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はなびら
06-1
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ビルは10階建てで、一番下の階がコンビニと居酒屋。その上の階は2階から6階がオフィス。さらにその上は賃貸のマンションになっていた。北浜スレイヤーズオフィスは2・3階部分を占有していて、現在いる4階はいくつかの会社が事務所を置いている。
4階はパニック状態だった。轟音は治まっていたけれど、時折どこかで何かが崩れるような音が響く。その声に混じって、オフィスから出てきた人が右往左往しているのが見えた。ただ、誰も怪我などはしておらず、突然の音と地震のような揺れに驚いて飛び出してきたという雰囲気だ。
「下の階より、被害が大きいな」
周囲を警戒しながら、DDが言った。
廊下の窓ガラスはすべて割れていているが、ガラス片は床には落ちていない。おそらくは、外へ向かって衝撃が突き抜けたから、内側には残っていないのだと想像がつく。殆どのドアは開いているが、さっきの音の正体のせいでというよりも、その後人が逃げ出したことが原因だと思われる。
翡翠たち三人の後から駆け付けた北浜スレイヤーズオフィスのスレイヤーと思しき人物にDDが一般人を避難させるように指示を出すと、指示を受けた人物は速やかに上官の指示に従って、一般人の避難誘導を始めた。その数が二人に、それから三人へと増える。
「『震源地』は……」
翡翠を守るように手を差し伸べたまま、一青が言う。
すべてのドアが開いているわけではない。今日は平日とはいえ、全てのオフィスに人がいるわけではないようだ。そもそも、このフロアの貸しオフィスが全て契約中かどうかも分からない。ただ、外にプレートを掲げているようなオフィスのドアは殆どが開いていて、ドアから覗くことができる場所にはあの轟音がもたらすようなどんな被害も見えない。そして、そこから出てきたと思われる人たちに身体の不調を訴えるような人はいなかった。
音や振動の割に怪我人がいないことにほっとする。
「……あれ。か?」
一か所だけ、明らかに違う場所を見つけて、一青が呟くように言う。
どくん。と、心臓の音が聞こえる。
いくつか並んだ小さめの貸事務所のドアの中で、少し奥まった場所。開いたそのドアは内側だった場所に無数の傷がついていた。上の蝶番が壊れてドアが傾いている。採光用のすりガラスも砕けて、跡形もない。それは、まるでものすごい力で内側から吹き飛ばされたかのように開ききって、ギイギイ。と、小さく揺れて音を立てていた。
どくん。と、また、胸が締め付けられるように鳴った。
怖い。
何かが、敵が潜んでいるかもしれないことが。ではない。
「……風」
小さく一青が呟く。
一瞬。今度は心臓が凍り付いたかと思った。
残っている痕跡を見れば明らかだ。
それは、風のエレメントを持つ攻撃用の魔法による爪痕に間違いはない。スレイヤーであれば一目見ればそれはわかる。偽装する方法がないわけではないけれど、時間はかかるし、手間と時間をかけても、あまり意味がない偽装だ。風のエレメントを持つものはスレイヤーの約五分の一。エレメントで特定できることなどそれくらいしかないからだ。
「宮坂さん。いらっしゃいますか?」
ドアの横にはシンプルな文字で『Atelier MIYASAKA』と書かれている。もちろん、はじめてここに来た翡翠はそこがなにのアトリエなのか知らない。知らないはずだ。しかし、中の人物をDDも、一青も知っているようだった。それが、モヤのように心に影を落とす。
「宮坂さん。入りますよ?」
しばらく待っても返事がなかったので、断りを入れてから、DDが先行して中へ入る。
「すぐ呼ぶから。ここにいて?」
翡翠に一言言って、一青もDDを追った。中を確認して、彼は一瞬、言葉を失う。それから、気を取り直したように、ドアの外にいる翡翠に声をかけた。
「いいよ。大丈夫」
呼ばれて、翡翠も中に入った。
4階はパニック状態だった。轟音は治まっていたけれど、時折どこかで何かが崩れるような音が響く。その声に混じって、オフィスから出てきた人が右往左往しているのが見えた。ただ、誰も怪我などはしておらず、突然の音と地震のような揺れに驚いて飛び出してきたという雰囲気だ。
「下の階より、被害が大きいな」
周囲を警戒しながら、DDが言った。
廊下の窓ガラスはすべて割れていているが、ガラス片は床には落ちていない。おそらくは、外へ向かって衝撃が突き抜けたから、内側には残っていないのだと想像がつく。殆どのドアは開いているが、さっきの音の正体のせいでというよりも、その後人が逃げ出したことが原因だと思われる。
翡翠たち三人の後から駆け付けた北浜スレイヤーズオフィスのスレイヤーと思しき人物にDDが一般人を避難させるように指示を出すと、指示を受けた人物は速やかに上官の指示に従って、一般人の避難誘導を始めた。その数が二人に、それから三人へと増える。
「『震源地』は……」
翡翠を守るように手を差し伸べたまま、一青が言う。
すべてのドアが開いているわけではない。今日は平日とはいえ、全てのオフィスに人がいるわけではないようだ。そもそも、このフロアの貸しオフィスが全て契約中かどうかも分からない。ただ、外にプレートを掲げているようなオフィスのドアは殆どが開いていて、ドアから覗くことができる場所にはあの轟音がもたらすようなどんな被害も見えない。そして、そこから出てきたと思われる人たちに身体の不調を訴えるような人はいなかった。
音や振動の割に怪我人がいないことにほっとする。
「……あれ。か?」
一か所だけ、明らかに違う場所を見つけて、一青が呟くように言う。
どくん。と、心臓の音が聞こえる。
いくつか並んだ小さめの貸事務所のドアの中で、少し奥まった場所。開いたそのドアは内側だった場所に無数の傷がついていた。上の蝶番が壊れてドアが傾いている。採光用のすりガラスも砕けて、跡形もない。それは、まるでものすごい力で内側から吹き飛ばされたかのように開ききって、ギイギイ。と、小さく揺れて音を立てていた。
どくん。と、また、胸が締め付けられるように鳴った。
怖い。
何かが、敵が潜んでいるかもしれないことが。ではない。
「……風」
小さく一青が呟く。
一瞬。今度は心臓が凍り付いたかと思った。
残っている痕跡を見れば明らかだ。
それは、風のエレメントを持つ攻撃用の魔法による爪痕に間違いはない。スレイヤーであれば一目見ればそれはわかる。偽装する方法がないわけではないけれど、時間はかかるし、手間と時間をかけても、あまり意味がない偽装だ。風のエレメントを持つものはスレイヤーの約五分の一。エレメントで特定できることなどそれくらいしかないからだ。
「宮坂さん。いらっしゃいますか?」
ドアの横にはシンプルな文字で『Atelier MIYASAKA』と書かれている。もちろん、はじめてここに来た翡翠はそこがなにのアトリエなのか知らない。知らないはずだ。しかし、中の人物をDDも、一青も知っているようだった。それが、モヤのように心に影を落とす。
「宮坂さん。入りますよ?」
しばらく待っても返事がなかったので、断りを入れてから、DDが先行して中へ入る。
「すぐ呼ぶから。ここにいて?」
翡翠に一言言って、一青もDDを追った。中を確認して、彼は一瞬、言葉を失う。それから、気を取り直したように、ドアの外にいる翡翠に声をかけた。
「いいよ。大丈夫」
呼ばれて、翡翠も中に入った。
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