【これはファンタジーで正解ですか?】

司書Y

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はなびら

03-6

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「仕事。早かったんだね」

「うん。順調に終わった」

 そう言って、一青は、翡翠の隣に並ぶ。

「少し遠回りして帰ろ? 中央公園のバラ園が綺麗なんだってさ」

 一青の誘いに翡翠は頷いた。昨夜、外食したばかりなので、夕食までの短い時間の回り道だけど、二人きりの時間が過ごせるのは嬉しい。

「病院どうだった?」

 隣で歩きながら、一青が訊ねる。

「うん。問題ないって。安定してる」

 翡翠は敢えて『何が』の部分を濁して答えた。街中で不用意に話していい話ではない。

「そうか。よかった」

 翡翠が言葉を濁したことを一青が不審に思うこともない。一青だって理解しているからだ。
 
「ホントは俺も付き添いたかったけど……」

 一青は週一の病院通いにできる限り同行してくれた。仕事を優先してくれと頼んだのは翡翠の方で、もちろん、一青が気にすることなど何もない。

「大丈夫。安定しているし、大泉先生がいるんだから、心配いらないよ」

 反対に言えば、大泉医師がいるからこそ、一青は翡翠を一人病院に行かせることができるのだ。それくらい、大泉医師に対する一青の信頼は厚い。

「あそだ。これ。和臣さんからお土産もらったよ? 京都行ってきたって。お茶と魔符用の和紙」

 袋の口を開いて見せると、一青は苦笑した。

「お茶はともかく……魔符の話どっから聞き込んだんだよ」

 そうして、翡翠と同じ疑問を口にした。もちろん、話の出所がどこかなんて想像がついているのだろう。

「あの人。地獄耳だよな」

 もつよ。と、翡翠の手から紙袋を取り上げて、一青は笑った。

「そんなこと言って、この会話だって、聞かれて……」

 その言葉を言ったその時だった。くん。と、後ろ髪を引かれた。昨日よりはっきりと。

「翡翠?」

 会話の途中で黙り込んだ翡翠に一青が怪訝そうな表情を浮かべる。

「あ。いや。何でもない。虎徹さんにプランターの水やり頼み忘れたの思い出した」

 上手く表情を作れた自信はない。自分の表情筋の動かし方が、表情に現れないという特殊な状態で育った翡翠にはまだ、上手く自分をコントロールできていなかった。

「大丈夫。あの人ならちゃんと先読みしてくれるから」

 誤魔化されてくれたのか、誤魔化されているふりをしてくれているのかわからないけれど、一青の態度は変わらなかった。

「うん。そういえば。中央公園歩くのはじめてなんだよね。図書館はこの間連れてってもらったけど」

 口では何気ない話を話し始めたけれど、心は別のことを考える。
 ちらり。と、視線を向けると、一青の背中に見える。桜の色をした花びら。昨日と同じものだ。
 けれど、翡翠は、それを一青に言わなかった。かわりに前を向く。
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