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甘味と猫とほうじ茶と
甘味と猫とほうじ茶と 7
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紺。やめなさい。そういうことは本人以外は言ってはだめにゃ。誰が聞いてるかわからないでしょ?
緑が窘めるように言う。視線を下に向けると、俺の方をちらり。と、見て、笑った。ような気がした。
と、言うよりも。今、完全に紺。って、言ってた。信じたくないけれど、本当にそう言うことらしい。とうとう、こんな会話まで聞こえるようになってしまった自分が心配になってくる。きっと、自分の脳には致命的な欠陥があるのだろう。でなければ、猫がしゃべるなんてありえない。
まあ、人に見えないモノが見えている時点で、充分におかしいんだから、こんなことがあっても、最早受け入れてしまえる。自分の脳に欠陥があるなら、当たり前のことなんだ。と。
だって、本当のことじゃにゃい。葉がシロに大切にされてるのも、鈴が大切な人をみつけ…。
がしゃん。と。また、言葉が遮られた。カウンターに置こうとしたタンブラーを鈴がひっくり返したんだ。
『…す。すみません』
慌てて風祭さんが布巾を渡してくれて、二人でわたわた。と、零したお茶を片付け始める。なんだか、二人とも、顔が赤い。
『池井さん。お茶、かかりませんでした?』
『すぐに、入れ直すよ』
鈴と風祭さんの言葉はほぼ同時だった。妙に息ぴったりな二人を見ていると、また、あのもやっと感が戻ってくる。慌ててるのも、俺に知られたくない二人の秘密があるんじゃないかなんて、勘ぐってしまう。
でも、池ちゃん。可哀想だにゃ。きっと、鈴が葉と仲がいいって、誤解してるにゃ。
誤解。とは、どういう意味だろうか。と、考えてから、俺はため息をついた。そもそも、俺だけに聞こえるこの声が、ちゃんと現実と整合性の取れた会話である保証なんてない。というよりも、俺の脳の勘違いなんだから、整合性がとれているわけがない。もし整合性がとれていたとしても、ただの友達の俺に、鈴が隠したいことなんて、多分。ない。
ただの従兄弟のくせに。
『従兄弟!?』
聞こえてきた紺の声に、俺は思わず反応してしまった。
『ああ。なんだ。知ってたの? 僕と鈴が従兄だって』
風祭さんが、さして驚いた様子もなく、俺の顔を見て微笑んだ。
『誰かに聞いた?』
少しだけ意地悪な笑顔だと、思う。いつもの優しい表情なのだけれど、まるで、俺を値踏みするような視線に感じる。
『いえ。その』
猫が言っていました。とは言えなくて、俺は俯いて口籠る。俺の後ろでは、猫たちが、口々に風祭さんに俺をイジメるなと抗議の声を上げた。頼もしいような、有難迷惑なような。複雑な心境だ。
『葉さん。池井さんに、絡まないで。じゃないと、もう、俺、来ないよ?』
その声が、この店のアイドルたちの声ではなかったから、俺は顔を上げた。猫たちは後ろでにゃーっ。と、なんだかよくわからない歓声を上げている。
『葉さんは母方の従兄です』
風祭さんが入れ直してくれたお茶を俺の前に置いて、鈴は付け足した。
顔を見上げると、笑ってくれた。心の中がほっ。と、明るくなるような笑顔だ。
『ごめん。ごめん。鈴、あんまり友達とか紹介してくれないから、どんな人か心配で』
両手を合わせてごめんね。のポーズをして、風祭さんが言う。今度は含みのない表情。揶揄いすぎちゃったかな。と、俺に目配せしてから、鈴に聞こえないような小さな声で呟く。
『本当に悪いと思ってる?』
その顔に疑わしそうな視線を送る鈴。けれど、テーブルにいた女性客に声をかけられて、仕方なく、といった様子で、俺に視線を向けた。
『少し、行ってきます。また、あとで、話してもいいですか?』
そう聞かれて、首を縦に振ってこたえる。そうすると、鈴はまた、嬉しそうに笑って、席を離れていった。去り際に、なんだか名残惜しそうに振り返って俺を見る。そんな鈴を見ると、また、言葉にはできない感情が心の奥から湧き上がってきた。
今度は、もや。ではない。鈴があんまり綺麗な笑顔をくれるから恥ずかしさと、名残惜しいと振り返ってくれた嬉しさと、二人の関係が血縁関係だった安心と、二人の関係を聞いて安心してしまった自分への戸惑いと、その感情が何なのか知ることへの恐れ。全部一緒くたになって、パンクしそうだ。
