真鍮とアイオライト 1

司書Y

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流星群

流星群 3

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 あ。そか。

 その笑顔を見ていて、気づいた。

 寂しい。
 だ。

 微笑みの中の小さな不純物。
 それは寂しさだ。
 きっと、何か大切なものを失くしたのだろう。だから、彼女は寂しくてここにいる。
 その思いが、夜の、黒い大気を漣のように揺らして、俺にも届く。言葉にする以上に雄弁にその震えは心を揺らした。

『別に。飛び込もうとか。してないよ』

 俺の感覚は当てにならない。それは何度も思ったことだけれど、これは多分間違っていない。
 彼女は俺を車道に飛び込ませようとしたわけじゃない。ただ。

『なんか。掴めそうな気がして』

 さっき、彼がしたように彼の方の向こうの空に手を伸ばす。
 ただ彼女は寂しくて、よく知っている温かな何かを掴みたかっただけなんだ。いや。掴んでほしかったのか。
 その思いを、俺が勝手に拾って、引っ張られて。なれるはずもないのに彼女(彼女が望む誰か?ではなくて)の代わりに手を伸ばしていた。
 だから、涙がでた。
 だから、彼の手が離れたとき、名残り惜しかった。

 極大の日。一時間に最大で10個ほども流星を見ることができる。
 だから、俺が手を握ろうとしたその時に星が降ったのも多分、偶然だ。

『掴めたじゃないすか』

 彼が笑う。
 伸ばした俺の手の方を首を巡らせて見ていた彼が、俺の方に向き直って言った。

『うん』

 俺は、星を握ったままの拳を、彼に差し出した。それは、彼の向こう側にいる車道で笑う彼女に向けてでもあった。

『あげる』

 それも、二人に向けた言葉だったと思う。
 ようやく、俺が飛び込むつもりでないことに安心したのか、彼は、俺の隣に並んで、道路の方を見て、それから、空を見上げて、最後に俺に視線を移して、握った掌を俺に差し出した。

『じゃ、俺のはあなたに』

 付き合わせた握ったままの掌。
 お互いに差し出した手を広げると、そこには何もないはずなのに、わずかに。ほんのわずかに燃え残った星の欠片が瞬いた気がした。

 その星が大気に溶ける。
 そうしたら、彼女は笑った。
 今度は不純物のない透明な笑顔だった。

 ありがとう。

 彼女の唇がそう動いた気がした。

 空を見上げると、また、一つ星が流れる。
 あ。と、どちらともなく呟いた。声が白い吐息になって、黒い大気に溶ける。
 並んでガードレールに身体を預けて、空を見上げて、俺たちは流れる星をいつまでも見ていた。
 綺麗で少し寂しい夜のほんの些細なできごとだった。
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