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はなびら
01-1
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それ。
に、気付いたのは、よく晴れた日の夕方のことだった。
スレイヤーという職業は毎日作戦行動があるわけではない。事務所に所属しているスレイヤーは月に何日間かの予定作戦行動と、緊急の出動要請のための待機日。報告書や提出書類作成日。訓練。などで、週の内4日以上は家を空ける。作戦行動中は帰ってこないことも多いし、それが何日にも、長ければ数週間にもわたることもある。定休日は存在せず、待機日以外も呼び出しがあれば、任意で応じるし、大事であれば任意ではなく強制力を持った招集もある。
比較的平和な『横浜ドーム』内では、緊急の呼び出しは多くはないけれど、一青も平均的なサラリーマン程度には家を空ける。
その日、一青は作戦行動ではなく、報告書の提出のために事務所に出勤して、夕方に帰る予定だったから、その予定に合わせて、翡翠は買い物を終わらせて、護衛の隼人と一緒に家路についていた。
季節は初夏。魔道ガラスの向こうに見える太陽の色はオレンジに近い黄色に見える。と、言っても夕暮れと言うほどの時間ではない。風向きによって近くの大型ゲートから溢れた魔昏がドームの外を覆い、太陽の光を変質させてこんな色に見えるのだ。それほど変化が大きくない横浜のドームでは、あまり見られないが、有名観光地では七色に変色する魔昏の光を見るツアーが組まれているほど、それはありふれた、けれど、美しい光景だった。
「綺麗だ」
その光に手を翳して、翡翠は独り言のように呟く。
オレンジ色の光は見た目には暑そうに見えるけれど、暑いとは感じない。ドームの中は温度も湿度も完全にコントロールされているからだ。ある程度の季節や気候の変化はあっても、かつての日本のような酷暑や厳寒の気候は存在しない。もちろん、ドームの中は。と、但し書きがつくのだが。
「日に焼けるよ?」
植物などの育成上の理由で、魔道ガラスは魔昏や魔道塵、雨は遮っても紫外線は遮らない。雨はコンピューター制御で人が活動しない夜間を中心に降らせている。だから、出かけるときは大抵『晴れ』か『くもり』だ。
だから、長袖に、つばのある帽子。ストールを巻いて、日傘までさして、隼人は言った。生まれつき色素が極端に薄い彼は日光に弱い。日焼け止めを塗りまくった上に完全防備だ。
「俺は隼人とは違うから、少しくらい日に焼けたって大丈夫だよ」
あまりに厳重にしているのが少し可笑しくてそう答えると、隼人は怒るでもなくすました顔になる。
「そんなこと言って、翡翠の綺麗な肌が真っ黒になったら、一青が嘆くよ?」
くるくる。と、手に持った日傘を弄びながら、そんなことを言う。
「一青だって、男の俺にそこまで求めてないって」
苦笑しながらそう応えると、隼人は呆れ顔になった。
「わかってないね。翡翠はわかってない」
やれやれ。と、ため息混じりに首を振って、隼人は翡翠の前に立ち塞がる。
長く白い髪に透けるようなアクアマリンの瞳。肌は石膏のように白い。首筋に薄く浮かぶ血管の色も相まって殆んど作り物のようだ。
「恋人の健やかな美しさを守りたいと願うのは人類共通の本能だよ?」
そう言ってから、隼人は人懐こい笑顔を浮かべる。くるくる。と、よく変わる表情が人形のようなその印象をがらり。と変えさせていた。
「別に日焼けしたところで、健やかなことに変わりないだろ?」
苦笑しながら、翡翠は言う。
「大体、日焼けなんて、学生時代には日常茶飯事だったんだから、いまさらだよ」
確かに一年半の監禁生活で不健康この上ない肌色になってしまったとはいえ、元々はなんの対策もせずに戦闘訓練にも参加していた翡翠にとって、日焼け程度のことは些末な問題だ。それよりも、余程、体力の低下のほうが気になる。
いつか、スレイヤーとして復帰するために、すぐにでもトレーニングを始めたいのに、周りはそれを許してくれなかった。
