【これはファンタジーで正解ですか?】

司書Y

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手紙

甘い? 2

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 一青には翡翠の気持ちが理解できた。自分の父が生きていると知った日に一青も思った。その人は父親だけれど、頼ってはいけない。だから、緋色は自分が守るのだと誓った。緋色が死んだ日。何もできなかった自分の無力さに慟哭しながら誓った。紅二だけは。弟だけは自分が必ず守るのだと。
 そう思わなければ立っていられないほど子供だった自分を思う。そんな自分を支えてくれた人たちを思う。

「わかってる。けど、一人背負わないで」

 一青の言葉に翡翠が視線をくれる。綺麗な翡翠色の瞳。
 この人が信じているのなら、どんな願いも叶えたい。翡翠の願いは一青の願いだ。彼の家族が生きていると自分も信じようと、一青は思う。その道の先に残酷な運命が立ちはだかるとしても、その絶望から彼を救うのは自分でなくてはいけない。

「翡翠の家族なら、俺の家族だ。一緒に探そう」

 頬を撫でると、翡翠は少しだけ戸惑った表情を浮かべてから、微笑んで頷いた。

「柳大路さんに連絡とってみよう。何かわかるかもしれないし」

 こくり。と、また、翡翠は素直に頷く。あんなことを知って、平静でいられるはずはないけれど、気持ちは少し落ち着いたようだ。

「久米木の家のことは、警察や魔法庁でも調べているらしい。どこまで情報開示してくれるか分からないけど、スレイヤー権限でアクセスしてみる」

 スレイヤーは警察官と同等以上の捜査権を持つ。もちろん、個人情報を保護したうえでだが、一般人には見ることができな捜査資料も閲覧が可能だ。ただ、黒蛇や久米木のことは、最重要機密だ。

「必要なら和臣さんに力借りてもいい」

 国内最高のスレイヤーズギルド『黎明月』の元会長にして最高のスレイヤー石田和臣。その名前を出せば、かなりの情報を集められる。和臣が協力を惜しむはずがないし、反対に頼らなければ後で拗ねかねない。
 それでも、人型ゲートが関係しているなら情報を得られるかどうかは分からない。それほどに人型ゲートの情報は重要なのだ。しかも、人為的に人型ゲートが作り出せるとなれば、その情報の価値は計り知れない。

「親父は……まあ、この場合は仕方ない。一番情報もってると思うし。なりふり構ってられないしな」

 だから、一青にとっては最も使いたくない手段だけれど、この際国政の力を借りることも厭わない。翡翠が喜んでくれるなら、自分のくだらない矜持などどうでもいい。

「借り作るのは嫌だけど……」

 言い訳がましく一青が言うと、くすり。と、翡翠が笑った。

「一青。成願寺さんの話になると、子供みたいになる」

 笑ってくれたのは嬉しいけれど、国政の話題と言うのが一青には気に入らない。

「かわい」

 そして、少女のような童顔に、母性と言うのが相応しいような表情を浮かべて言うのだ。それをみたら、もう、反論なんて一つも出来なくなってしまった。
 ただ、戸惑いや悲しみの表情でないことに一青は安堵した。まだ濡れている頬を掌で拭ってやると、擽ったそうに首を竦めて翡翠が肩に寄りかかってきた。

「ありがと。一青がいてくれてよかった」

 その肩を抱く。甘い香りがした。

「あの人のこと。うまく……飲み込めない……けど。今は……考えない。俺、全然冷静じゃないし」

 絞り出すみたいに翡翠は言った。辛そうな声だ。それでも冷静ではないと自分を客観的にみられる程度には落ち着いている。その冷静さが今までの翡翠の生きてきた道の過酷さを表しているようで辛い。

「今は、家族のこと考える。父さんと、母さんと、瑠璃と紫。それから……一青のこと。そしたら、頑張れるから」

 健気な言葉に愛おしさが溢れる。甘やかしたい。守りたい。どんな苦痛からも遠ざけて、幸せだけをあげたい。
 出会った瞬間にこの人だと思った。それはお互いのゲートとゲートキーパーの力のせいだったかもしれない。けれど、今、一青は思う。ゲートキーパーに生まれてよかった。だから、この人に出会えたし、結ばれる権利が貰えた。その力がなければ、翡翠を伴侶にはできなかったのだ。

「頑張ってる翡翠は偉いと思うけど。俺のことは頑張らなくていいよ。弱いところも見せて。全部……大事にするから」

 ぎゅ。と、また、その身体を抱きしめる。
 一青の言葉に、ほう。と、溜息のような吐息を漏らして、翡翠はおずおずとその背に手を回して抱き返してくれた。

「一青……俺のこと。甘やかしすぎ」

 声に非難の色はない。

「こんくらいで甘やかしすぎなんて言ってたら、この先身が持たないぞ?」

 翡翠を抱きしめたまま、一青は言った。
 本当に、こんなものでは足りない。翡翠が望むなら、別れる以外のすべての願いは叶えてやりたいし、叶えるための努力は一青にとって苦痛ではない。

「……好きだよ。一青」

 さっきまで消え入りそうな声だったのに、今度ははっきりと翡翠が言う。

「うん。俺も好きだ」

 一青も答えた。
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