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はなびら
03-7
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「広いよ。博物館とか、美術館も近いし」
一青の背中から微かに感じる嫌な感覚。ずっと、髪を引っ張られているような気がする。しかも、それは、一青から引き離そうとしているように思えて、明確に不快だと感じた。
「今日は無理だけど、時間があるときまた来たいな」
だからだ。
翡翠はわざと甘えるように、一青の手を握った。それから、その肩に寄りかかる。
「そだな。一緒に来よう。ここ以外にも、色々な場所に行きたい」
公園に向かう道にはたくさんの人がいた。そんな場所で翡翠が甘えることなんてあまりない。らしくない行動だと、翡翠自身も分かっていた。
「ん。いつか。俺の育ったところにも、一青を連れて行きたいな」
そして、今、翡翠がしていることが、いけないことだと、翡翠自身も理解している。それでも、それを理解したうえで、そうせずにはいられなかった。
「翡翠。……いいな。それ。行ってみたい」
ただ、一青は、ぎゅ。と、翡翠の肩を抱いて、そう言った。顔を見ると、喜びの色が溢れているのが分かる。
「ヤバい。……キスしたい」
翡翠の耳元に唇を寄せて、一青が囁く。
翡翠の何気ない一言で、こんなに一青が喜んでくれる。その表情が、さらに翡翠を幸せにしてくれた。
「いいよ」
その顔があんまり幸せそうだったから、そう答えると、一青はすごく驚いた顔になった。
「あ。うそ。冗談」
その顔に慌てて否定する。今、自分がしている表情はわかる。翡翠は思う。絶対に真っ赤になっている。
「なんだ。残念」
本当に残念そうにため息をついた一青に、ちょっと悪いことをしたかなと思っていると、いきなり目の前に長い睫毛に縁どられた瞼が現れた。
「?」
一瞬後になって、ちゅ。啄むみたいな可愛いキスをされたのだと、気付く。
「一青……」
「ごちそうさまです」
翡翠の顔がさらに赤く染まる。そんな反応に悪戯っぽく一青が笑った。
「ちょ……。……こ(んなところで)……な(にしてんだよ)……」
パニックを起こして一青を突き飛ばすと、一青は楽しそうに笑いながら、振り回している翡翠の手から逃れる。
「ほら、早くしないと、暗くなってバラ見えなくなるぞ」
そういって、一青は一歩前に立って歩き始める。
「……一青」
その背を見つめる。そこにはもう、あの花びらはない。
それは、翡翠の手の中にあった。
「……わかった? もう、やめなよ」
一青に聞こえないように小さく小さく呟いて、翡翠はそれにふ。と、吐息を吹きかける。そうすると、その花びらはまるで、生きている蝶のようにひらひら。と、宙に舞い上がった。そして、そのまま風に逆らって飛んでいく。
「……次は……」
「翡翠」
振り返った一青に、翡翠は笑顔を浮かべた。
「うん。行こう」
一青の手を握って、歩き出す。
翡翠の手を離れた花びらは、遠く、彼らが歩いてきた方角へと帰っていった。
一青の背中から微かに感じる嫌な感覚。ずっと、髪を引っ張られているような気がする。しかも、それは、一青から引き離そうとしているように思えて、明確に不快だと感じた。
「今日は無理だけど、時間があるときまた来たいな」
だからだ。
翡翠はわざと甘えるように、一青の手を握った。それから、その肩に寄りかかる。
「そだな。一緒に来よう。ここ以外にも、色々な場所に行きたい」
公園に向かう道にはたくさんの人がいた。そんな場所で翡翠が甘えることなんてあまりない。らしくない行動だと、翡翠自身も分かっていた。
「ん。いつか。俺の育ったところにも、一青を連れて行きたいな」
そして、今、翡翠がしていることが、いけないことだと、翡翠自身も理解している。それでも、それを理解したうえで、そうせずにはいられなかった。
「翡翠。……いいな。それ。行ってみたい」
ただ、一青は、ぎゅ。と、翡翠の肩を抱いて、そう言った。顔を見ると、喜びの色が溢れているのが分かる。
「ヤバい。……キスしたい」
翡翠の耳元に唇を寄せて、一青が囁く。
翡翠の何気ない一言で、こんなに一青が喜んでくれる。その表情が、さらに翡翠を幸せにしてくれた。
「いいよ」
その顔があんまり幸せそうだったから、そう答えると、一青はすごく驚いた顔になった。
「あ。うそ。冗談」
その顔に慌てて否定する。今、自分がしている表情はわかる。翡翠は思う。絶対に真っ赤になっている。
「なんだ。残念」
本当に残念そうにため息をついた一青に、ちょっと悪いことをしたかなと思っていると、いきなり目の前に長い睫毛に縁どられた瞼が現れた。
「?」
一瞬後になって、ちゅ。啄むみたいな可愛いキスをされたのだと、気付く。
「一青……」
「ごちそうさまです」
翡翠の顔がさらに赤く染まる。そんな反応に悪戯っぽく一青が笑った。
「ちょ……。……こ(んなところで)……な(にしてんだよ)……」
パニックを起こして一青を突き飛ばすと、一青は楽しそうに笑いながら、振り回している翡翠の手から逃れる。
「ほら、早くしないと、暗くなってバラ見えなくなるぞ」
そういって、一青は一歩前に立って歩き始める。
「……一青」
その背を見つめる。そこにはもう、あの花びらはない。
それは、翡翠の手の中にあった。
「……わかった? もう、やめなよ」
一青に聞こえないように小さく小さく呟いて、翡翠はそれにふ。と、吐息を吹きかける。そうすると、その花びらはまるで、生きている蝶のようにひらひら。と、宙に舞い上がった。そして、そのまま風に逆らって飛んでいく。
「……次は……」
「翡翠」
振り返った一青に、翡翠は笑顔を浮かべた。
「うん。行こう」
一青の手を握って、歩き出す。
翡翠の手を離れた花びらは、遠く、彼らが歩いてきた方角へと帰っていった。
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