22 / 392
司書Iの日常
司書Iの日常 4
しおりを挟む
『ここ。幽霊でるんすか?』
くだらないことを考えていると意外なことを言われて、俺はまじまじと青年の顔を見た。小柏さんが拾ってくるような類のゴシップなんて気にしそうなタイプには見えないのに、そんなことを聞いてくるのは意外だ。
『さっきのそっちの人が言ってるの聞こえて』
その言い方が少し言い訳しているように聞こえて、さらに意外な気がする。人がというか、俺なんかが、自分をどう見ているかなんて気にしていないように見えたからだ。
まあ、俺以外に見える人がいない人々のことといい、俺の直観はあまり当てにならない。きっと、彼は俺が思っているより繊細なんだろう。
『幽霊なんていないですよ?』
そんなことを考えていたから、返事が遅れた俺の代わりに青年の言葉に答えを返したのは、小柏さんだった。
『正確に言うと、いなくなったって話。児童コーナー側の西口の自動ドアから女の子が駆け出して、そのまますぐに消えてったのを見たって人がいて。それが、自動ドアを見つめる女の子の幽霊って、秋ごろから噂になってたんですけど、その子じゃないかって言うんですよ。その後には女の子の目撃談が無くなったっておまけ付きの話』
横から話に入ってきた小柏さんは、よっぽど暇だったのか、それとも、超のつきそうなイケメンとお近づきになりたかったのか、早口で付け足す。俺の方はというと、そもそも女の子のことが噂になっていたなんて、全く知らなかった。
『ですから、安心して存分に図書館をご利用くださいね』
そう言って小柏さんはまた、営業用の笑顔を浮かべた。
小柏さんの話にしては後味が悪くないのが気にかかる。いや、単に図書館の嫌な噂を流されては困るから、後味の悪い話は隠しているだけなのかもしれない。
『…いないすよ。幽霊とか』
静かに伏し目がちに小柏さんの話を聞いていた青年がまるで言い聞かせるように言う。それは、自分自身にというのではなくて、誰か(目の前にいてもその相手は俺や小柏さんではないかもしれない)に向かって言っているようだった。
『言い切るんですね』
きっぱり否定されたのが気に食わなかったのか、小柏さんが笑顔ではあるけれど、挑戦するような視線を向けて言う。普段、どんな理不尽な利用者さん相手にも笑顔で対応できる小柏さんにしては珍しい。
いや。彼女のことだから、面白がっているのかもしれない。
『いないです。死んだら。人は。おしまい。
心を残すとか。生まれ変わって幸せになるとか。ない』
その人の目が俺を見た。
まっすぐな視線だった。
だから、やっぱり、彼の言葉は俺に向けられていたんだと気付く。
くだらないことを考えていると意外なことを言われて、俺はまじまじと青年の顔を見た。小柏さんが拾ってくるような類のゴシップなんて気にしそうなタイプには見えないのに、そんなことを聞いてくるのは意外だ。
『さっきのそっちの人が言ってるの聞こえて』
その言い方が少し言い訳しているように聞こえて、さらに意外な気がする。人がというか、俺なんかが、自分をどう見ているかなんて気にしていないように見えたからだ。
まあ、俺以外に見える人がいない人々のことといい、俺の直観はあまり当てにならない。きっと、彼は俺が思っているより繊細なんだろう。
『幽霊なんていないですよ?』
そんなことを考えていたから、返事が遅れた俺の代わりに青年の言葉に答えを返したのは、小柏さんだった。
『正確に言うと、いなくなったって話。児童コーナー側の西口の自動ドアから女の子が駆け出して、そのまますぐに消えてったのを見たって人がいて。それが、自動ドアを見つめる女の子の幽霊って、秋ごろから噂になってたんですけど、その子じゃないかって言うんですよ。その後には女の子の目撃談が無くなったっておまけ付きの話』
横から話に入ってきた小柏さんは、よっぽど暇だったのか、それとも、超のつきそうなイケメンとお近づきになりたかったのか、早口で付け足す。俺の方はというと、そもそも女の子のことが噂になっていたなんて、全く知らなかった。
『ですから、安心して存分に図書館をご利用くださいね』
そう言って小柏さんはまた、営業用の笑顔を浮かべた。
小柏さんの話にしては後味が悪くないのが気にかかる。いや、単に図書館の嫌な噂を流されては困るから、後味の悪い話は隠しているだけなのかもしれない。
『…いないすよ。幽霊とか』
静かに伏し目がちに小柏さんの話を聞いていた青年がまるで言い聞かせるように言う。それは、自分自身にというのではなくて、誰か(目の前にいてもその相手は俺や小柏さんではないかもしれない)に向かって言っているようだった。
『言い切るんですね』
きっぱり否定されたのが気に食わなかったのか、小柏さんが笑顔ではあるけれど、挑戦するような視線を向けて言う。普段、どんな理不尽な利用者さん相手にも笑顔で対応できる小柏さんにしては珍しい。
いや。彼女のことだから、面白がっているのかもしれない。
『いないです。死んだら。人は。おしまい。
心を残すとか。生まれ変わって幸せになるとか。ない』
その人の目が俺を見た。
まっすぐな視線だった。
だから、やっぱり、彼の言葉は俺に向けられていたんだと気付く。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる