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はなびら
03-3
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「私は、君がスレイヤーに復帰することに反対はしない」
スレイヤーに復帰したいという意志を、翡翠は面談に来た魔法庁の職員にも伝えてある。もちろん、いい顔はされなかった。というよりも、遠回しな言い方だが、拒絶された。
しかし、大泉医師は、ゲートが元通り修復されて、安定性がある程度担保されれば復帰をしてもいいと報告書を提出してくれた。それは、翡翠の心情を慮ってくれたからだけではなく、多くの症例を見てきた彼の妥当な判断だと言える。だから、大泉医師が答えを渋るのは単に希少な人型ゲートが勝手な振る舞いをすることを懸念しているわけではないのだ。
「ただ……これは老婆心というやつかもしれんが……訓練とはいえ、攻撃を受けることが、今の安定を崩してしまうかもしれない。今はまだ、君のゲートにあまり刺激を与えたくはない」
彼は医師として、家族として、純粋に翡翠の身体を心配している。
「窮屈かもしれんが。もう少し辛抱してくれまいか? 私は医者だ。患者の身体の健康を守る義務がある」
「わかりました」
大泉医師のまっすぐな視線に淀みは一切ない。身体のことは大泉医師に任せると決めた。だから、翡翠は素直に頷いた。
「体力が落ちて、情けないくらいに身体が動かないから、少し……焦ってしまって。困らせてすみません」
子供のように我儘を言ってしまったと、少し恥ずかしくなって俯くと、その頭にぽん。と、大泉医師の手がのった。
「翡翠の気持ちは分かっているよ。この程度のことならいつでも困らせてくれて構わない。我慢しなくていい」
普通なら、成人した男の頭を撫でるなんてしない。ただ、翡翠が両親の愛に飢えていることを大泉は理解してくれている。だからこんなふうにわざと大袈裟に子ども扱いをしてくれるのだ。
「戦闘訓練のことは、身体の様子を見ながら決めていこう。君の自由を束縛するために許可を出さないような真似は絶対にしないことは約束する」
そのことについて、翡翠が大泉医師を疑うことはありえない。翡翠は彼の人格や医者としての矜持を信じていた。
「ああ。ところで」
翡翠の頭から手を離して、大泉医師は話しを変えた。
「今日君が来ると話したら、これを渡すように和臣に頼まれたのだが……」
机の脇の椅子の上に置いてあった紙袋を差し出して、大泉医師が言った。袋に『宇治・泉屋』と言うロゴが入っている。
「仕事で京都へ行っていたんだが、土産だそうだ」
渡された袋の中を覗くと、そこには明らかに高級そうな包みの箱と、取っ手のない紙袋が入っていた。
「箱の方はお茶だ。あれのお気に入りでね。君なら味を分かってくれそうだと言っていた。それから、もう一つの包みは紙だよ。魔符作りを再開すると聞いて、お祝い代わりだそうだ」
「……え? 魔符作り再開するの、話したのうちの住人だけなんですけど……誰に聞いたんですか?」
顔をあげて大泉医師の顔を見ると、苦笑いを浮かべている。
「おそらくは、隼人君だろう。割と頻繁にSNSで連絡を取り合っているらしい。すまんな。守秘義務も何もあったもんじゃない」
申し訳なさそうに話す大泉医師に、和臣の笑顔を思い出して、翡翠は思わず吹き出した。
「いいです。知られて困ることじゃないし、隼人だって和臣さんだから話したんですよ。信頼してるんです……っていうか、家族だって、俺が思ってるの知ってるから」
翡翠の笑顔に大泉医師も笑顔になる。
スレイヤーに復帰したいという意志を、翡翠は面談に来た魔法庁の職員にも伝えてある。もちろん、いい顔はされなかった。というよりも、遠回しな言い方だが、拒絶された。
しかし、大泉医師は、ゲートが元通り修復されて、安定性がある程度担保されれば復帰をしてもいいと報告書を提出してくれた。それは、翡翠の心情を慮ってくれたからだけではなく、多くの症例を見てきた彼の妥当な判断だと言える。だから、大泉医師が答えを渋るのは単に希少な人型ゲートが勝手な振る舞いをすることを懸念しているわけではないのだ。
「ただ……これは老婆心というやつかもしれんが……訓練とはいえ、攻撃を受けることが、今の安定を崩してしまうかもしれない。今はまだ、君のゲートにあまり刺激を与えたくはない」
彼は医師として、家族として、純粋に翡翠の身体を心配している。
「窮屈かもしれんが。もう少し辛抱してくれまいか? 私は医者だ。患者の身体の健康を守る義務がある」
「わかりました」
大泉医師のまっすぐな視線に淀みは一切ない。身体のことは大泉医師に任せると決めた。だから、翡翠は素直に頷いた。
「体力が落ちて、情けないくらいに身体が動かないから、少し……焦ってしまって。困らせてすみません」
子供のように我儘を言ってしまったと、少し恥ずかしくなって俯くと、その頭にぽん。と、大泉医師の手がのった。
「翡翠の気持ちは分かっているよ。この程度のことならいつでも困らせてくれて構わない。我慢しなくていい」
普通なら、成人した男の頭を撫でるなんてしない。ただ、翡翠が両親の愛に飢えていることを大泉は理解してくれている。だからこんなふうにわざと大袈裟に子ども扱いをしてくれるのだ。
「戦闘訓練のことは、身体の様子を見ながら決めていこう。君の自由を束縛するために許可を出さないような真似は絶対にしないことは約束する」
そのことについて、翡翠が大泉医師を疑うことはありえない。翡翠は彼の人格や医者としての矜持を信じていた。
「ああ。ところで」
翡翠の頭から手を離して、大泉医師は話しを変えた。
「今日君が来ると話したら、これを渡すように和臣に頼まれたのだが……」
机の脇の椅子の上に置いてあった紙袋を差し出して、大泉医師が言った。袋に『宇治・泉屋』と言うロゴが入っている。
「仕事で京都へ行っていたんだが、土産だそうだ」
渡された袋の中を覗くと、そこには明らかに高級そうな包みの箱と、取っ手のない紙袋が入っていた。
「箱の方はお茶だ。あれのお気に入りでね。君なら味を分かってくれそうだと言っていた。それから、もう一つの包みは紙だよ。魔符作りを再開すると聞いて、お祝い代わりだそうだ」
「……え? 魔符作り再開するの、話したのうちの住人だけなんですけど……誰に聞いたんですか?」
顔をあげて大泉医師の顔を見ると、苦笑いを浮かべている。
「おそらくは、隼人君だろう。割と頻繁にSNSで連絡を取り合っているらしい。すまんな。守秘義務も何もあったもんじゃない」
申し訳なさそうに話す大泉医師に、和臣の笑顔を思い出して、翡翠は思わず吹き出した。
「いいです。知られて困ることじゃないし、隼人だって和臣さんだから話したんですよ。信頼してるんです……っていうか、家族だって、俺が思ってるの知ってるから」
翡翠の笑顔に大泉医師も笑顔になる。
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