真鍮とアイオライト 1

司書Y

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かの思想家が語るには

名前のない同級生 2

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 盛り上がっている会場を他所に、俺は、目の前のグラスにまた、口をつけた。すでに結構飲んでいる。自分がアルコールに弱いのはわかっているけれど、止められない。ふわふわ。と、酩酊感。顔が熱くてぼーっとしてくる。

 みんな本当に気付いてないんだろうか。

 俺は思う。顔は熱いのに手足の先が冷えるような感覚。
 たぶん、誰も気付いてない。そうやって話している店の入り口近くに、入ったときからずっと立っている黒っぽいスーツの男の人のこと。じっと話をしているこちらを見ているけれど、顔は判然としない。体格で男性だということは分かるが、若いのか歳をとっているのかもわからない。
 感情のようなものも感じない。ただ、ぼーっと立っているだけだ。けれど、こちらをじっと見ているのは確実にわかる。何故見ているのか、何故見ているのが分かるのかは、分からない。
 こんなふうに人には見えないものが見えるようになっても、それのことを理解するのは難しい。時折、分かったような気になれるときはあるけれど、いつも言っている通り、俺の感覚は全く当てにならない。だから、それを誰にかに話すことはない。自分でもよくわからない、目にも見えないものがあるなんて、こんな飲み会のネタにはいいかもしれないけれど、冷静になったら気味悪がられるだけだ。

「…鈴も…同じなのかな」

 風祭の鎖の時に気付いたことがある。
 鈴は、鎖の人。と、俺が言ったときに、すぐにそれが川和だと気付いた。それは、風祭の足に鎖が繋がっていたことも、その先に川和がいたことも知っていたことを意味している。見ていなければ、信じるはずもないそんなことを、当たり前のように納得していた。それは、鈴が見えているからだろう。最初に聞いたときは、鈴への気持ちのことでいっぱいいっぱいで気付いていなかった。
 鈴も、そんなものが見えることを人には隠しておきたいのだろうか。
 あのときは、鈴も慌てていて、俺が見えているということにまで気が回っていなかったんだろうか。

「鈴って誰だ?」

 いきなりどかっ。っと、隣に誰かが座ってきた。
 怪談話で盛り上がる左手の方に人が集まっていたから、空いていた右側に誰かが移ってきたらしい。

「え。と…」

 同級会は、確か3年ぶりだと思う。仲のいい友人同士でミニ同級会は何度か開いたが、その人物がいた記憶はない。中学を卒業してから、すでに10年以上経っている。成人式でも帰ってこれなかったやつはいたし、成長期も過ぎていない相手と10年も会わなければ、かなり変わってしまっていることだろう。

「あれ?」

 つまり、簡単に言うと、その人物の名前を俺は忘れていた。

「おい。池井。俺のことまさか忘れてないよな?」

 眉間に皺を寄せて怒っている表情。あまり特徴はない。平凡で可もなく不可もなく。どこかで見たことはある。けれど、名前までは出てこない。
 思い出そうとするけれど、酔いのせいか考えがまとまらない。
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