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手紙
手紙 3
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正兼が柳大路であり。
翠さんが久米木だったから。
久米木はご存知の通り、呪いの一族です。ですが、表面上、現在は普通のスレイヤーとして登録されているものもいます。呪いと言っても、他の魔法と変わらないただの魔法の一種だと、現在の教育では教えられますが、吸魔の呪いを含む一部の禁呪は未だ忌まわしいものとして嫌悪の対象とされていてます。特に私たちゲートキーパーは吸魔の呪いを強く忌避します。そんな呪いを使う上、黒い噂の絶えない久米木の人間とかかわりを持つことを、認めることはできなかったのです。
翠さんは素晴らしい女性でした。優しく聡明で愛らしい人でした。
だから、因習などに惑わされずに認めてやるべきだった。弟が心から愛した人を信じればよかった。
そう思ったのは、彼らがいなくなってからでした。
弟は二人の関係を認めない柳大路を責めることも、罵ることもありませんでした。長く続く家を大切に思うことは当たり前だと笑ってくれました。そして、ゲートキーパーの能力のない自分なら家から出ても誰にも迷惑は掛からないと、当時もう長くないと医者に言われていた母方の祖母の養子となり家を出ました。同じころ、駆け落ち同然に家を出た翠さんとひっそりと籍を入れたそうです。
それから何年も弟は連絡を寄越しませんでした。ただ、失踪する直前、一度だけ送られてきた手紙に入っていたのが、一緒に渡していただきました写真です。お恥ずかしながら、私はその手紙で初めて弟に子供がいるのだと知りました。しかも、あなたを含む三人も。
けれど、同時に。その手紙には何があっても自分たちには関わるなと強い言葉を使って書かれていました。何があったとしても、柳大路には関係のないことだと。
弟とその家族が失踪したのだと警察の方から知らされたとき、当時存命していた父は何も知らないと捜査員を追い返してしまいました。実際、何も知ってはいなかったと思います。けれど、そのさまを見た私が感じたことは、父が弟を、その家族を捨てたのだということでした。
私は父に反発して、弟の行方を捜しました。あなた方の失踪に久米木が関係していることはほぼ間違いないと私は確信していました。けれど、どんなに探しても何も手がかりは見つかりませんでした。弟たちは周囲の人とのかかわりを多く持ってはいなかったし、そのささやかな交友関係の全てをやつらは根こそぎ消し去っていたのです。
たった一つの小さな家族を連れ去るためだけにそこまでするのかと、あなた方が最後に住んでいた家の前に立って思いました。小規模のゲートが突然開いて、すぐに消えたのだと聞かされたその場所は、ごく普通の住宅街でしたが、かつて幸せないくつかの家族が暮らしていたのだとはとても思えない場所に変わっていました。
愚かにもそれを見た私は逃げ出しました。その時に初めて弟が関わるなと言った意味を正確に理解したのです。
翠さんが久米木だったから。
久米木はご存知の通り、呪いの一族です。ですが、表面上、現在は普通のスレイヤーとして登録されているものもいます。呪いと言っても、他の魔法と変わらないただの魔法の一種だと、現在の教育では教えられますが、吸魔の呪いを含む一部の禁呪は未だ忌まわしいものとして嫌悪の対象とされていてます。特に私たちゲートキーパーは吸魔の呪いを強く忌避します。そんな呪いを使う上、黒い噂の絶えない久米木の人間とかかわりを持つことを、認めることはできなかったのです。
翠さんは素晴らしい女性でした。優しく聡明で愛らしい人でした。
だから、因習などに惑わされずに認めてやるべきだった。弟が心から愛した人を信じればよかった。
そう思ったのは、彼らがいなくなってからでした。
弟は二人の関係を認めない柳大路を責めることも、罵ることもありませんでした。長く続く家を大切に思うことは当たり前だと笑ってくれました。そして、ゲートキーパーの能力のない自分なら家から出ても誰にも迷惑は掛からないと、当時もう長くないと医者に言われていた母方の祖母の養子となり家を出ました。同じころ、駆け落ち同然に家を出た翠さんとひっそりと籍を入れたそうです。
それから何年も弟は連絡を寄越しませんでした。ただ、失踪する直前、一度だけ送られてきた手紙に入っていたのが、一緒に渡していただきました写真です。お恥ずかしながら、私はその手紙で初めて弟に子供がいるのだと知りました。しかも、あなたを含む三人も。
けれど、同時に。その手紙には何があっても自分たちには関わるなと強い言葉を使って書かれていました。何があったとしても、柳大路には関係のないことだと。
弟とその家族が失踪したのだと警察の方から知らされたとき、当時存命していた父は何も知らないと捜査員を追い返してしまいました。実際、何も知ってはいなかったと思います。けれど、そのさまを見た私が感じたことは、父が弟を、その家族を捨てたのだということでした。
私は父に反発して、弟の行方を捜しました。あなた方の失踪に久米木が関係していることはほぼ間違いないと私は確信していました。けれど、どんなに探しても何も手がかりは見つかりませんでした。弟たちは周囲の人とのかかわりを多く持ってはいなかったし、そのささやかな交友関係の全てをやつらは根こそぎ消し去っていたのです。
たった一つの小さな家族を連れ去るためだけにそこまでするのかと、あなた方が最後に住んでいた家の前に立って思いました。小規模のゲートが突然開いて、すぐに消えたのだと聞かされたその場所は、ごく普通の住宅街でしたが、かつて幸せないくつかの家族が暮らしていたのだとはとても思えない場所に変わっていました。
愚かにもそれを見た私は逃げ出しました。その時に初めて弟が関わるなと言った意味を正確に理解したのです。
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