真鍮とアイオライト 1

番外編 番犬と十七夜

猫（又）カフェにて 3

　貴志狼に選ばれるわけがない。けれど、一緒にいられるなら一緒にいたい。友達では嫌だ。一人占めしていたいけれど、貴志狼に相応しいのは自分ではない。そんな堂々巡りを繰り返しているうちに、こんな歳になってしまった。
　そして、先週。あんなことがあってから、貴志狼は緑風堂に来ていない。以前はどんなに忙しくても、2・3日に一度は顔を見せに来ていたのに、晴興に映画に誘われたあの日から、ぱったりとこなくなってしまった。
　生存確認のためなのかLINEは送られてくる。殆ど意味のない挨拶だけだが、それだけが今の葉と貴志狼の繋がりだった。

　それは、今日も同じで、自分が祖父から仰せつかったお使いを下っ端に任せて緑風堂に来ることを避けたのだ。いや、葉から逃げたのだ。

『も。いいよ。僕が選んだげるから、壱じいちゃんには”葉からのおススメだ”って、渡して』

　もう一度ため息をついて、葉は立ち上がった。
　途端に、じわ。と、足をついた場所から侵食されるような鈍い痛みが広がる。寒くなるとたまにあることなのだが、今日は特にひどい気がする。と、葉は思う。もしかしたら、天気が崩れるのかもしれない。

『マジすか？　せんきゅっす』

　さっきまで、緑風堂の姫たちの言葉の背景でBGMのようにどうしよう。どうしよう。と、大騒ぎしていた翔悟がけろり。と、表情を変えて、カウンターから乗り出してきた。

『はいはい。で？　何に使うの？　壱じいちゃんのお茶用？　それとも、ほかの人が飲むの？』

　翔悟の調子のよさに、文句が出かかるけれど、それを飲み込んで葉は訊ねた。でないと、いつまで経っても話が先に進まない。

『あ。お客さん用です！　アニキのお見合いっす』

　信じられない言葉に葉は固まってしまった。