38 / 392
甘味と猫とほうじ茶と
甘味と猫とほうじ茶と 6
しおりを挟む
『そうか、友達、ね』
鈴の顔をちらり、と見てから風祭さんは少し意味ありげに言う。その視線に鈴は、居心地の悪そうな顔になった。まるで、隠していたイタズラが見付かった子供みたいだ。
隠したいイタズラ。
心に浮かんだ言葉は妙にしっくりとはまり込んで、ああなるほどと、納得してしまった。
俺は隠しておきたいコトなのかな?
それがどういう意味なのかは、まだ、わからない。けれど、そう思われているのは、明確に不快。いや、悲しかった。
『池井さん? なにかありました? 体調わるいんですか?』
鈴の気遣いの視線が申し訳なくて、俺は紅に視線を落とした。そうすると、まるで心配するかのように、見上げる紅と目があう。紅はじっと俺の顔を見てから、にゃあん。と、口を動かした。
葉のバカ。わかってるくせに、池ちゃんにいじわるすんにゃ。
確かに。口はにゃあん。と、動いていたんだ。それなのに、聞こえた声は、違っていた。可愛らしい少女のような声で確かに聞こえた。俺にも理解できる言葉が。
葉は年増だから、菫の若さに嫉妬してるんにゃ。
同じ年頃の、けれど、さっきの声より少し落ち着いた声の方へ視線を向ける。こには、ブルーグレイのビロードの毛並みの紺が本棚の本と本の隙間に挟まっていた。顔を両手の上に預けて、面白くなさそうにぱたぱたと、しっぽで本棚を叩いている。さっきまで、あんなにご機嫌だったのに、不機嫌を隠そうとしないのは、何が原因なのだろう。まさか、俺の態度がおかしくなったから?
いや待て?
てか、なんだ? これ。
さっきまでのもやもやなんて、一瞬で吹き飛んでいた。
当たり前だ。状況が異常すぎる。
葉は鈴のことを心配してるだけにゃの。昔から弟みたいに可愛がってたの知ってるでしょ?
二人(?)より、大人っぽい妙齢の女性のような、それでいて少し高めの声が足もとでする。最早、その声がしてくる方向に誰(?)がいるのかは、想像に難くないが、見るのが怖い。
それでも、もしかして。と、辺りを見回すけれど、さっき怒られた女子高生風のグループも、それを見ていたほかのテーブルの女性客も、声のトーンは低く、こんなに近くで聞こえるような感じではない。
嘘。葉は自分がシロとうまく行かないからって、菫に意地悪してるだけ。
また、紺の方から声が聞こえる。
紺の口がにゃあ。と、動く。
え? これって、もしかしたら…。
冷静に考えて、整理してみた。
紅の口がにゃあ。と、動いて、言葉が聞こえた。
紺の口がにゃあん。と、動いて、言葉が聞こえた。
緑の口がにゃあ。と…。
他には誰もそんな近くでしゃべる人はいない。
他には誰もその言葉に反応しない。
順序だてて考えると、恐ろしい答えに至ってしまった。
シロちゃん。葉のことスキスキ~なのににゃあ。
紅がそう言うと、同時に、がしゃん。と、大きな音がした。あち。と、声を上げて、風祭さんが急須の蓋を拾う。その顔がやけに赤い。余程熱かったんだろうか。
それを言ったら、鈴だって、菫のこと…。
今度は紺が言う。それと同時に紺との間に割り込むみたいに、鈴が俺の前に立った。
『お…お待たせいたしました』
手には、さっき風祭さんに頼んだほうじ茶のシフォンの皿と陶器のタンブラーが載ったトレイを持っている。その声に遮られて、紺の言葉は聞こえなかった。
なんて、言おうとしたんだろうか。続きが聞きたいような。怖いような。
鈴の顔をちらり、と見てから風祭さんは少し意味ありげに言う。その視線に鈴は、居心地の悪そうな顔になった。まるで、隠していたイタズラが見付かった子供みたいだ。
隠したいイタズラ。
心に浮かんだ言葉は妙にしっくりとはまり込んで、ああなるほどと、納得してしまった。
俺は隠しておきたいコトなのかな?
それがどういう意味なのかは、まだ、わからない。けれど、そう思われているのは、明確に不快。いや、悲しかった。
『池井さん? なにかありました? 体調わるいんですか?』
鈴の気遣いの視線が申し訳なくて、俺は紅に視線を落とした。そうすると、まるで心配するかのように、見上げる紅と目があう。紅はじっと俺の顔を見てから、にゃあん。と、口を動かした。
葉のバカ。わかってるくせに、池ちゃんにいじわるすんにゃ。
確かに。口はにゃあん。と、動いていたんだ。それなのに、聞こえた声は、違っていた。可愛らしい少女のような声で確かに聞こえた。俺にも理解できる言葉が。
葉は年増だから、菫の若さに嫉妬してるんにゃ。
同じ年頃の、けれど、さっきの声より少し落ち着いた声の方へ視線を向ける。こには、ブルーグレイのビロードの毛並みの紺が本棚の本と本の隙間に挟まっていた。顔を両手の上に預けて、面白くなさそうにぱたぱたと、しっぽで本棚を叩いている。さっきまで、あんなにご機嫌だったのに、不機嫌を隠そうとしないのは、何が原因なのだろう。まさか、俺の態度がおかしくなったから?
いや待て?
てか、なんだ? これ。
さっきまでのもやもやなんて、一瞬で吹き飛んでいた。
当たり前だ。状況が異常すぎる。
葉は鈴のことを心配してるだけにゃの。昔から弟みたいに可愛がってたの知ってるでしょ?
二人(?)より、大人っぽい妙齢の女性のような、それでいて少し高めの声が足もとでする。最早、その声がしてくる方向に誰(?)がいるのかは、想像に難くないが、見るのが怖い。
それでも、もしかして。と、辺りを見回すけれど、さっき怒られた女子高生風のグループも、それを見ていたほかのテーブルの女性客も、声のトーンは低く、こんなに近くで聞こえるような感じではない。
嘘。葉は自分がシロとうまく行かないからって、菫に意地悪してるだけ。
また、紺の方から声が聞こえる。
紺の口がにゃあ。と、動く。
え? これって、もしかしたら…。
冷静に考えて、整理してみた。
紅の口がにゃあ。と、動いて、言葉が聞こえた。
紺の口がにゃあん。と、動いて、言葉が聞こえた。
緑の口がにゃあ。と…。
他には誰もそんな近くでしゃべる人はいない。
他には誰もその言葉に反応しない。
順序だてて考えると、恐ろしい答えに至ってしまった。
シロちゃん。葉のことスキスキ~なのににゃあ。
紅がそう言うと、同時に、がしゃん。と、大きな音がした。あち。と、声を上げて、風祭さんが急須の蓋を拾う。その顔がやけに赤い。余程熱かったんだろうか。
それを言ったら、鈴だって、菫のこと…。
今度は紺が言う。それと同時に紺との間に割り込むみたいに、鈴が俺の前に立った。
『お…お待たせいたしました』
手には、さっき風祭さんに頼んだほうじ茶のシフォンの皿と陶器のタンブラーが載ったトレイを持っている。その声に遮られて、紺の言葉は聞こえなかった。
なんて、言おうとしたんだろうか。続きが聞きたいような。怖いような。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる