47 / 392
真鍮とアイオライト
真鍮とアイオライト 1
しおりを挟む
箱根駅伝の復路を見ながら、いつも通りの寝正月をしていた時のことだった。
池井家では、正月は寝て過ごすと決めている。大晦日までにすべての準備を終わらせて、三が日は食って寝るしかしない。
炬燵に足を突っ込んで、スウェットに半纏。
炬燵の上にはミカンと甘栗。それから、緑風堂で少し奮発して買ったいい目のお茶を用意して、トイレ以外は絶対に動かないぞ。という、必殺の(?)覚悟で箱根駅伝を見るのだ。
池井家はかなり年季の入った古民家と言って差し支えない家だ。ありとあらゆる場所から隙間風が吹いてくるから、炬燵は絶対に欠かせない。さすがに掘り炬燵は数年前にその役目を終えたが、ばあちゃんは未だに毎日豆炭を熾して炬燵の燃料にしている。これが調節が難しくて…という話は、話し始めると長くなるから、この辺にしておこう。
とにかく、今年も、家族三人そろって、炬燵に入って、だらだらと過ごしていたんだ。
ぴんぽん。
〇〇大学と、××大学が、復路9区までもつれ込んでいるトップ争いを繰り広げている最中にその音が鳴った。多分、皆さんも聞き覚えのあるあの緑の吹き出しの鳴く声だ。
炬燵に両手を突っ込んで、ギリギリ首のあたりまで入ったまま、俺と、兄ちゃんと、ばあちゃんは顔を見合わせた。
無言のままばあちゃんが首を振る。自分ではないとアピールだ。ばあちゃんはLINEはやるけれど、主にここにいるばあちゃん以外の2人相手だけだから、自分ではないと言っているんだ。
次に兄ちゃんが首を振った。兄ちゃんはデフォルトの着信音を使っていない。だから、自分ではないと言っているようだった。
となると、あとは俺しかいない。俺? と、声を出さずに口を動かすと、二人とも大きく頷いた。
炬燵から出るのは、身を裂かれる思い(言い過ぎ)だ。けれど、これが、図書館の司書仲間(主に小柏さん)だった場合、返信をしなければ、あとでどんな辱めを受けることになるかわからない。一度、既読スルーしたら、次の日、勤務初日に書いて、しばらく掲示板に貼られていた新入図書館員の挨拶カードをカウンターで朗読されるという公開処刑をされた。落とし物と称して。
それからは、司書仲間のLINEは即既読即返信を心掛けている。
しぶしぶ両手を炬燵から出してスマホを取り上げる。電源ボタンを押してスマホの画面を開いたら、そこに表示されていた名前は、予想外のものだった。
北島鈴。
多分、接写の小さな鈴と思われるアイコンが表示されていた。わざとなのかもしれないけれど、画像は少しピンボケしていて鈴だと認識できるのは、多分、鈴のアイコンだと分かっているからだ。
と、まあ、そんなことはどうでもいい。
鈴からのLINEだ。
あの月が綺麗だった日の翌日。バイクで図書館まで送り届けてもらって以来、鈴とは会っていない。
年末で仕事も忙しかったし、鈴の方は父親の実家の方に里帰りするという話だった。と、言う話も、お礼に飯を奢るなんて言ってしまって、テンパった俺が、この年末の忙しいときにいつがいいかなんてLINEを送ってしまったから、鈴がそれに答えて教えてくれたんだ。
社交辞令。と、言う言葉に思い至らないあたり、本気でテンパっていたと思う。
けれど、何度もいけなくて残念だとか、済まないとか、また誘ってほしいとか送ってくれるから、少なくとも迷惑ではないのだと思うことにした。
スマホの画面をタップする。少し、手が震えた。
池井家では、正月は寝て過ごすと決めている。大晦日までにすべての準備を終わらせて、三が日は食って寝るしかしない。
炬燵に足を突っ込んで、スウェットに半纏。
炬燵の上にはミカンと甘栗。それから、緑風堂で少し奮発して買ったいい目のお茶を用意して、トイレ以外は絶対に動かないぞ。という、必殺の(?)覚悟で箱根駅伝を見るのだ。
池井家はかなり年季の入った古民家と言って差し支えない家だ。ありとあらゆる場所から隙間風が吹いてくるから、炬燵は絶対に欠かせない。さすがに掘り炬燵は数年前にその役目を終えたが、ばあちゃんは未だに毎日豆炭を熾して炬燵の燃料にしている。これが調節が難しくて…という話は、話し始めると長くなるから、この辺にしておこう。
とにかく、今年も、家族三人そろって、炬燵に入って、だらだらと過ごしていたんだ。
ぴんぽん。
〇〇大学と、××大学が、復路9区までもつれ込んでいるトップ争いを繰り広げている最中にその音が鳴った。多分、皆さんも聞き覚えのあるあの緑の吹き出しの鳴く声だ。
炬燵に両手を突っ込んで、ギリギリ首のあたりまで入ったまま、俺と、兄ちゃんと、ばあちゃんは顔を見合わせた。
無言のままばあちゃんが首を振る。自分ではないとアピールだ。ばあちゃんはLINEはやるけれど、主にここにいるばあちゃん以外の2人相手だけだから、自分ではないと言っているんだ。
次に兄ちゃんが首を振った。兄ちゃんはデフォルトの着信音を使っていない。だから、自分ではないと言っているようだった。
となると、あとは俺しかいない。俺? と、声を出さずに口を動かすと、二人とも大きく頷いた。
炬燵から出るのは、身を裂かれる思い(言い過ぎ)だ。けれど、これが、図書館の司書仲間(主に小柏さん)だった場合、返信をしなければ、あとでどんな辱めを受けることになるかわからない。一度、既読スルーしたら、次の日、勤務初日に書いて、しばらく掲示板に貼られていた新入図書館員の挨拶カードをカウンターで朗読されるという公開処刑をされた。落とし物と称して。
それからは、司書仲間のLINEは即既読即返信を心掛けている。
しぶしぶ両手を炬燵から出してスマホを取り上げる。電源ボタンを押してスマホの画面を開いたら、そこに表示されていた名前は、予想外のものだった。
北島鈴。
多分、接写の小さな鈴と思われるアイコンが表示されていた。わざとなのかもしれないけれど、画像は少しピンボケしていて鈴だと認識できるのは、多分、鈴のアイコンだと分かっているからだ。
と、まあ、そんなことはどうでもいい。
鈴からのLINEだ。
あの月が綺麗だった日の翌日。バイクで図書館まで送り届けてもらって以来、鈴とは会っていない。
年末で仕事も忙しかったし、鈴の方は父親の実家の方に里帰りするという話だった。と、言う話も、お礼に飯を奢るなんて言ってしまって、テンパった俺が、この年末の忙しいときにいつがいいかなんてLINEを送ってしまったから、鈴がそれに答えて教えてくれたんだ。
社交辞令。と、言う言葉に思い至らないあたり、本気でテンパっていたと思う。
けれど、何度もいけなくて残念だとか、済まないとか、また誘ってほしいとか送ってくれるから、少なくとも迷惑ではないのだと思うことにした。
スマホの画面をタップする。少し、手が震えた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる