真鍮とアイオライト 1

司書Y

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司書Iの日常

司書Iの日常 4

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『ここ。幽霊でるんすか?』

 くだらないことを考えていると意外なことを言われて、俺はまじまじと青年の顔を見た。小柏さんが拾ってくるような類のゴシップなんて気にしそうなタイプには見えないのに、そんなことを聞いてくるのは意外だ。

『さっきのそっちの人が言ってるの聞こえて』

 その言い方が少し言い訳しているように聞こえて、さらに意外な気がする。人がというか、俺なんかが、自分をどう見ているかなんて気にしていないように見えたからだ。
 まあ、俺以外に見える人がいない人々のことといい、俺の直観はあまり当てにならない。きっと、彼は俺が思っているより繊細なんだろう。

『幽霊なんていないですよ?』

 そんなことを考えていたから、返事が遅れた俺の代わりに青年の言葉に答えを返したのは、小柏さんだった。

『正確に言うと、いなくなったって話。児童コーナー側の西口の自動ドアから女の子が駆け出して、そのまますぐに消えてったのを見たって人がいて。それが、自動ドアを見つめる女の子の幽霊って、秋ごろから噂になってたんですけど、その子じゃないかって言うんですよ。その後には女の子の目撃談が無くなったっておまけ付きの話』

 横から話に入ってきた小柏さんは、よっぽど暇だったのか、それとも、超のつきそうなイケメンとお近づきになりたかったのか、早口で付け足す。俺の方はというと、そもそも女の子のことが噂になっていたなんて、全く知らなかった。 

『ですから、安心して存分に図書館をご利用くださいね』

 そう言って小柏さんはまた、営業用の笑顔を浮かべた。
 小柏さんの話にしては後味が悪くないのが気にかかる。いや、単に図書館の嫌な噂を流されては困るから、後味の悪い話は隠しているだけなのかもしれない。

『…いないすよ。幽霊とか』

 静かに伏し目がちに小柏さんの話を聞いていた青年がまるで言い聞かせるように言う。それは、自分自身にというのではなくて、誰か(目の前にいてもその相手は俺や小柏さんではないかもしれない)に向かって言っているようだった。

『言い切るんですね』

 きっぱり否定されたのが気に食わなかったのか、小柏さんが笑顔ではあるけれど、挑戦するような視線を向けて言う。普段、どんな理不尽な利用者さん相手にも笑顔で対応できる小柏さんにしては珍しい。
 いや。彼女のことだから、面白がっているのかもしれない。

『いないです。死んだら。人は。おしまい。
 心を残すとか。生まれ変わって幸せになるとか。ない』

 その人の目が俺を見た。
 まっすぐな視線だった。
 だから、やっぱり、彼の言葉は俺に向けられていたんだと気付く。
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