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水鏡
水鏡 1
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はじめに。この話はたいして怖くはない。世に広く流布されているようなトラウマ級の話に比べたらお子様のお遊び程度のものだと思う。
けれど、俺自身は、トラウマになるような恐怖を感じたお話。だから、暇があって、気が向いた人だけ読んでいただければいいと思う。
『その淵を覗き込むと、その人の本性が映るんだって』
そんな噂を聞いたのは、休憩時間に職場の3階の市民サロンで推理ものの小説を読んでいた時だった。そこはS市民なら誰でも利用できるワークスペースになっている。
隣の席に座っている、多分中学生くらいの3人組の会話が聞こえてきているようだ。ワークスペースでする会話にしては声が大きい。だから、というわけではないのだけれど、悪いと思いながらも、ついついその会話に耳が誘われてしまった。
『は? なにそれ?』
『だから、K町にあるため池みたいの。ほら、春祭りいったでしょ?
あの神社のわきにあるやつ。深夜12時に覗き込むと、その人の本当の姿が映るんだって』
グループの中の一人だけいる女の子は、少し前のめりになって二人の男子に話していた。
どこかで聞いたことのあるような、ないようなテンプレートを少しだけモジってみましたみたいな内容だな。と、俺は内心苦笑した。中学生が話すには少しガキっぽい気がする。
けれど、首都圏から電車で数時間。地方中核都市のベットタウンと言えば聞こえはいいけれど、ほんの少し足を延ばせば遭難可能な山の中に入れるような田舎の中学生なんて、そのくらいスレていないのが普通なのかもしれない。
『本当の姿ってなんだよ? 意味わかんね』
話を振られた男子はあまり興味がなさそうだ。つまらなそうにスマホを弄りながら仕方なくと言ったていで聞いている。
『なんかね。心がキレイだと本物よりキレイに映って、性格悪いと美人でもブサく映るらしいよ』
『あーじゃ。お前そのままに映るよな。性格悪いし』
スマホ男子は一応は話を聞いていたようで、顔をあげて言う。
『はあ? お前に言われたくねーし』
一際高く上がった声に、周りの迷惑そうな視線が集まる。でも、女子中学生はお構いなしだ。
内容的には聞き耳を立てるほどの話でもないのだが、もはや聞こうと思っていなくても無理矢理に耳に割り込んでくる。借りている小説の返却期限は明日だからもう少し読み進めたいと思っていたが、視線は文字を上滑りするだけで、内容が頭に入ってこなくて俺は少しイライラしてきていた。
オリジナリティはどうした?
オチはどこだ?
ワークスペースで白い目で見られながら今しなきゃいけない話がどこかにあったか?
俺は心の中で悪態を。表面的には大きなため息を吐いた。
『で?』
『は?』
『で、見えたからどうだっての? それだけ? なら、別に怖くもねーじゃん』
同じくつまらなそうに話を聞いていたもう一人の男子が俺の代わりにツッコミを入れてくれた。
『それそれ。怖いのはここから!
そのまま見えた場合はなにもないんだけど、違った姿が見えた時は中のヤツが話しかけてくるんだって。で。その声に答えると…』
『あー。うん。そうかー。こわいこわい(棒)』
女の子がオチをつけようと作ったタメを遮るようにスマホ男子が言う。
『聞けよ!
妹の友達が声に答えちゃって大変なことになっちゃったんだから!』
『はいはい。大変でちたね~』
『ムカつく~』
そんな感じの会話だった。
けれど、俺自身は、トラウマになるような恐怖を感じたお話。だから、暇があって、気が向いた人だけ読んでいただければいいと思う。
『その淵を覗き込むと、その人の本性が映るんだって』
そんな噂を聞いたのは、休憩時間に職場の3階の市民サロンで推理ものの小説を読んでいた時だった。そこはS市民なら誰でも利用できるワークスペースになっている。
隣の席に座っている、多分中学生くらいの3人組の会話が聞こえてきているようだ。ワークスペースでする会話にしては声が大きい。だから、というわけではないのだけれど、悪いと思いながらも、ついついその会話に耳が誘われてしまった。
『は? なにそれ?』
『だから、K町にあるため池みたいの。ほら、春祭りいったでしょ?
あの神社のわきにあるやつ。深夜12時に覗き込むと、その人の本当の姿が映るんだって』
グループの中の一人だけいる女の子は、少し前のめりになって二人の男子に話していた。
どこかで聞いたことのあるような、ないようなテンプレートを少しだけモジってみましたみたいな内容だな。と、俺は内心苦笑した。中学生が話すには少しガキっぽい気がする。
けれど、首都圏から電車で数時間。地方中核都市のベットタウンと言えば聞こえはいいけれど、ほんの少し足を延ばせば遭難可能な山の中に入れるような田舎の中学生なんて、そのくらいスレていないのが普通なのかもしれない。
『本当の姿ってなんだよ? 意味わかんね』
話を振られた男子はあまり興味がなさそうだ。つまらなそうにスマホを弄りながら仕方なくと言ったていで聞いている。
『なんかね。心がキレイだと本物よりキレイに映って、性格悪いと美人でもブサく映るらしいよ』
『あーじゃ。お前そのままに映るよな。性格悪いし』
スマホ男子は一応は話を聞いていたようで、顔をあげて言う。
『はあ? お前に言われたくねーし』
一際高く上がった声に、周りの迷惑そうな視線が集まる。でも、女子中学生はお構いなしだ。
内容的には聞き耳を立てるほどの話でもないのだが、もはや聞こうと思っていなくても無理矢理に耳に割り込んでくる。借りている小説の返却期限は明日だからもう少し読み進めたいと思っていたが、視線は文字を上滑りするだけで、内容が頭に入ってこなくて俺は少しイライラしてきていた。
オリジナリティはどうした?
オチはどこだ?
ワークスペースで白い目で見られながら今しなきゃいけない話がどこかにあったか?
俺は心の中で悪態を。表面的には大きなため息を吐いた。
『で?』
『は?』
『で、見えたからどうだっての? それだけ? なら、別に怖くもねーじゃん』
同じくつまらなそうに話を聞いていたもう一人の男子が俺の代わりにツッコミを入れてくれた。
『それそれ。怖いのはここから!
そのまま見えた場合はなにもないんだけど、違った姿が見えた時は中のヤツが話しかけてくるんだって。で。その声に答えると…』
『あー。うん。そうかー。こわいこわい(棒)』
女の子がオチをつけようと作ったタメを遮るようにスマホ男子が言う。
『聞けよ!
妹の友達が声に答えちゃって大変なことになっちゃったんだから!』
『はいはい。大変でちたね~』
『ムカつく~』
そんな感じの会話だった。
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