真鍮とアイオライト 1

司書Y

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甘味と猫とほうじ茶と

甘味と猫とほうじ茶と 6

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『そうか、友達、ね』

 鈴の顔をちらり、と見てから風祭さんは少し意味ありげに言う。その視線に鈴は、居心地の悪そうな顔になった。まるで、隠していたイタズラが見付かった子供みたいだ。
 隠したいイタズラ。
 心に浮かんだ言葉は妙にしっくりとはまり込んで、ああなるほどと、納得してしまった。

 俺は隠しておきたいコトなのかな?

 それがどういう意味なのかは、まだ、わからない。けれど、そう思われているのは、明確に不快。いや、悲しかった。

『池井さん? なにかありました? 体調わるいんですか?』

 鈴の気遣いの視線が申し訳なくて、俺は紅に視線を落とした。そうすると、まるで心配するかのように、見上げる紅と目があう。紅はじっと俺の顔を見てから、にゃあん。と、口を動かした。

 葉のバカ。わかってるくせに、池ちゃんにいじわるすんにゃ。

 確かに。口はにゃあん。と、動いていたんだ。それなのに、聞こえた声は、違っていた。可愛らしい少女のような声で確かに聞こえた。俺にも理解できる言葉が。

 葉は年増だから、菫の若さに嫉妬してるんにゃ。

 同じ年頃の、けれど、さっきの声より少し落ち着いた声の方へ視線を向ける。こには、ブルーグレイのビロードの毛並みの紺が本棚の本と本の隙間に挟まっていた。顔を両手の上に預けて、面白くなさそうにぱたぱたと、しっぽで本棚を叩いている。さっきまで、あんなにご機嫌だったのに、不機嫌を隠そうとしないのは、何が原因なのだろう。まさか、俺の態度がおかしくなったから?

 いや待て?
 てか、なんだ? これ。

 さっきまでのもやもやなんて、一瞬で吹き飛んでいた。
 当たり前だ。状況が異常すぎる。

 葉は鈴のことを心配してるだけにゃの。昔から弟みたいに可愛がってたの知ってるでしょ?

 二人(?)より、大人っぽい妙齢の女性のような、それでいて少し高めの声が足もとでする。最早、その声がしてくる方向に誰(?)がいるのかは、想像に難くないが、見るのが怖い。
 それでも、もしかして。と、辺りを見回すけれど、さっき怒られた女子高生風のグループも、それを見ていたほかのテーブルの女性客も、声のトーンは低く、こんなに近くで聞こえるような感じではない。

 嘘。葉は自分がシロとうまく行かないからって、菫に意地悪してるだけ。

 また、紺の方から声が聞こえる。
 紺の口がにゃあ。と、動く。

 え? これって、もしかしたら…。

 冷静に考えて、整理してみた。
 紅の口がにゃあ。と、動いて、言葉が聞こえた。
 紺の口がにゃあん。と、動いて、言葉が聞こえた。
 緑の口がにゃあ。と…。
 他には誰もそんな近くでしゃべる人はいない。
 他には誰もその言葉に反応しない。
 順序だてて考えると、恐ろしい答えに至ってしまった。

 シロちゃん。葉のことスキスキ~なのににゃあ。

 紅がそう言うと、同時に、がしゃん。と、大きな音がした。あち。と、声を上げて、風祭さんが急須の蓋を拾う。その顔がやけに赤い。余程熱かったんだろうか。

 それを言ったら、鈴だって、菫のこと…。

 今度は紺が言う。それと同時に紺との間に割り込むみたいに、鈴が俺の前に立った。

『お…お待たせいたしました』

 手には、さっき風祭さんに頼んだほうじ茶のシフォンの皿と陶器のタンブラーが載ったトレイを持っている。その声に遮られて、紺の言葉は聞こえなかった。
 なんて、言おうとしたんだろうか。続きが聞きたいような。怖いような。
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