真鍮とアイオライト 1

司書Y

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番外編 番犬と十七夜

騎士の本分 9

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『…ん』

 薄い胸の先の小さな突起に指先が触れると、葉の鼻から声にならない吐息が漏れる。多分、そこに触れられるのは初めてだろう。快感というよりは驚きのようなものだったのだろうけれど、その自分の声に驚いたように目を開いた葉は、その視線が貴志狼の視線とぶつかると、また、恥ずかしげに目を閉じて顔を背けてしまった。
 彼はきっと気づいてはいない。そんな初々しい仕草が、どれほど恋する男を煽っているのか。だから、貴志狼は理性を総動員して、乱暴にならないようにするのが精一杯だった。指先がなぞった順に今度は唇で、同じ場所をなぞる。時折立ち止まってそこにキスをすると、葉はその度に小刻みに身体を震わせて答えてくれた。
 さっきから、貴志狼に委ね切った身体が恥ずかしがるようにもじもじと動いている。そのさまがまた、可愛くもあり、色気も感じさせられて、そ。っと、脚の間に触れる。そこはさっきよりもずっと、硬くなっていて、葉が決して不快でないのが分かった。
 だから、包み込むようにソコを握って、ゆっくりと手を上下させる。

『…あ』

 葉が快感に漏らす声を初めて聞いた。砂糖細工みたいに甘い声。本人は恥ずかしさに唇をかみしめているけれど、もっと聞きたい。

『葉。声。がまんすんな』

 前への刺激を続けたまま耳元に囁く。また、びく。と、身体を強張らせてから、ぎゅ。と、目を閉じて、葉は首を横に振る。解いた髪が揺れて、湯船に水滴が飛んだ。

『唇。傷になる』

 どうしても声が聞きたくて、指先で軽く先端を刺激しながら、追い込むとソレの硬度はさらに増していく。瞳の端に涙を溜めて、それでも頑なに唇をかみしめてしまうから、貴志狼はその唇を舌先でつ。と、舐めた。

『あっ』

 驚いたように葉の瞳と唇が同時に開く。

『…や。あ。シロ…まっ…っあ』

 そうしたら、もう、零れてしまった喘ぎを押しとどめることができなくなって、葉は貴志狼の手が動くのに任せて、声を上げた。縋るように葉の手が貴志狼の腕を握り締める。

『だ…め。だめっ。あっ…ん』

 必死に首を振って快楽に耐えようとしている様は今までの誰とも比べられないくらいに、艶っぽくて、綺麗だ。自分の腕の中で、葉がこんな姿を見せてくれる日が来るなんて思わなかった。それは想像していたよりもずっと魅力的で、絶対にもうほかの誰かにこんな姿を見せるなんてありえないと思う。

『や…だって。シロ…んんっ…だめ。も。イっちゃ…から』

 葉の瞳の端から、悲しみではない涙が零れる。表情は蕩けきって、身体は抵抗できてないなくせに、説得力のない否定の言葉には、かえって”もっと”と、言われているような響きがあった。

『いいぞ? 葉のイくとこ見たい』

 だから、手淫を激しくしつつ、ぺろ。と、耳元を舐めながら囁く。そうすると、葉の瞳が彷徨うように貴志狼を探して、視線がその顔を捉えると、き。と、睨むような表情に変わる。

『ばか。…ふ。ぁ。…ぼくだ…って。シロのこと…ん。きもちよく…した…』

 そう言って、その細い指が、貴志狼のソレに触れる。

『…うまく…っ。できないけど。一緒に…』

 葉の手がぎこちなく動く。確かにうまくはない。けれど、それをカバーしてありあまる可愛さに、目も眩むほどだと貴志狼は思う。

『…ありがとな』

 好きになってくれて。と、心の中で呟く。
 それから、腕に力を入れて、葉の足を開かせて向かい合わせに座らせた。

『え?』

 呆けたようにされるがままになってから、一瞬後、すべて隠せなくなるその体制の恥ずかしさに気付いたのか、葉が慌てたように逃げ出そうとする。けれど、葉が本当に逃げ出すことはないことも、自分がもう逃がしはしないことも、決定事項だ。

『一緒にすんだろ?』

 ぺろ。と、涙の跡を舐めて、葉の両手を貴志狼の両手が包み込む。外にいた時とは違って、葉の手も温かい。その両手で、二人分のソレを握る。そうすると、意図を察したのか、葉が大人しくなった。

『ん…っ。あ。…あ』

 手を重ねたまま、握って再び上下を始めると、躊躇いがちではあるけれど、葉の口からは喘ぎが漏れ始める。本音を言うと、葉の姿に煽られまくって、すぐに限界が来てしまいそうなのを、耐えるのは辛かった。けれど、貴志狼にも男の矜持がある。

『葉。顔、見たい』

 何より、感じている蕩けた葉を、もっと、見ていたい。

『…あっ。ん。でも…っはずか…』

 片手だけ離して、今日の髪に手を入れ、視線を合わせる。葉は形の好い眉を寄せて、必死に快感に耐えているようだった。それが証拠に、さっきから、貴志狼は手を添えるだけで、二人分のソレを擦り上げているのは葉自身だ。

『…シロ…んんっ…シロも。…イイ? ね? …っあ気持ち…い?』

 そんな可愛い質問に、頷いて答えると、葉は嬉しそうに笑って、すり。と、髪に入れた手に頬を擦り寄せる。

『…すき…シロ…』

 喘ぎの間に漏らした言葉。欲しくてほしくて堪らなかった言葉に、心も身体も高まっていくのは、止めようもない。

『…葉。違うだろ? いつまで、俺は、お前の犬でいればいいんだ?』

 犬でも構わないと思う。
 葉のそばにいられるならそれでいい。
 けれど、その先を許されるなら、葉を守って寄り添う存在になりたい。
 ただ、呼び方ひとつで何が変わるというわけではないし、そんなことにこだわるのは女々しいとも思う。
 それでも、きっと、こんな時でなければ言えない。葉が快楽に溶け切って、明日になったら忘れてくれればいいと思う。

『…あっ。ああ…き…貴志狼っ……っん。好き…貴志狼。だいすき…っ』

 貴志狼の願いを、葉は叶えてくれた。快楽に溺れそうになりながらも、愛おし気に細めた目が、貴志狼の顔を見て、強請るように閉じる。その唇にキスをすると、葉は鼻から甘い喘ぎを漏らした。
 そのまま、もう、全部忘れて、お互いの咥内を愛撫しあう。
 一緒に握ったソレも、限界近くまで張り詰めている。

 ただ、快感と幸福と愛おしさで満たされた夜はこうして暮れて行った。
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