真鍮とアイオライト 1

司書Y

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真鍮とアイオライト

真鍮とアイオライト 4

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『あ。…それから。これ』

 ポケットから、小さな包みを取り出して、鈴が差し出してくる。

『これは、池井さんに』

 鈴の手に収まっているそれは、薄い青の地にツタのような曲線の模様の入った和紙の袋で、真ん中のあたりが二つ小さく膨らんでいた。

『もしよかったら、持っててください』

 鈴の手から渡されたそれは、軽くてころころ。と、小さな音がする。

『ありがと。見てもいいかな?』

 そう聞くと、少し照れたみたいに視線を彷徨わせてから、どうぞ。と、低い声が囁いた。
 袋の口を止めてある小さなシールを剥がして、それを自分の掌の上に転がす。それは、小さなストラップだった。
 ビー玉より少し小さいくらいの金色の鈴と、同じ大きさの青紫の石が、金具でストラップの紐とめられている。ストラップの部分を持って持ち上げると、金色の鈴がりん。と、綺麗な音をさせた。

『綺麗な音だな』

 澄んだ音色に聞き入る。余韻がまだ、残っているような気がして、耳を寄せるとまた、りん。と、涼やかな音が鳴った。

『すみません。なんか、ガキっぽくて』

 少し罰が悪いような顔で、鈴が言う。けれど、子供っぽいとは思わなかった。

『や。そんなことないよ。家の鍵につける。ありがと』

 むしろ、嬉しい。と、思う。これを買うとき、きっと、鈴は自分のことを考えていてくれた。多分、ほかの人に貰ったのなら、そんなふうに思わない。鈴がえらんでくれたものだから、すごく特別なもののように思えるから不思議だ。

『これ。鈴。親父の実家に所縁がある神社のお守りで。真鍮製だけど、いい音でしょう?』

 俺の手の中の鈴を指さして鈴が言う。それから、今度はその長い指先が、青紫色の石を指さした。

『こっちは、アイオライト。菫色の石。って意味だそうです。迷ったときに、道を指示してくれるそうです』

 それから、鈴は掌を見つめていた目をあげて、俺の顔を見る。長い睫毛がゆっくりと瞬いて持ち上がるのを俺は息をつめて見ていた。

『なんだか、俺たちみたいでしょ? お守りに持っていてほしくて』

 そんなことを真剣なそれでいて優しい顔をして言うから、頷くくらいしかできない。

 友達でいられるだって?
 ホントに?
 こんなことくらいでこんなにも嬉しいのに。

 なんだか、涙が出そうになって、声を出したら震えていそうで、でも、それには気付かれたくなくて、俺は何も言えなくなってしまった。
 好きかも(往生際が悪すぎる)しれないと気づいたばかりだというのに、マズい。これは本当にマズい。もう、夢中だ。本当に友達の距離でいられるんだろうか。

『あ。そだ。言ってなかった。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします』

 そう言って鈴が頭を下げる。

『こっちこそ。よ…ろしく』

 何とかそれだけは言って、俺も頭を下げた。
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