緑が窘めるように言う。視線を下に向けると、俺の方をちらり。と、見て、笑った。ような気がした。
と、言うよりも。今、完全に紺。って、言ってた。信じたくないけれど、本当にそう言うことらしい。とうとう、こんな会話まで聞こえるようになってしまった自分が心配になってくる。きっと、自分の脳には致命的な欠陥があるのだろう。でなければ、猫がしゃべるなんてありえない。
まあ、人に見えないモノが見えている時点で、充分におかしいんだから、こんなことがあっても、最早受け入れてしまえる。自分の脳に欠陥があるなら、当たり前のことなんだ。と。
だって、本当のことじゃにゃい。葉がシロに大切にされてるのも、鈴が大切な人をみつけ…。
がしゃん。と。また、言葉が遮られた。カウンターに置こうとしたタンブラーを鈴がひっくり返したんだ。
『…す。すみません』
慌てて風祭さんが布巾を渡してくれて、二人でわたわた。と、零したお茶を片付け始める。なんだか、二人とも、顔が赤い。
『池井さん。お茶、かかりませんでした?』
『すぐに、入れ直すよ』
鈴と風祭さんの言葉はほぼ同時だった。妙に息ぴったりな二人を見ていると、また、あのもやっと感が戻ってくる。慌ててるのも、俺に知られたくない二人の秘密があるんじゃないかなんて、勘ぐってしまう。
でも、池ちゃん。可哀想だにゃ。きっと、鈴が葉と仲がいいって、誤解してるにゃ。
誤解。とは、どういう意味だろうか。と、考えてから、俺はため息をついた。そもそも、俺だけに聞こえるこの声が、ちゃんと現実と整合性の取れた会話である保証なんてない。というよりも、俺の脳の勘違いなんだから、整合性がとれているわけがない。もし整合性がとれていたとしても、ただの友達の俺に、鈴が隠したいことなんて、多分。ない。
ただの従兄弟のくせに。
『従兄弟!?』
聞こえてきた紺の声に、俺は思わず反応してしまった。
『ああ。なんだ。知ってたの? 僕と鈴が従兄だって』
風祭さんが、さして驚いた様子もなく、俺の顔を見て微笑んだ。
『誰かに聞いた?』
少しだけ意地悪な笑顔だと、思う。いつもの優しい表情なのだけれど、まるで、俺を値踏みするような視線に感じる。
『いえ。その』
猫が言っていました。とは言えなくて、俺は俯いて口籠る。俺の後ろでは、猫たちが、口々に風祭さんに俺をイジメるなと抗議の声を上げた。頼もしいような、有難迷惑なような。複雑な心境だ。
『葉さん。池井さんに、絡まないで。じゃないと、もう、俺、来ないよ?』
その声が、この店のアイドルたちの声ではなかったから、俺は顔を上げた。猫たちは後ろでにゃーっ。と、なんだかよくわからない歓声を上げている。
『葉さんは母方の従兄です』
風祭さんが入れ直してくれたお茶を俺の前に置いて、鈴は付け足した。
顔を見上げると、笑ってくれた。心の中がほっ。と、明るくなるような笑顔だ。
『ごめん。ごめん。鈴、あんまり友達とか紹介してくれないから、どんな人か心配で』
両手を合わせてごめんね。のポーズをして、風祭さんが言う。今度は含みのない表情。揶揄いすぎちゃったかな。と、俺に目配せしてから、鈴に聞こえないような小さな声で呟く。
『本当に悪いと思ってる?』
その顔に疑わしそうな視線を送る鈴。けれど、テーブルにいた女性客に声をかけられて、仕方なく、といった様子で、俺に視線を向けた。
『少し、行ってきます。また、あとで、話してもいいですか?』
そう聞かれて、首を縦に振ってこたえる。そうすると、鈴はまた、嬉しそうに笑って、席を離れていった。去り際に、なんだか名残惜しそうに振り返って俺を見る。そんな鈴を見ると、また、言葉にはできない感情が心の奥から湧き上がってきた。
今度は、もや。ではない。鈴があんまり綺麗な笑顔をくれるから恥ずかしさと、名残惜しいと振り返ってくれた嬉しさと、二人の関係が血縁関係だった安心と、二人の関係を聞いて安心してしまった自分への戸惑いと、その感情が何なのか知ることへの恐れ。全部一緒くたになって、パンクしそうだ。
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