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真鍮とアイオライト
真鍮とアイオライト 1
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箱根駅伝の復路を見ながら、いつも通りの寝正月をしていた時のことだった。
池井家では、正月は寝て過ごすと決めている。大晦日までにすべての準備を終わらせて、三が日は食って寝るしかしない。
炬燵に足を突っ込んで、スウェットに半纏。
炬燵の上にはミカンと甘栗。それから、緑風堂で少し奮発して買ったいい目のお茶を用意して、トイレ以外は絶対に動かないぞ。という、必殺の(?)覚悟で箱根駅伝を見るのだ。
池井家はかなり年季の入った古民家と言って差し支えない家だ。ありとあらゆる場所から隙間風が吹いてくるから、炬燵は絶対に欠かせない。さすがに掘り炬燵は数年前にその役目を終えたが、ばあちゃんは未だに毎日豆炭を熾して炬燵の燃料にしている。これが調節が難しくて…という話は、話し始めると長くなるから、この辺にしておこう。
とにかく、今年も、家族三人そろって、炬燵に入って、だらだらと過ごしていたんだ。
ぴんぽん。
〇〇大学と、××大学が、復路9区までもつれ込んでいるトップ争いを繰り広げている最中にその音が鳴った。多分、皆さんも聞き覚えのあるあの緑の吹き出しの鳴く声だ。
炬燵に両手を突っ込んで、ギリギリ首のあたりまで入ったまま、俺と、兄ちゃんと、ばあちゃんは顔を見合わせた。
無言のままばあちゃんが首を振る。自分ではないとアピールだ。ばあちゃんはLINEはやるけれど、主にここにいるばあちゃん以外の2人相手だけだから、自分ではないと言っているんだ。
次に兄ちゃんが首を振った。兄ちゃんはデフォルトの着信音を使っていない。だから、自分ではないと言っているようだった。
となると、あとは俺しかいない。俺? と、声を出さずに口を動かすと、二人とも大きく頷いた。
炬燵から出るのは、身を裂かれる思い(言い過ぎ)だ。けれど、これが、図書館の司書仲間(主に小柏さん)だった場合、返信をしなければ、あとでどんな辱めを受けることになるかわからない。一度、既読スルーしたら、次の日、勤務初日に書いて、しばらく掲示板に貼られていた新入図書館員の挨拶カードをカウンターで朗読されるという公開処刑をされた。落とし物と称して。
それからは、司書仲間のLINEは即既読即返信を心掛けている。
しぶしぶ両手を炬燵から出してスマホを取り上げる。電源ボタンを押してスマホの画面を開いたら、そこに表示されていた名前は、予想外のものだった。
北島鈴。
多分、接写の小さな鈴と思われるアイコンが表示されていた。わざとなのかもしれないけれど、画像は少しピンボケしていて鈴だと認識できるのは、多分、鈴のアイコンだと分かっているからだ。
と、まあ、そんなことはどうでもいい。
鈴からのLINEだ。
あの月が綺麗だった日の翌日。バイクで図書館まで送り届けてもらって以来、鈴とは会っていない。
年末で仕事も忙しかったし、鈴の方は父親の実家の方に里帰りするという話だった。と、言う話も、お礼に飯を奢るなんて言ってしまって、テンパった俺が、この年末の忙しいときにいつがいいかなんてLINEを送ってしまったから、鈴がそれに答えて教えてくれたんだ。
社交辞令。と、言う言葉に思い至らないあたり、本気でテンパっていたと思う。
けれど、何度もいけなくて残念だとか、済まないとか、また誘ってほしいとか送ってくれるから、少なくとも迷惑ではないのだと思うことにした。
スマホの画面をタップする。少し、手が震えた。
池井家では、正月は寝て過ごすと決めている。大晦日までにすべての準備を終わらせて、三が日は食って寝るしかしない。
炬燵に足を突っ込んで、スウェットに半纏。
炬燵の上にはミカンと甘栗。それから、緑風堂で少し奮発して買ったいい目のお茶を用意して、トイレ以外は絶対に動かないぞ。という、必殺の(?)覚悟で箱根駅伝を見るのだ。
池井家はかなり年季の入った古民家と言って差し支えない家だ。ありとあらゆる場所から隙間風が吹いてくるから、炬燵は絶対に欠かせない。さすがに掘り炬燵は数年前にその役目を終えたが、ばあちゃんは未だに毎日豆炭を熾して炬燵の燃料にしている。これが調節が難しくて…という話は、話し始めると長くなるから、この辺にしておこう。
とにかく、今年も、家族三人そろって、炬燵に入って、だらだらと過ごしていたんだ。
ぴんぽん。
〇〇大学と、××大学が、復路9区までもつれ込んでいるトップ争いを繰り広げている最中にその音が鳴った。多分、皆さんも聞き覚えのあるあの緑の吹き出しの鳴く声だ。
炬燵に両手を突っ込んで、ギリギリ首のあたりまで入ったまま、俺と、兄ちゃんと、ばあちゃんは顔を見合わせた。
無言のままばあちゃんが首を振る。自分ではないとアピールだ。ばあちゃんはLINEはやるけれど、主にここにいるばあちゃん以外の2人相手だけだから、自分ではないと言っているんだ。
次に兄ちゃんが首を振った。兄ちゃんはデフォルトの着信音を使っていない。だから、自分ではないと言っているようだった。
となると、あとは俺しかいない。俺? と、声を出さずに口を動かすと、二人とも大きく頷いた。
炬燵から出るのは、身を裂かれる思い(言い過ぎ)だ。けれど、これが、図書館の司書仲間(主に小柏さん)だった場合、返信をしなければ、あとでどんな辱めを受けることになるかわからない。一度、既読スルーしたら、次の日、勤務初日に書いて、しばらく掲示板に貼られていた新入図書館員の挨拶カードをカウンターで朗読されるという公開処刑をされた。落とし物と称して。
それからは、司書仲間のLINEは即既読即返信を心掛けている。
しぶしぶ両手を炬燵から出してスマホを取り上げる。電源ボタンを押してスマホの画面を開いたら、そこに表示されていた名前は、予想外のものだった。
北島鈴。
多分、接写の小さな鈴と思われるアイコンが表示されていた。わざとなのかもしれないけれど、画像は少しピンボケしていて鈴だと認識できるのは、多分、鈴のアイコンだと分かっているからだ。
と、まあ、そんなことはどうでもいい。
鈴からのLINEだ。
あの月が綺麗だった日の翌日。バイクで図書館まで送り届けてもらって以来、鈴とは会っていない。
年末で仕事も忙しかったし、鈴の方は父親の実家の方に里帰りするという話だった。と、言う話も、お礼に飯を奢るなんて言ってしまって、テンパった俺が、この年末の忙しいときにいつがいいかなんてLINEを送ってしまったから、鈴がそれに答えて教えてくれたんだ。
社交辞令。と、言う言葉に思い至らないあたり、本気でテンパっていたと思う。
けれど、何度もいけなくて残念だとか、済まないとか、また誘ってほしいとか送ってくれるから、少なくとも迷惑ではないのだと思うことにした。
スマホの画面をタップする。少し、手が震えた。
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