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夜が暗いから
夜が暗いから 3
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その後は正直よく覚えていない。鈴が大学で建築科を先行しているとか、高校時代は両親のいる県外で過ごしたとか、俺が兄と祖母と三人暮らしだということとか、菫という名前は父がつけてのだとか、その父は最近亡くなったのだとか、いろいろなことを話した。ただ、鈴は楽しそうに聞いてくれたのだけれど、俺の話はかなり支離滅裂だったと思う。
改札を早足で抜けて”間に合いましたね”と、笑う顔も、電車で並んで吊革につかまっている姿も、ちら。と、スマホを確認する仕草も、見惚れているのに気付かれて視線をかわしてから少し照れたような顔をするときも。まるで映画のワンシーンを見ているみたいだった。
それを、ずっと見ていたら、心臓がうるさくて、会話どころじゃなかったんだ。
気付くと、もう、自宅からほんの少しの場所まで来ていた。鈴の自宅だという場所は、駅と俺の家の中間位に位置しているから、わざわざ家を通り過ぎて、家まで送ってくれたことになる。そんなことにも、今更ながらに気付いた。
きつめの坂を上って、民家のまばらになったほぼ山の中腹のような場所に、俺の家はある。田んぼと、畑と、雑木林と、美しさと高さのどちらでも有名な山脈を一望できる景色と、澄んだ空気に煌めく夜景しかない場所だ。
随分と遠回りさせてしまったのだと、罪悪感。今更ながらもう、ここでいいよ。と、言おうと口を開きかけた。
『あの…池井さん』
そうすると、鈴が先に口を開く。
坂がきつくなり始めた頃から、鈴は少しずつ口数が減っていた。俺の方も話したいことはいっぱいあるのだけれど、どう話していいのかわからなくて、無言で隣を歩いていた。
だから、もう、この辺で帰るというのだろうと、少し寂しいと、思えってしまった。
『ん?』
けれど、ここまで送ってくれただけでも、嬉しかった。拙くても、鈴の話が聞けてよかったと、素直に思う。
『あの。葉さんのこと…なんですけど』
予想外の言葉に俺は鈴の横顔を覗き見る。暗くて表情ははっきりとはわからない。
どうして突然、風祭さんの話が出てくるのだろうと、訝しく思う。
正直、鈴の口から風祭さんの話を聞きたくない。そう思っている自分に驚く。いや、驚いているというより呆れる。普通に考えて、鈴が風祭さんと従兄でなかったとしても、仲がいいことは別におかしなことでも何でもない。
男同士なんだ。店長がバイト君を呼び捨てで呼んでいても、珍しいことでも何でもない。
それなのに、そんなことにすら、敏感に反応してしまう自分が最早笑えてきた。
『葉さんは母方の従兄で。あ。これは言ったか。いろいろ悩みとか、ガキの頃から聞いてくれて。一言で言うと、兄貴? みたいな人なんです』
まるで言い訳するみたいに鈴が言う。
だから、余計に不安なった。
もしかしたら、隠したいような関係性が二人の間にあるんじゃないかと。それを誤魔化すために俺を送ると言い出したんじゃないだろうかと。
『だから、その。ホント。俺たちは、そう言うんじゃなくて…』
そういうの。という言葉に、俺の方は分かりやすくびくり。と、震えてしまった。俺にしか見えない人たちを見るのよりもずっと、怖い。
『そういうの…って?』
けれど、聞かないでいるのも、嫌だった。もし、そういうのっていうのが、俺の思っているそういうの。だった時、それが分かるのは早い方がダメージが少なく済むからだ。
『え? あ。いや。その。ええっと』
わかりやすく、鈴は口籠った。必死で言葉を探している。ように見える。
どうしてだろう。
思ってから、当たり前かと苦笑した。
改札を早足で抜けて”間に合いましたね”と、笑う顔も、電車で並んで吊革につかまっている姿も、ちら。と、スマホを確認する仕草も、見惚れているのに気付かれて視線をかわしてから少し照れたような顔をするときも。まるで映画のワンシーンを見ているみたいだった。
それを、ずっと見ていたら、心臓がうるさくて、会話どころじゃなかったんだ。
気付くと、もう、自宅からほんの少しの場所まで来ていた。鈴の自宅だという場所は、駅と俺の家の中間位に位置しているから、わざわざ家を通り過ぎて、家まで送ってくれたことになる。そんなことにも、今更ながらに気付いた。
きつめの坂を上って、民家のまばらになったほぼ山の中腹のような場所に、俺の家はある。田んぼと、畑と、雑木林と、美しさと高さのどちらでも有名な山脈を一望できる景色と、澄んだ空気に煌めく夜景しかない場所だ。
随分と遠回りさせてしまったのだと、罪悪感。今更ながらもう、ここでいいよ。と、言おうと口を開きかけた。
『あの…池井さん』
そうすると、鈴が先に口を開く。
坂がきつくなり始めた頃から、鈴は少しずつ口数が減っていた。俺の方も話したいことはいっぱいあるのだけれど、どう話していいのかわからなくて、無言で隣を歩いていた。
だから、もう、この辺で帰るというのだろうと、少し寂しいと、思えってしまった。
『ん?』
けれど、ここまで送ってくれただけでも、嬉しかった。拙くても、鈴の話が聞けてよかったと、素直に思う。
『あの。葉さんのこと…なんですけど』
予想外の言葉に俺は鈴の横顔を覗き見る。暗くて表情ははっきりとはわからない。
どうして突然、風祭さんの話が出てくるのだろうと、訝しく思う。
正直、鈴の口から風祭さんの話を聞きたくない。そう思っている自分に驚く。いや、驚いているというより呆れる。普通に考えて、鈴が風祭さんと従兄でなかったとしても、仲がいいことは別におかしなことでも何でもない。
男同士なんだ。店長がバイト君を呼び捨てで呼んでいても、珍しいことでも何でもない。
それなのに、そんなことにすら、敏感に反応してしまう自分が最早笑えてきた。
『葉さんは母方の従兄で。あ。これは言ったか。いろいろ悩みとか、ガキの頃から聞いてくれて。一言で言うと、兄貴? みたいな人なんです』
まるで言い訳するみたいに鈴が言う。
だから、余計に不安なった。
もしかしたら、隠したいような関係性が二人の間にあるんじゃないかと。それを誤魔化すために俺を送ると言い出したんじゃないだろうかと。
『だから、その。ホント。俺たちは、そう言うんじゃなくて…』
そういうの。という言葉に、俺の方は分かりやすくびくり。と、震えてしまった。俺にしか見えない人たちを見るのよりもずっと、怖い。
『そういうの…って?』
けれど、聞かないでいるのも、嫌だった。もし、そういうのっていうのが、俺の思っているそういうの。だった時、それが分かるのは早い方がダメージが少なく済むからだ。
『え? あ。いや。その。ええっと』
わかりやすく、鈴は口籠った。必死で言葉を探している。ように見える。
どうしてだろう。
思ってから、当たり前かと苦笑した。
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