「そもそも、外出だってようやくだし……」
に、気付いたのは、よく晴れた日の夕方のことだった。
スレイヤーという職業は毎日作戦行動があるわけではない。事務所に所属しているスレイヤーは月に何日間かの予定作戦行動と、緊急の出動要請のための待機日。報告書や提出書類作成日。訓練。などで、週の内4日以上は家を空ける。作戦行動中は帰ってこないことも多いし、それが何日にも、長ければ数週間にもわたることもある。定休日は存在せず、待機日以外も呼び出しがあれば、任意で応じるし、大事であれば任意ではなく強制力を持った招集もある。
比較的平和な『横浜ドーム』内では、緊急の呼び出しは多くはないけれど、一青も平均的なサラリーマン程度には家を空ける。
その日、一青は作戦行動ではなく、報告書の提出のために事務所に出勤して、夕方に帰る予定だったから、その予定に合わせて、翡翠は買い物を終わらせて、護衛の隼人と一緒に家路についていた。
季節は初夏。魔道ガラスの向こうに見える太陽の色はオレンジに近い黄色に見える。と、言っても夕暮れと言うほどの時間ではない。風向きによって近くの大型ゲートから溢れた魔昏がドームの外を覆い、太陽の光を変質させてこんな色に見えるのだ。それほど変化が大きくない横浜のドームでは、あまり見られないが、有名観光地では七色に変色する魔昏の光を見るツアーが組まれているほど、それはありふれた、けれど、美しい光景だった。
「綺麗だ」
その光に手を翳して、翡翠は独り言のように呟く。
オレンジ色の光は見た目には暑そうに見えるけれど、暑いとは感じない。ドームの中は温度も湿度も完全にコントロールされているからだ。ある程度の季節や気候の変化はあっても、かつての日本のような酷暑や厳寒の気候は存在しない。もちろん、ドームの中は。と、但し書きがつくのだが。
「日に焼けるよ?」
植物などの育成上の理由で、魔道ガラスは魔昏や魔道塵、雨は遮っても紫外線は遮らない。雨はコンピューター制御で人が活動しない夜間を中心に降らせている。だから、出かけるときは大抵『晴れ』か『くもり』だ。
だから、長袖に、つばのある帽子。ストールを巻いて、日傘までさして、隼人は言った。生まれつき色素が極端に薄い彼は日光に弱い。日焼け止めを塗りまくった上に完全防備だ。
「俺は隼人とは違うから、少しくらい日に焼けたって大丈夫だよ」
あまりに厳重にしているのが少し可笑しくてそう答えると、隼人は怒るでもなくすました顔になる。
「そんなこと言って、翡翠の綺麗な肌が真っ黒になったら、一青が嘆くよ?」
くるくる。と、手に持った日傘を弄びながら、そんなことを言う。
「一青だって、男の俺にそこまで求めてないって」
苦笑しながらそう応えると、隼人は呆れ顔になった。
「わかってないね。翡翠はわかってない」
やれやれ。と、ため息混じりに首を振って、隼人は翡翠の前に立ち塞がる。
長く白い髪に透けるようなアクアマリンの瞳。肌は石膏のように白い。首筋に薄く浮かぶ血管の色も相まって殆んど作り物のようだ。
「恋人の健やかな美しさを守りたいと願うのは人類共通の本能だよ?」
そう言ってから、隼人は人懐こい笑顔を浮かべる。くるくる。と、よく変わる表情が人形のようなその印象をがらり。と変えさせていた。
「別に日焼けしたところで、健やかなことに変わりないだろ?」
苦笑しながら、翡翠は言う。
「大体、日焼けなんて、学生時代には日常茶飯事だったんだから、いまさらだよ」
確かに一年半の監禁生活で不健康この上ない肌色になってしまったとはいえ、元々はなんの対策もせずに戦闘訓練にも参加していた翡翠にとって、日焼け程度のことは些末な問題だ。それよりも、余程、体力の低下のほうが気になる。
いつか、スレイヤーとして復帰するために、すぐにでもトレーニングを始めたいのに、周りはそれを許してくれなかった。
「そもそも、外出だってようやくだし……」
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