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手紙

甘い? 3

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 それから、数日。時折、何かを考えている時間はあるけれど、翡翠は落ち着きを取り戻していた。
 もちろん、割り切れたはずはない。翡翠が受けた傷はそんな生易しいものではない。ただ、彼自身が言っていたように、その感情をどう処理していいのか考えあぐねているのだと分かった。できるだけ考えないようにしているのも分かる。

 隼人も虎鉄も翡翠の変化に気づいてはいるだろうけれど、何も追及したりはしない。ただ、いつもよりも明るく話しかけてくれたり、わざと手間のかかる夕食のメニューを提案したり、翡翠が考え込む時間を与えないように気を使ってくれているようだった。
 紅二にはまだ、手紙のことも含めて翡翠のことを全部話してはいない。話したのは彼がゲートであることと、そのゲートが人体実験で開いたものだということだけだ。さすがに中学生に話すのは重すぎる。それでも、ゲートや吸魔の十三のことを正確に理解している紅二はある程度のことを察していると一青は思う。理解しているからこそ、紅二は何も問わない。翡翠が好きだからだ。翡翠を傷つけるようなことをしたくないからだ。自分が選んだ伴侶を家族と思い、大切にしてくれる紅二が一青には誇らしかった。

「一青」

 声をかけられて一青は顔を上げた。

「DD」

 今日は、事務所での待機日だ。異形や能力者絡みの事件が起こるまでは原則事務所に詰めて、警察や魔法庁からの要請に応じて出動する。
 事務所に出勤して、書類整理に手を付けた途端に呼ばれたのだ。

「要請だ。行くぞ。B号装備」

 AからEまである装備のうち、軽装備のほうから二番目の装備を言い渡される。それだけで、討伐困難な異形が暴れまわっている。というわけではないのはわかった。

「了解」

 短く答えて、一青は立ち上がった。
 ふ。と、視線を移すと、窓の外に雨が降っていた。

「あ……め?」

 思わず呟く。

「That's right.」

 一青の驚く顔をさも当たり前という表情で眺めて、DDが言った。ぱんぱん。と、まるで正答を示した子供を褒めるがごとく、手を叩く。

「狐の嫁入り」

 それから、顔に似合わないことを言うのだ。

「この国ではそう言うんだろ?」

 空は晴れている。正確に言うなら、魔道ガラスの向こうの太陽ははっきりとその姿を見せている。
 けれど、雨は降っていたのだった。
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