけれど、もう少し静かに話してほしい。鈴の落ち着いた声とは雲泥の差だ。
「悪いけど」
ほとんど表情を変えずに鈴は女の子たちに答えた。残酷だな。と、思う。好意を持っている相手にこの顔をされたら、自分ならヘコむ。けれど、同時に優越感。少なくとも、鈴はこの表情を自分に向けない。
友情だとしても、好意を持ってくれていると、確信できる。
「なら、そっちの人も一緒にいきましょうよ」
女の子の一人が言う。あれだけ完全に拒絶されて、それでも食い下がる心臓の強さが、すごいというか、羨ましい。彼女は必死なんだ。臆病者の俺とは違う。自分にこの半分でも強さがあったら、鈴に本心を聞けるのに。
「ね。お兄さん行きましょ」
考えていたら、腕を掴まれた。そのまま、ぐい。と、引っ張られそうになる。
「やめろ」
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